才能のありふれる世界で無能力者

現実離れしたありふれた話。

転生。

それを目の前にしてる。

人混みの足音。

商売の喧騒。

もと居た世界じゃ見られないような剣を背中に担いだ人。

魔法使い!エルフ!

…THE・異世界だ。


転生した原因はこの数時間前に遡る。

俺、三坂大介(36・ニート)は町をぶらぶらと歩いて帰っていた。

まぁ見た目は痩せ型のオタクBみたいな感じの冴えないおっさんだ

いつものように同人誌やゲームを探って色んな店舗を回った帰り道だった。

この日の戦果はエグいくらいに良かった。

もう人目を気にせずスキップしながら帰ったって良かったぐらいだ。

後は帰るだけだったはずなのに歩くたびに違和感に気が付いた。

いつも陰に潜むように下を向いて生きてるから気付けたんだろう。

一歩進むたびに体がちょっとずつ透明になっていってた。

足元から幽霊みたいに。

アスファルトの線が足元をちゃんと透けて見える。

前に進んでってことは、と後ろに進んでもムーンウォークしてみてたり匍匐前進してみたりしても体は透けていくばかり。

なんならまわりの人も声さえ掛けないし見えてないようだった。

おぉ、これあれだ!透明人間だ!!って調子に乗ったりして公園で人に言えないようなこともしようとした。

試して慣れて少し歩いたら…


異世界だ

手を握ったり開いたりして「存在してること」を再確認する。

ついでに戦利品は消えていた。


冴えないおっさんが町から消えたとこで誰も気が付かないだろうし仮に戻れたとしてを話したって内容が馬鹿げてる。

誰も信じない。


肩を落として周りを見渡す。

こういうときは大体裏路地がイベント発生しやすいんだよと転生系小説の知識を活かした行動に出たはずだったから。

合ったのは冷たい目線だった。

ちょっと太ってるおっさんが見た事もないような服でキョロキョロしてたら目立つ。

逆の立場だったら間違いなく同じだし。

ヒソヒソと話す声も聞こえるが言葉も通じる気がしない。

少なくとも日本語じゃない。

この雰囲気は経験したことがあるから分かる。

虐められてるときのあれだ。

きっとヒソヒソと話す事も悪口なんだろう。


そう思うと逃げたくなって走った。

少なくともこの場所にいるべきじゃない気がしてどこかを目指した。

後ろから鎧の音が聞こえる。

少しだけ後ろを振り返ると鎧の騎士が5、6人追いかけてきていた。

町を出てひたすらと走る。

なんか引き留めるような感じもしたけど森の中へ迷わず走った。

木が体を引っ掻いても関係ない。

少なくとも剣を持っていた。

殺されるかもしれないんだ、異世界で知り合いに看取られることもなくゴミの様に。


異世界で誰にも看取られることもなく知り合いに会えるわけでもなくボロボロになって死ぬよりかは元の世界に帰る。

今の目標、生きる目標だ。

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