バトルシーンだけのやつ

途中で死んだふりをしてまで来た甲斐があった。 

勇者あいつにはこの役目は重い。

きっと剣も投げてでも話し合おうとするだろう。

勇者仲間の幼馴染みに剣を向けるのは俺一人で充分だ。

そう心に言い聞かせながら剣を構える。

そんな俺の心に反して体は震えていた。

立場は違えど転生者勇者の資格があった者

気迫、構えてる武器、立ち振る舞い、何もかもがレベルが違う。

あまりの気迫に生唾を呑む。

次の瞬間、構えていた剣ごと切られていた。

瞬きほどの隙だった。

胸から血が滲み出ている。


「しぶといね、雑魚のくせに」


「伊達に勇者一行の戦士、名乗ってないんだぜ」


背中からもう一本の剣を取り出して再び構える。

注意しとくべきなのはあの剣だろう。

勇者から聞いたことはある。

東方の剣、刀。

鋭く、しなやかに、それでいて切れ味が良い。

刀を構えて次の瞬間には目の前にいた。

鋭い薙ぎを剣で


「ここが弱いんだろ!」


刀を横から叩く。

どんな剣も薄い面への打撃には弱い。

そして刀は特に!


割れたと思っていた。

実際は割れてすらいなかった。

にこにこと笑顔で敵は言う。


「硬いでしょ、僕の素材から作られてるからね」


そう聞こえたときには回し蹴りが直撃して壁に叩きつけられていた。


「実力不足だね」


徐々に暗く溶けていく視界の中でその一言は聞こえた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る