第13話
「ギョギョギョ……」
鋭い牙を持つ魚の頭部と人間の体を持ち、三股槍と共に水乃宮を歩き回って獲物を探す狩猟者ピラニアソルジヤー。物陰に隠れて人差し指を立てたまま両手を組んだ美香はその先端を敵の頭部に向ける。
(ウォータースナイプ!)
細く打ち出された高圧水は眼球を貫いて一気に脳に到達。一瞬で絶命したピラニアソルジャーはぐらりと地面に倒れる。
(おおっ!)
(ナイスや、美香ちゃん!)
一撃で音も立てずに敵を倒した美香に探と英里子はサムズアップでグッジョブ応答する。
エレミィと共に人魚族の集落を目指して数日……エラと肺のハイブリッド呼吸器官をもたぬ人間3人は彼女が最短ルートだと言う長時間の素潜りと水中洞窟内の複雑な移動を伴うルートを断念し、セーフティルームで中断セーブしつつの陸上徒歩ルートを選択。
非効率的ではあったが、双方にとって大きな収穫のある探索となっていた。
まず、探達が人間界に戻っている間、魔物が入れないセーフティルームで魔力回復と休息待機する事になったエレミィ。その間に食べられるようにと英里子が持ってきてくれたカップ麺の便利さとUMAMI成分、アミノ酸に彼女は大感動。そのお礼として見つけにくい迂回路や隠しルート、さらにはよそのマヨイガ迷宮でも使えるそれらを見つける探索のコツまでも探達に伝授。
その上、自分と同じマヨイガエレメント能力を持つ美香には敵を狙撃する攻撃技『ウォータースナイプ』、足に水エレメント塊を纏わせて滑るように高速移動する『ハイドロフォイル』、周囲の水を介してダンジョン内の索敵を行う『ウォーターエコー』にその他諸々の水エレメント技を教授する事でマヨイガ探索隊の戦力底上げまでしてくれたのだ。
「でも奇妙ですね……何故こいつがこんな集落の近くに?」
「どういう事やエレミィちゃん。こいつ一瞬でやられたけど強いの?」
ステータス画面から回収済み魔物素材と魔物図鑑を確認していた英里子は思わず聞き返す。
「ええ、この魔物は五武神様のいらっしゃる最深部近くに縄張りを持っており、知性に欠け、残虐で好戦的です。しかしながら本能的に勇猛果敢な人魚族の戦士を恐れるために集落近くに現れる事はありません。それに集団行動せずに単独行動しているなんて……本当にウォーターエコーに反応が無いんですか?」
「無い……みたいね」
ウォーターエコーで周囲の安全確認を行っていた美香はありのままを伝える。
「いや、それはないやろ美香ちゃん……アレは何や?」
周囲の警戒をしていた英里子の震える声に3人は振り向く。
「ギョ……ギョォォォ」
十数メートル離れた場所から4人をじっと見ているピラニアソルジャー。
青銅製の鎧を胴と腕、腰に装備して幅広で厚みのある両刃剣を持ち、モヒカンの如き立派で威圧的な真紅の背びれを頭部に持つ魔物は頭から血を流し、左腕は色々な物が刺さっており明らかに瀕死の重傷を負っている。
「ひぃっ!」
「ギョギャォォォォ!」
その姿にエレミィが悲鳴を上げた瞬間、眼を血走しらせ牙をむき出しにしてこちらに駆け出す。
『アイスショット!』『ファイアボール!』
『アーススパイクバイト!』
ピラニアソルジャーは美香と探が発射した氷塊と火球を壁走りで交わし、英里子が仕掛けておいた天井と床からの石柱咬撃トラップもローリング回避。勢いを維持したまま4人に迫る。
「『アーススパイク!』美香ちゃん、補強や!」
「了解!」
『氷柱ノ鎧戸(フローズンシャッター!)』
遠距離攻撃で敵を倒せないと判断した英里子はバトルハンマーを投げ出し、アーススパイクで石柱を幾重もの格子状に生成。その隙間を美香が水で満たし氷結させる事で頑強な壁を生成する
「ギョオオン! ギャギョオオ! ギョギャアア!」
「エレミィ! あなたもハイドロフォイルで逃げないと」
急に止まる事が出来ず、頑強なフローズンシャッターに正面衝突したピラニアソルジャー。怒り狂うままに叩き壊そうと滅茶苦茶に暴れる敵を足止めした美香は恐怖で動けないエレミィの肩を掴んで揺さぶる。
「あいつの狙いは私です! 皆さんだけでも……逃げてください! この道をまっすぐで人魚族の集落が見えます!」
『ハイドロフォイル!』
探と英里子は足に水エレメント塊を生成してスタートダッシュ状態になった美香の背中にエレミィを乗せる。
「雲隠ぇ! アンタも早よ行きぃ!」
「英里子ちゃんごめんね!」
「部長、死ぬなよ!」
ジェットファイアーで飛行する探と共に美香は一気に加速して人魚族の集落を目指す。
『アーススパイク! スパイク! スパイク!』
「美香ちゃん、雲隠さん……ウチ、生きて帰れたら……あんたらみたいな高速移動できるマヨイガエレメント技を編み出すで!」
美香と探にエレミィを逃し、しんがりを買って出た英里子。
美香との合体エレメント技で生成したフローズンシャッターは氷部分を既に砕かれ、岩の格子骨組みだけになっており、それを再生補強しつづける事しか出来ない英里子は敵が大量出血で動けなくなるかエレミィの安全確保した探達が戻ってくるのを期待するしかない。
「ギョッ、ギョッ……ギョギョギョ!」
「えっ、それはアカン! やめてくれぇ!」
アーススパイクを格子型に生成する際、地面に投げ捨てた英里子のバトルハンマー。
それは氷の床を滑って壁の向こうに落ちており、最悪のタイミングでその存在に気づいたピラニアソルジャーは迷うことなく手に取り、岩の骨組みに振り下ろす。
【第14話に続く】
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