第15話 ヤンキーとソフトクリーム
「迷惑って……、ちょっと待ってよ。そっちこそ何者なんだよ」
「……何者でもいいだろ、お前らには関係ない。とにかく二度と現れんな。次ここに来たらタダじゃおかねえ」
「理由もなく来るななんて言われても納得できないんだけど」
「ちっ……、だったら実力行使するしかねえな……」
その瞬間、女子生徒は私の首根っこを掴みかかった。
私自身も女子にしては背の高いほうだけれども、この人はさらに背が高くて久しぶりに見下される感覚を味わう。
喧嘩慣れしているのだろう。首元を握る強さは半端ではない。まともにやりあったら勝ち目はないと一瞬でわかった。
「……わ、わかったよ。近づかないようにするから」
「ならいい。でもなあ、このことを他言したらどうなるか、わかってるよな?」
私も雫ちゃんもは彼女の言葉に従うしかなかった。
暴力に屈するのは嫌な気分だけれども、このまま反抗したところでただやられるだけだ。戦略的撤退も時には必要。
逃げるように部室棟を出た私と雫ちゃんは、とりあえず作戦会議をしようということで近所のショッピングモールのフードコートに立ち寄った。
「怖い人でしたね……、あの人もワンダーフォーゲル部の人なんでしょうか」
「おそらくそうだと思う。……でも、何か変だよね」
「はい……。暴力をちらつかせてまで、私たちを遠ざけたい理由が気になります」
スガキヤで買ったソフトクリームをつつきながら、あの女子生徒が私たちに因縁をつけてきた理由を考える。
しかし、そんなことはいくら考えてもわかりはしない。
「まあ、考えたところで仕方がないか。ワンダーフォーゲル部以外にも協力してくれそうなところがないか探して見るほうがいいかもね」
「そうですね。マグワイアさんみたいな人が他にもいるかもしれないですから」
「そうなると、また向井さんに協力をお願いしないとなあ」
「大活躍ですね、向井さん」
私はハハハと苦笑いする。
思えば前世でも、バンド活動を始めた頃は色々苦労をした覚えがある。
シズカと音楽の趣味が合致して意気投合したのはいいけれど、メンバーを探したりとか、練習場所を確保したりとか、活動をするための土台づくりが大変だった。今となってはいい思い出だけど。
上手くいかないときはだいたい、シズカと深夜に練習スタジオに入って朝までひたすら好き放題楽器を鳴らしていた。
ストレス解消ももちろんだけれども、思いがけないアイデアなんかはそういうときに生まれたりする。
思えばあのストリートライブ以降、雫ちゃんと一緒に楽器を鳴らすことをやっていない。
ちょっと息抜きに、雫ちゃんをスタジオへ誘ってみようか。
「そういえば雫ちゃん、今週末は空いてる?」
「空いてますけど……? それがどうかしましたか?」
「いんや、気晴らしにスタジオでも入ろうかなって」
「スタジオ……ですか?」
雫ちゃんは頭上に疑問符を浮かべる。その様子だと、『スタジオ』という言葉にピンときていない可能性がある。
私が思い浮かべているバンド練習を目的としたスタジオではなく、テレビ番組の収録に使うようなスタジオをイメージしている。前世でシズカと意気投合したばかりの頃も彼女が同じような勘違いをしていたなと、私は更にシズカの影を雫ちゃんに重ねていた。
「ああ、そっちのスタジオ……。ですよねですよね、私ったら勘違いを……」
「ふふふ、いいのいいの。おそらく誰もが経験することだろうし」
「すいません、練習といえば部室ばかりで、外のスタジオを使うことを考えたことがなくて」
「毎回通っていたら結構お金もかかるからね。本当は部室が良いんだろうけど、今回は状況が状況だから」
「そうですね。家では大きな音も出せませんし、行きましょう」
笑顔を浮かべた雫ちゃんは、プラスチックのスプーンでカップに入ったソフトクリームをすくう。
少食なくせに、甘いものだけはちゃんと食べる姿が、やっぱりシズカそっくりだった。
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