第5話 雫とお姉ちゃん
Shizが雫ちゃんの姉? つまりどういうこと?
「い、意味分からないですよね……、さっき会ったばかりの人に『私はShizの双子の妹かもしれないです』なんて言っても、アホなのかなって思いますよね……」
「い、いや、アホとは思わないよ。むしろ雫ちゃんは嘘をつかなそうな人に見えるから、予想外すぎて驚いちゃったと言うか……。でも、そう思う理由がちゃんとあるんでしょ?」
「はい。根拠としては弱いかもしれないんですけど、小さい頃に姉が『親愛なるあなたへ』を口ずさんでいた記憶が薄っすらとあって……。あとは、ちょっと私と声が似ているかなって思っていて……」
普通の人が聞いたらそんなの根拠でもなんでもないというかもしれない。でも、私はそうは思わなかった。
自分もシズカ……いや、Shizも転生してきた存在であるからこそ、たったそれだけのエピソードでも十分信じる根拠にはなると私は思ったのだ。
「あとは蛇足ですけど、お姉ちゃんの名前、『
「そんなことないよ。私はそれ、十分信じて良いと思う」
悄気げている雫ちゃんにそう声をかける。ちょっと遠慮気味に振る舞う雫ちゃんが、これまたシズカそっくりだった。
「私、やっぱりお姉ちゃんに会いたいんです。小さい頃に両親が離婚して別々に暮らすようになってから、全然音沙汰がなくて……」
「なるほどね、そこで偶然Shizを見つけて、聴いたことのある歌があって……ということか」
「……はい。十中八九、私の思い込みだとは思うんです。でも、ちゃんとこの目で確かめたいなって思って……」
Shizが雫ちゃんの姉であるか確かめたいという気持ちはわかった。しかし、会って確かめる方法がない。
顔出し一切なし、コンタクトを取れるのも一部の人だけ、そうなると会うことはおろかファンレターすら送れるか怪しいくらいだ。
私もShizにはものすごく興味が湧いている。というより、ほぼシズカで確定だとすら思っている。
雫ちゃんに負けないくらい、私もShizに会いたい。会って話がしたい。あの時、私が間違ったサポートをしてしまったことをきちんと謝りたい。そんな想いがどんどん溢れてきていて、行動したくてしょうがなかった。
そこで私は一つ方法を思いつく。確実ではないけれど、絶対にShizに近づけるだろう方法を。
「じゃあ雫ちゃん、いっそのこと自分が有名になって、Shizに会いに行けばいいんじゃないかな?」
私はそんな突拍子もない提案をする。
さっきShizの妹かもしれないと打ち明けられたときの私と同じ顔を雫ちゃんが浮かべていた。
そりゃそうだ、彼女からしたら、全く意味の分からないことを私は言っているのだから。
「ゆ、有名にって……、深雪さん、それ本当に言っているんですか?」
「大真面目だよ? 有名になったらShizのほうが雫ちゃんに気がついて、近寄ってくるかもしれないし」
「それは……、確かにそうかも知れませんけど……」
雫ちゃんは私の言い分を理解しながらも困惑していた。
「で、でも、有名になるなんてそんな簡単にできることじゃないですよ……」
「まあねー。簡単にはいかないと思う。でも、できないことでもないなって思わない?」
「それは……、難しいかなと思います」
雫ちゃんは自信なさそうにそう言う。
しかし、私は全く不可能とは思わない。むしろ、一番の正攻法ですらないかと考えている。
「難しくないよ。何も雫ちゃん一人でやる必要はないって、私もいるし、他に協力してくれる人も絶対いるって」
「そんな人、いないですよ……」
「いるいる。絶対にいるって。それにさっき雫ちゃんの歌をちょっと聴いたけど、全然イケる感じだったよ? Shizの双子の妹なんだから、絶対に素質あるって」
雫ちゃんは閉口してしまった。自分に自信がないところまでシズカそっくりだ。
お世辞でもなんでもなく、さっき雫ちゃんが歌っていたのを聴いて私はイケると思った。
Shizと雫ちゃんが双子であるだろうから、スペック的にはほぼ同じはず。
Shizはシズカであるだろうから、当然前世の上積みがある。ボイストレーニングとか、作曲の理論とか、そういったものを身に着けている分、間違いなくShizのほうが上。
おそらく雫ちゃんは自分とShizとの差、要は足りない部分を気にしている。
でも、そんな雫ちゃんに私や他の人が味方についたらどうなる?
腐っても私はメジャーデビューを経験したギタリストだ。そんじょそこらの女子高校生よりはギターを弾けるし、音楽に関する色々なノウハウを持っている自負がある。協力してくれる人だって、少なからず出てくる。
バンドを組んでライブ活動をしたり、それこそShizのようにネットで音楽を公開したりすれば、自ずと道はひらけてくる。私はそう考えた。
「だからちょっと挑戦してみない? 私、こう見えてギター弾けるんだよね。一緒にバンドでもどうかな? ここ、軽音楽部でしょ?」
「……ごめんなさい、お断りします」
希望が見えてきたところだった。しかし、雫ちゃんはなぜか私の誘いを丁重に断ったのだ。
「どうして?」
「私、バンドを組んでも上手くいかなくてすぐに解散しちゃうんです。それに……」
雫ちゃんがさらに何かを言いかけた途端、軽音楽部の部室の扉が突然開いた。
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