第6話 雫と希空
「そろそろ気が済んだ? 雫、期限までにこの部室をきちんと明け渡してくれる約束でしょ?」
扉を開けたのは一人の女子生徒だった。この人は校内では有名人なので、私のような一般生徒でも名前くらいは知っている。
「
「早くして。もう次の部活がこの部屋を使いたいって、生徒会室まで急かしに来るのよ」
「うん、わかったよ……、ごめんね」
突然現れた彼女の名前は、
同じ二年生で私とは別のクラスだけれども、彼女がいるだけでクラスの空気感が変わるくらい、規律に厳しい人だというのは噂で知っている。
雫ちゃんが「希空ちゃん」と呼ぶあたり、二人は知り合いなのだろう。
生徒会の腕章をして腕組みをする彼女は、雫ちゃんへ早くこの部屋から出るよう忠告する。
「ちょ、ちょっと待って雫ちゃん、部屋を出ていけってどういうこと? この部室、軽音楽部の部室だよね?」
「そうね、確かに軽音楽部の部室だわ。――今日まではね」
雫ちゃんの代わりに答えたのは古川さんだった。
今日までというのは、一体どういうことなのだろうか。
「軽音楽部……、今日を持って消滅するんです。部員が私しかいないので」
「そういうこと。この部室は他の部が使うから、雫には早く出ていってほしいってわけ」
軽音楽部が今日でなくなる。それはつまり、さっき言った『雫ちゃんが有名になってShizに存在を認識してもらう』という私のシナリオが根底から揺らぐことになる。
私たちはまだまだ高校生だ。この部活と部室がなければ、そもそも音楽活動を行うことすら難しい。
それがなくなってしまうとなると、また一から……、いや、ゼロからのスタートになってしまう。
「待ってよ、じゃあ今から私が軽音楽部に入るから、それでなんとかならない?」
「ならないわ。部活動は三人以上と校則で決まっているの。去年の秋に先輩が引退して軽音楽部は規定の人数を割り込んだ。この春まで猶予したけれど、部員は雫だけだから取り潰し。そういう決まり」
「そんな……」
私はがっくりとうなだれた。
せっかくShizへの道がひらけたというのに、一気に閉ざされてしまったのだ。
「お遊びはもう良い? それじゃあ雫、軽音楽部の部室の鍵をちょうだい」
「う、うん……」
雫ちゃんは部室の鍵を古川さんへ渡す。その瞬間、雫ちゃんは泣き出したくなってしまったのか、逃げるようにこの場から走り去ってしまった。
「……ごめんね、雫。私のせいだ」
雫ちゃんがいなくなったあと、古川さんが悲しそうな表情で小さく呟いていた。
この二人に何があったのだろうと考える余裕は、今の私にはなかった。
※僭越ながら、本日は水卜みうさんの誕生日です
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