第10話
「神さん、粗茶やで……」
「ありがとう、呉井さん!」
白狩衣に烏帽子の青年から歴史クラス担当教師・五武神の姿に戻ったマヨイガ五武神は英里子の滝れたお茶を受けとる。
「はぁ、人間界のお茶なんて久しぶりだなぁ……しかも眼鏡スレンダー美少女がボクのために滝れてくれたなんて。ありがたや、ありがたや……」
「あらまぁ、眼鏡スレンダー美少女だなんて! お口がお上手ですわね先生……縦と横どっちがお好みですかぁ?」
「どっちもお断りします! セクハラ発言ごめんなさい!」
口元だけにっこり笑いつつ右手に持ったお盆をリズミカルに回転させながら左手に打ち付ける目が笑っていない英里子。その意図を察した五武神は瞬発的に謝罪する。
「ええと、五武神先生……でいいんでしょうか? それとも他のお名前が希望でしたら言ってもらえればそれにしますけど」
「神としての名称はあるけど……ゴブカミ先生でいいよ、探君。今日来たのは、今後のマヨイガ探索隊の活動の件で提案したい事があるんだ」
「提案?」
「ああ、耳が痛い話かもしれないが……1人はさておき、ボクを除く3人の五武神は君らがボクらも気づかない間にマヨイガに入っていたのみならず、その試練に挑もうとしていると言う事実にただただ戸惑っている……要するにこの面倒くさい現状をあまりよく思っていないんだ。そして4人の総意としては仮に何らかの方法で君たちがかつての機能を失った水乃宮と土乃宮を発見し、マヨイガ入りして五武神を倒せた所でメンバーが2人足りない君たちは最後までたどり着けるはずがない。どうあがいても詰むだろうから放置しておこうと言っている」
「……」
これまで目を背けていたが、いずれは対処しなくてはならない現実に3人は言い返す言葉が思いつかない。
「ここから先はボクの個人的な考えなんだが……無理にとは言わないが、ボクとしては君達にマヨイガの儀を是非とも完遂して欲しい」
「えっ、でも……今」
「皆は皆、ボクはボク……神様なんていっても一枚岩じゃないんだよ。まあこういう言い方をしちゃうとアレだけどさぁ……ボクは君達がマヨイガに挑んでくれて嬉しいのよ。
ボクはそもそも武神であるからして人間に必要とされるのは戦場オンリー。しかもマヨイガに挑む若きもののふ限定っていう就労選択肢ゼロの超特殊専門職……君たちの世界で色々あったのはわかるけどさぁ、数百年間もの間使命を果たす機会も与えず放置するなんて薄情にも程があるよ! ほんと、君たちが来なければこの町のお偉いさんが頑張って誘致した立派なこの校舎に雷ドーン!ぐらいの崇りを起こしてやろうかとさえ思ってたんだ」
(逆恨み崇りしょぼっ!)口には出さないものの、3人は同時に心の中で呟く。
「だからこそボクはこのマヨイガの試練に関わっていたいし、できれば最後まで完遂してほしいんだ。そうでもなければわざわざこの学校の教師に化けて顧間と言う形で君達マヨイガ探索隊を助けに来ると思うかい?」
「ううん、五武神センセの気持ちは分かったけどなあ……雲隠さん、どうしよ?」
新顧間就任からのマヨイガ五武神降臨……超展開ラッシュが続く中、英里子部長はマヨイガ探索隊リーダーとして経験豊富な探に判断をゆだねる。
「呉井さんが部長権限でOKだって言うなら僕は五武神先生の提案を受けるべきだと思う。 だって僕達3人だけで足りないメンバー探しと所在不明のその他4つの宮を探し出すなんて出来ると思う?」
「そうですよね、先輩。英里子ちゃん、私はこの神様が嘘をついているようには見えないし先輩のいう事も間違っていないから……助けてもらってもいいんじゃないかな?」
「せやな、ウチもそこは分かるわ……どのみち、五武神顧問センセのいう事に歯向かうのは部長のウチでも無理や」
「ありがとう、マヨイガに挑む若者達よ! ではさっそく……」
そう言いつつ五武神が紙袋から取り出したのは小ぶりながらも立派な神棚だ。
「吉方はこっち、これをここに安置して……はぁっ!」
五武神が本棚の隙間に神棚を安置し、九字切りを決めるとその神棚がぼうっと光を帯びる。
「これでよし……さあ、みんな! ここで一礼、二拍手、一礼してみてくれ」
言われるがままに3人が神棚の前で一礼、二拍手、一礼したその時……光の奔流が3人を包み込む。
「先輩、ここって……マヨイガ?」
「ふぉぉぉーっ! 気持ちええなぁ!」
いつもの光の奔流でオカルト研究会部室から何もない真っ白な無重力空間に放り込まれた3人。慣れないながらも手足をばたつかせて泳ぐ3人の目の前に赤い何かが現れる。
「これは……鳥居?」
赤・青・緑・茶色・黄色。五色の鳥居上の看板には火乃宮・水乃宮・風乃宮・土乃宮・鳴神乃宮の表札が掛けられており、緑と黄色の鳥居はなぜかしめ縄でぐるぐる巻きにされている。
(オカルト研究会の皆さん、聞こえますか……顧間の五武神です)
「先生? どこにいらつしゃるんですか? そしてここはどこですか?」
(華咲さん、大丈夫ですよ……ここは神棚から入ったマヨイガポータルの世界。全てのマヨイガにアクセスできる特殊シヨートカットです。とりあえずテストは大丈夫そうなので非常日から出てみてください……)
「非常口? そんなもん……あったわ」
ピクトグラムで表現された逃げる人デザインのグリーンライトが付いた無骨な金属扉。英里子はそのドアノブを掴んで回す。
「と、まあ今やったようにすれば……迷処山まで行かなくてもいつでもマヨイガ探索に向かう事が出来るので今後も活用して下さい。まあ今日はいろいろあってお疲れでしょうし、ここまでにしておきましょうか」
光のウォータースライドでオカルト研究会部室に帰還し、ソファーに座ったまま呆然とする3人の前で紙袋を持った五武神顧間はオカルト研究会部室を出ていくのであった。
【第11話に続く】
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