第14話
「ギョッファー!」
「うわぁぁぁ!」
ピラニアソルジャーが振り下ろしたバトルハンマーはアーススパイクをあっけなく粉砕。
細かい石の破片が英里子に降り注ぐ。
(まずはウチや!)
異世界でピラニア人間に頭からバリバリ喰われる死ぬ、と言う人類史上初の最期を覚悟した英里子だったが、その足音はだんだん遠ざかっていく。
「あれっ……ってあいつ! 行かしたらアカン!」
大型のバトルハンマーを持っているとは思えぬ速度で駆けていく魔物を英里子は慌てて追いかけようとしたその時、ステータス画面が勝手に開く。
『新着メッセージあり:2件、ゴブカミより』
「この忙しい時に何や! ゴブガミ……ナイスや!」
最高のタイミングでアドバイスを受信した英里子はすぐに開いて確認する。
『ゴブカミ先生のマヨイガ探索tip Vol.03
良い子の諸君! ゴーレムって知っているかな? 土や岩で作られた人造人間でその起源はユダヤ教なんだがとあるマヨイガエレメントを用いればこれを再現することが出来るんだ! かつてマヨイガの儀に挑んだもののふの中には駿馬や猛虎を再現して使役したサモナーもいたと言うんだからすごいよね!』
『ゴブカミ先生のマヨイガ探索tip Vol.04
良い子の諸君! マヨイガの儀の達成条件は一つじゃない事を知っていたかな?
タメシヤ様にお仕えする中間管理職であるマヨイガ五武神の仕事は君達の実力テストをしてタメシヤ様の下に送り出す事。だから状況ともののふの実力に応じて別の試練を課す場合もあるんだ! 楽なのが来たらラッキー……かもね?』
「あんのアホンダラァ! どうでもええわ! とにかく急がんと……? ってなんや、この音は?」
迷宮の奥、背後の遠くから微かに聞こえるチャルメラのような音に英里子は振り返り、耳を澄ます。
「エレミィ、この道で合っているのよね!?」
「はっ、はい……そうです!」
英里子にしんがりを任せ『ハイドロフォイル』で高速移動する美香に背負われたエレミィは答える。
「エレミィさん、あれの事を……知っているのか?」
「はい、あの真紅の背びれは間違いなく……ピラニアジェネラルです! ピラニアソルジャー族の首領にして、かつて戦士だった私の父と母の命を奪った仇です!」
怒りのあまり、エレミィは美香のマントを握りしめる。
「とにかく、英里子ちゃんが足止めしてく……」
「ギョファファァァァァ!」
足止め壁を突破し、英里子を殺して奪ったバトルハンマーで武装したピラニアジェネラルは4足歩行メガトンダッシュで3人に迫ってくる。
「エレミィ、飛ばすわよ!」
「探さん!」
「えっ、先輩!?」
金棒を得た鬼と化した大型魔物・ピラニアジェネラル。
エレミィを背負う美香がハイドロフォイル加速して逃げ切ると言う順当な選択肢を選ぶ中、ジェットファイアーを解除して地面に降りた探は仁王立ちで敵の前に立つ。
「先輩! 早く……」
『ヒートオーバードライブ発動』
謎のシステムボイスと共に探の右手を青い炎が覆う。
(あれは……いつものエレメントプラスではない?)
「美香さん! 早く逃げな……って、見てください! 敵が!」
「ギョッ! ギョギョギョォォォ!」
本能的に探の危険性を察したであろうピラニアジェネラルは緊急停止。2足歩行に戻って距離を取ってバトルハンマーを構えているものの、それが本能的恐怖の裏返しなハッタリでしかないのは美香やエレミィの目からも明らかだ。
「……」
探がゆっくりと踏みしめる一歩毎に右手の蒼炎は渦巻きながらその熱量を増幅。
数世紀にわたり水乃宮の壁を覆っていた氷はその熱に耐えきれず溶解蒸発し、岩壁を露出させていく。
「ギョッ……ギョワァァァァ!」
喰らったら即死確定なエネルギーを帯びた炎エレメントを帯びた拳、殺気とも怒気ともわからぬ圧を放ちつつ、無言でこちらに向かってくる人間。
逃げる事も出来ぬままピラニアジェネラルは先手必勝ばかりにハンマーを振り上げる。
『ブレイズナックル』
その直後、エレミィと美香の目の前で起こっていた事。
謎のシステムボイスと共に縦きりもみ回転しながら斜め上にぶっ飛び、数メートル離れた硬い地面に叩きつけられた顔がひしゃげ潰れたピラニアジェネラルの巨躯とアッパーカットのフィニッシュポーズを決めた探。そして探の右手から消えたいつものエレメントプラス・ファイアとは別物な青い炎……この状況証拠から導き出される答えは一つ。
『探がマヨイガエレメントの強化新技で相手の顔面にアッパーを叩き込み、その巨躯を吹っ飛ばすほどのパワーで殴り飛ばした』と言う信じがたい物のみだ。
「あれっ? 僕は今……何を? 何で魔物が吹っ飛ばされて地面が岩に……? ええと、まずは『エレメントプラス!』」
いまさらのように刀を抜き、慌てて火炎刀強化しつつ辺りを見回す探を見ていたエレミィと美香はただただ現状を見守る事しかできない。
【第15話に続く】
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