弐ノマヨイガダンジョン:水乃宮編
第9話
「いーゃーやぁ!」「きーがーえろぉ!」
壇条学院、施設棟全体に女の子の絶叫が響く。
(ああ、どうしてこんな事に……はあ)
その発生源たるオカルト研究会部室内では女の子2人が壮絶な制服強制お着換えキャットファイトを繰り広げており、廊下で待ち人中の探はため息をつく。
数日前、3人の力を合わせて火乃宮のボスを倒した3人。だがその喜びも束の間……少し前に提出した活動報告プレゼンテーション動画を見た生徒会より審査結果通知がオカルト研究会に到着。
それによると研究内容自体は興味深く面白い。ただし部員が最小人数5人を満たしていないのみならず、顧問の先生も退職して不在。しかも部長が歴史研究会をオカルト研究会に勝手に改名して部室や機材を私物化していると言う事実を生徒会関係者が問題視。
これらを踏まえて強制廃部も本気で検討されたらしいが……名前はさておき本来の活動である歴史研究活動を行っている事、そして壇条学院中等部時代から数多の奇人変人伝説を築き上げてきたトンデモ災厄女・呉井 英里子を敵に回すと何をしでかすかわからないと言う『触らぬ神に祟りなし』な消極的思考から強制廃部は断念。
その代わりとして顧間教諭を再任命し部活を監視させると言う措置に踏み切ったのである。
「ええと……君が歴史研究会の雲隠さんですか? はじめまして、高等部歴史クラス担当教諭の五武神 鳳一(ごぶかみ ほういち)です」
大きな紙袋を持って階段を上がって来たYシャツ&ネクタイ、ズボン上にウールのベストを着た細目の30代と思しき男性が探に声をかける。
「五武神先生、初めまして! 私は高等部2年生の雲隠 探です、はじめまして……? ですよね? どこかでお会いしませんでしたか?」
歴史研究会の顧問に任命された若い男性教諭の手を握った探は、一瞬だが確実な違和感に思わず聞き返してしまう。
「私は4月からこの学校に赴任してきたばかりだからそれは無いでしょう。 それより歴史研究会の部長さんにご挨拶をしたいのですが……どちらにいらっしゃいますか?」
「ああそれなら……」
「制服嫌いやぁぁぁ!」「こらぁ! あたしのスカートぉ……きゃあっ!」
新顧問と会うのを拒んで制服を着ようとしない英里子の体操着を脱がせ、無理やり着替えさせていた美香。キャットファイトの最中、美香のスカートを剥ぎ取って逃げ出そうとした下半身がブルマなブレザー制服恵里子を廊下で取り押さえたパンツ丸見え美香はすぐに前を手で隠す。
「2人とも服装規定アウト……ですよ。それはさておき貴女が部長の呉井さん、そして部員の華咲さんですか? 初めまして、オカルト研究会顧問となった歴史クラス担当の五武神です。以後よろし……」
「英里子ちゃん、大人しく制服着ようか……ねっ?」
「いっ、イエッサー……」
駄々っ子大暴れして制服よれよれ姿の英里子はパンツ美香の殺気の圧に耐えきれず、素直にスカートを返して大人しく部室に入っていく。
「さて、はじめまして……オカルト研究会の皆さん。私はこの歴史研究会の顧問に任命されました歴史クラス担当の五武神です」
「呉井 英里子です」「華咲 美香です」
着替え終えた女の子2人は何事もなかったかのように五武神に自己紹介する。
「さて、僕も今後関わっていくオカルト研究会の研究テーマ『タメシヤ様と五武神の宮の謎』のプレゼン動画は事前に見せてもらいましたが……そもそもこのテーマをどこで知ったんですか?」
「えっ、それは……」
「実は私もここの卒業生として昔あの郷土史博物館には何回か行った事はありまして……しかし記憶の限りではそんな展示も資料も見たことがないのです。今回の件で事前確認のため行ってみたのですが、そんな資料は見たことも無いし、所蔵していないと司書さんに言われてしまいまして」
(英里子ちゃん、どうしよ? 何か言い訳は無いの?)
(ウチ!? そんなん言われても……)
「この研究の発案者は僕です。詳細は言えませんが……雲隠家の伝承と蔵の古文書で見た情報の裏付けをすべく郷土史博物館で調べたんです」
「ああ、そうなんですね……まああの雲隠さんの御宅の蔵ならごもっともです」
細目の五武神先生は納得してうなずく。
「……あれっ? 先生が知っているタメシヤ様に関する情報はウチが生徒会に送った動画だけなんですよね?」
「ああ、そうだよ」
「……ウチも美香ちゃんもあのプレゼン内で五武神なんて一言も言ってないんですけど。なんでウチらしか知らないはずのその単語をご存じなんですか?」
発言の矛盾を指摘した英里子の一言に部屋の空気が凍り付く。
「あ~そうか、しまったなぁ……こんなミスしちゃうとは。まあいっか! やっちゃった事はしょうがないね!」
急に口調が軽くなった五武神先生は眼鏡を取って胸ポケットにしまい、ボロソファーの上に革靴のまま立つ。
「せっ、先生……」
「変・身!」
ソファーの上に立った先生の全身を光が包む。
「……マヨイガに挑みし壇条学院、オカルト研究会の若きもののふらよ、はじめまして。ボクはマヨイガ五武神の一角にして……ってあれっ?」
「アカン、開かん! あかぁぁん!」「もしもしお巡りさん! もしもしぃ!?」
本来の姿である白狩衣に烏帽子装束の若者の姿に戻った五武神教師はふんわりとボロソファー上に着地。鈴のように美しく、凛とした声で自己紹介していたものの……部室のドアを壊してでも脱出しようと必死の英里子と警察に通報中の美香。
そして木刀を掴んだ探は謎の封印がされて開かない部室から脱出しようと必死の2人を庇いつつ対峙する。
「あれっ?……お嬢さん方、神々しいイケメン登場シーンにその反応は違くない? 露骨過ぎてボク、ちょっと傷つくんだけど…… ?」
「動くな!」
「探君までボクにそんな暴言を!? 一体ボクが何をしたっていうのさ!」
「……お前、この前僕達が倒した火炎蝦暮の敵討ちに来たんだろ?」
「火炎蝦蟇……ああ、火乃宮を司る翁殿の弔い合戦だって? とんでもない! 翁殿は熱湯胃洗浄のせいでおかゆも食べられなくなって点滴生活にはなったけど死んではいないよ。ほら、この通りホールドアップするからとにかくその武器を下ろして用件を聞いてもらえないかな…… ?」
マヨイガ五武神の1人を名乗る白狩衣は両手を上げる。
【第10話に続く】
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