第8話 王子と情報通
放課後になって、どうしたものかと私は中庭のベンチに座りながら頭を抱えていた。とりあえず、一時雫ちゃんとバンドを組んでいた人を捜して話を聞くのが良いかもしれない。
誰に聞いたらいいのか悩んでいると、先程雫ちゃんのクラスを訪ねたときに声をかけた女子生徒が話しかけてきた。
よくわからないけど私のファンだという彼女は、顔が広くて情報通らしい。これはチャンスと思って根掘り葉掘り聞いてみると、事実関係がだんだんわかってきた。
「あー、元軽音楽部の子なら何人か知ってるっすよ? 王子に紹介してあげましょうか?」
「王子はやめてよ王子は……。別に紹介はしてもらわなくてもいいんだけど、その人たちと雫ちゃんの仲がどうだったか知らないかな?」
「うーん、仲は別に良くも悪くもって感じじゃないっすかね。でも、みんな口を揃えて言ってましたよ。岸田さん、歌はうまいし楽器は何でもできるし曲も作れるから、レベル高すぎてついていけないって」
情報通の子は思い出すように話を続ける。
「楽器初心者にも岸田さんは丁寧に教えてくれたっすね。まあ、上手すぎる岸田さんを見て自分には無理だと思う人も結構いたみたいっすけど」
「それって、根本的に雫ちゃんと他の人とでモチベーションが違ったってこと?」
「そうじゃないっすかね。体育会系の部活でもよくあるじゃないすか。インターハイ目指す人と三年間楽しみたい人同士で衝突したり。多分、それと似たような感じなんじゃないすかね? よくわかりませんけど」
「だから軽音楽部に人が定着しなかったということか……」
「みたいっすね。辞めた人の中には結構口の悪い人もいたみたいで、『岸田さん一人で音楽をやればいいんじゃない? 今どきバンドじゃなくても音楽なんて一人でできるでしょ?』なんて言われてたみたいっすよ」
それでピンときた。もしかしたら雫ちゃんは当初、今の私と同じことを考えていたのかもしれない。
必死に音楽に打ち込んで、Shizへの手がかりを掴む。そのために部活を頑張るという、明確なモチベーションがあった。
しかし軽音楽部に入りたがる人は皆、雫ちゃんと違って学校生活を彩るために楽器に触りたい。いわばエンジョイ勢だ。
私も前世で経験したことがあるからわかる。目的も熱意も違う人同士では、どんなに仲が良くても最終目的地へはたどり着けない。これは誰が悪いという問題ではなく、ただめぐり合わせが悪かっただけに過ぎないのだ。
でも雫ちゃんはそれによって、『自分は人に好かれない、バンドを組んでもすぐに解散してしまう』と勘違いをしてしまっている。それならば、私からその勘違いを正すアプローチを仕掛けられないだろうか。
自身は必死に音楽に打ち込みながら初心者にも丁寧に教えていたりと、雫ちゃんは至極真っ当な活動をしているのだ。真っ当に生きている人が報われないのは、あまりにも悲しすぎやしないだろうか。
私は何かこの問題を解決するいい方法がないかと頭のなかを巡りに巡らせた。
「……ちなみに君、やけに軽音楽部について詳しいね」
「そりゃそうっすよ、私も軽音楽部に入ろうかなと思った一人なので」
「えっ、そうだったの?」
「まあ、私は周りからそういう話を聞いて、ド素人じゃ無理だと思って入るのやめたんすけど」
「もしかして雫ちゃんのこと、あんまり良く思っていない?」
「そういうわけじゃないっす。むしろあれだけできる人が音楽辞めちゃうの、私はもったいないと思うんすよね。ライブをやってるところくらい、一度見てみたかったなって」
情報通の子のその一言で私は何か思いついた。
一か八か、この方法で雫ちゃんの気持ちを動かせないだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます