第11話

「ここが水乃宮……」

 透き通った氷ブロックで組み上げられた神秘的な迷宮。

 五武神顧間によって設置されたマヨイガポータル経由で2つ目のマヨイガとして探索開始した水乃宮の美しさに美香は思わず息を呑む。

「綺麗やなあ……と言いたいとこやけど。ここ寒くないかなぁ?」

 マヨイガポータル内に五武神顧間が追加したと思われるフィッティングルームで壇条学院制服を完全に脱ぎ、動きやすさを重視したメカニックゴーグルと黒タンクトップににチェストプレート、ハーフパンツにブーツ姿のマヨイガ装備に着替えた英里子は大槌を突き立てたままガタガタ震える。

「ああ、僕も……華咲さんは大丈夫なのか?」

 ズボンとシャツ上に軽鎧と炎のマントを羽織り、腰に二刀流を差した探もブルッと震える。

「英里子ちゃんはそんな薄着だから寒くて当然でしょうけど……私は大丈夫です」

 英里子と同じく制服を脱いで動きやすい青いローブとズボン上に水のマントを羽織り、青い宝石の嵌った水の魔杖を持った美香は首をかしげる。

「言ってくれるじゃないの、美香ちゃん……でも雲隠さん、これは割とキツイで。サポートスキルとかアイテムで何とかならんかなあ」

「アイテムは魔力回復系しか合成していないから、サポートスキルならええと……」

 探が英里子と共にステータス画面内のサポートスキルー覧を出して寒さ無効系のスキルが無いか探しだしたその時、遠くから何かの音が聞こえる。

「敵か!?」

 3人はすぐに武器を構える。


『イガァァァァ!』

 床の上を滑るように高速移動してこちらに向かってくる下半身が魚の女性とそれを追いかける巨大なイカの魔物。

「なっ、なんやあれは? 水乃宮言うてもあれはベタすぎん?」

「先輩、あの人魚(?)さんは助けるべきなんでしょうか? それとも罠なんでしょうか?」

 探も迷っていたその時、3人のステータス画面が勝手に開く。

『新着メッセージあり:1件、ゴブカミより』

「ゴブカミ先生!?」

 3人が新着吹き出しを触ると、メッセージが開く。

『ゴブカミ先生のマヨイガ探索tip Vol . 01

  良い子の諸君! マヨイガには知能が高く、もののふに友好的な魔物もいる。それを見分けるにはマヨイガエレメント攻撃を当ててみよう……本当に味方だったらノーダメージになるんだ! まさにフレンドリーファイアだな!』

「フレンドリーファイアって何ですか?」

「FPSとかのオンラインプレイ仕様の1つやね。味方の弾がノーダメージ……って、ちゃうわ! 敵が1杯でも1尾でも先手必勝や! 2人共行くで!」


「お兄ちゃぁぁぁん!」

 安全な集落から離れた所をデーモンゲッソーに見つかり、追われるハメになった人魚族の少女、エレミィ。戦う術を持たぬ彼女は水属性のマヨイガエレメント技・ハイドロフォイルで必死に逃げるばかりだ。

『ゲゾォォォン!』

 デーモングッソーはそんな彼女を追い回しつつ墨弾と触腕叩きつけで執拗に攻撃。じわじわと距離を詰めていく。

(まっ、まずい……力が無くなる!)

 エレメント技による長時間の高速移動で限界に達したエレミィの隙を逃さずデーモングッソーは触腕で下半身に狙いを付け、一気に巻き付けて捕らえる。

「放して! 放してよぉ……いやああああ!」

 尻尾を掴まれて逆さづりにされてもなお、ビチビチ暴れる人魚娘の命乞いなど聞くわけもないデーモングッソーは触腕内に隠していた爪を剥き出しにする。

「あっ……ああっ……」

 ゆっくりながらも確実に首元に伸びてくる触腕爪。逃げられぬ死を覚悟し恐怖のあまり声も出ないその時……異変は起こった。

『アーススパィク!』

 斜めに幾重にも突き出して来た尖った石柱はデーモンゲッソーの体と触腕を貫通。

 無残にも全身を貫く石柱が透明の体液に染まる。

「えっ、ええっ?」

 わけもわからぬまま触腕から解放され、無傷で助かったエレミィは大量出血と共に針山地獄と一体化したデーモンゲッソーを前にどうすればいいかわからない。

『エレメントプラス・フローズン』『パワード』

『エレメントプラス・アース』『パワード』

 そんな彼女の左右から岩塊ハンマーを持った女と氷の巨大ツルハシを持った女がデーモングッソーに正面突撃。

『フローズンピック!』『ビッグストーンハンマー!』

 肉体強化状態でボディ左側から大型アイスピック貫通ぶっ刺し、肉体強化状態でボディ右側から大岩フルスイングを叩きこまれたデーモンゲッソー。尋

常ならぎる体力と防御力を誇る魔物とは言えこの挟撃的暴撃には悲鳴も出ない。


『ゲゾォ……』

「こっ、こいつ……まだ動けるんか!」

「なっ、なんて力……ぬっ、ぬぬぬぬぅ!」

「お2人共、逃げて! 体が捕まったら終わりです!」

 内蔵を叩き潰されてもなお、傷だらけの触腕を武器に絡ませて2人を引き寄せようとするデーモンゲッソーにエレミィは思わず叫ぶ。

『ジェットファイアータックル!』

「先輩!」

 続いてエレミィの頭上に燃える手足で飛ぶ男が出現。

 そのまま灼熱体当たりを喰らわせて怯ませる。

『フレイムグレイブ!』

 火炎刀を頭部に突き立てられた魔物は体内から炎上。香ばしく焼かれながら力尽きて針山に崩れ落ちた。


 それからほどなくして。

「スパイクが当たらんかった……という事はあんたは悪い魔物ではない、そういう事やね?」

 敵の死亡確認とアイテムスキャナー素材回収を終えた英里子は味方と思しき人魚の女性に問いかける。

「えっ、ええと……あなたたちは何者なんですか?」

 エレミィはデーモンゲッソーを倒して助けてくれた女の子に問いかける。

「ごめんなさい、私達はマヨイガの試練に挑んでいる檀条学院オカルト研究会。あなたは……人魚なのかしら?」

「マヨイガの儀……つまり御三方は人間のもののふ様なんですね! 初めまして、私は人魚族のエレミィです!」

「ああ、ウチは……と言いたい所なんやけど。その丸出しなトップレスどうにかならん?」

「トップレス? あっ、ああこれですね……ごめんなさい、胸に巻いていた帯が取れちゃって」

 デーモンゲッソーとのチェイス中に胸に巻いていた晒を無くしてしまったエレミィは豊満な美乳を手で隠す。

「先輩、確か装備アイテムでシャツみたいなのありましたよね?」

「ああ、もちろん。どのみちここでじっとしているわけにもいかないからセーフティールームに戻ろう。エレミィさんの服もそこから出せるしね」

 

【第12話に続く】

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