第18話 来瑠々と抹茶パフェ


「そんなに叩けるのなら、一緒にバンドをやってみない? 来瑠々ちゃんみたいなドラマーなら、大歓迎なんだけど」


 私は流れで軽く勧誘してみた。しかし、その言葉を言い放つと同時に、来瑠々ちゃんの表情は曇り始める。


「……ごめんなさい。それは無理なことになっていマス」

「『無理なこと』……? そういう言い方をするってことは、もしかして親から禁止されているとか?」

「いいえ……。親ではないんデスが、とある人とそういう約束をしているんデス」


 とある人というワードで、先日私の首根っこを掴んできたあの喧嘩っ早い女子生徒を思い出した。


「まさかだけど、それって背の高くて喧嘩の強そうなあの人じゃないよね?」


 すると、来瑠々ちゃんは驚いた様子で私の目を見る。

ようのこと、ご存知なんデスか?」

「う、うん、まあ……。この間、ワンダーフォーゲル部には金輪際近づくなって警告されたよ。首根っこも掴まれた」

「そうデスか……。すいません、葉は喧嘩っ早いところがあるので……」

「ま、まあ、殴られはしなかったからなんともなかったけど。……えっ? まさか本当にあの人との約束なの!?」

「はい。確かに葉との約束デス。部外の人とあまり積極的に関わらないようにと、私はワンダーフォーゲル部に入れられました」


 部外の人と積極的に関わらないように。それはつまり、ワンダーフォーゲルの部内に閉じ込められていると言い換えてもいい。ましてやあの武闘派な葉という子のことだ、暴力的に来瑠々ちゃんが抑えつけられているのは想像に易い。

 

「それって束縛じゃん! なんの権利があって来瑠々ちゃんの生活を制限されなきゃいけないんだよ」

「でもしょうがないんデス。私は立場上、葉に逆らうわけにはいかないので」

「立場上って……、何か弱みを握られているの……?」


 私はそう訊くと、来瑠々ちゃんは愛想笑いをする。


「そうデスね……、ここで話すのもなんデスから、お茶でもしましょう。私、近くに抹茶パフェの有名なお店を知ってマスよ」


 ヒートアップしそうなところでうまいこと話をかわされ、ひとまず移動することにした。

 ホイホイと私と雫ちゃんがつられた先は、古民家風のカフェだった。ドラムプレイ用の薄着からアメカジスタイルな私服に着替えた来瑠々ちゃんが、どうぞどうぞとまるで店員さんのように私たちをいざなう。


 オーダーをしてしばらく待っていると、出てきたのは見事な抹茶パフェだった。

 名産の西尾の抹茶を惜しむことなく使用し、白玉とあんこ、わらびもちが良いアクセントになっている。


「……めちゃくちゃ美味しいです。こんなお店があったんですね!」


 パフェを口にして一番感動していたのは甘党の雫ちゃんだった。甘いものこそ世界を救うと思っているのではないかというくらい、和洋問わず甘いものには目がない。

 

「そうでしょう? これこそ私が求めていた究極の抹茶パフェなのデス!」


 来瑠々ちゃんは得意げにどや顔を見せつける。確かにおいしいので自慢したくなる気持ちもわからないでもない。


「それで……、本題のほうなんだけど」

「おお、そういえばそうでした。葉のこと、ちゃんと話しておかないとデスね」


 一通り食べ終わってから、来瑠々ちゃんはついにその重い口を開けた。


「実は私の実家は、建築の設計会社をやっていマス」

「設計会社……? つまり、建築家ってこと?」

「平たく言えばそうデス。建物を設計して、実際に工事をする建設会社に発注しマス。……葉、中村なかむらようの家は、うちと長いこと付き合いのある建設会社なのデス」

「……もしかしてそれは、来瑠々ちゃん実家の取引先だからって理由で中村さんに口出しできないってこと?」

「まあ……、大体そういうことになりマス」


 あまりにも横暴だと、私はそう思った。

 力だけではなく、経済的な面からも中村さんは来瑠々ちゃんを縛り付けていたのだ。

 


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