第5話
「グルルルル……」
『ウォーター!』」
美香の杖から撃ちだされる水弾連射を左右に難なくかわした巨大な猛犬は、敵の喉元目掛けて飛び掛かる。
『ファィァ!』
美香の陽動に合わせて狙いを付けていた探の援護攻撃が猛犬を直撃。火球の直撃を横腹に食らって転げ落ちた猛犬はひとまず距離を取る。
『ァーススパイク!』
「ギャイン!」
哀れ、足元から突き出してきた鋭い石柱に胸を貫かれた犬は一瞬で絶命する。
「雲隠さん、こいつがアイテム扱いかわからんから試してみてくれん?」
「ああ、アイテム転送!」
探はエアディスプレイを操作し、素材アイテムとして利用可能だと思われる魔物の骸を保管庫に送る。
「はぁ、大分進んだわぁ……少し休もうよ」
「せやね、うちもそうするわ」
メカニックゴーグルをずらし、武器のバトルメイスを壁に立てかけた英里子も床に腰を下ろす。
あの後、桜の下で見つけた神棚経由である程度自由にマヨイガ入り出来るようになったオカルト研究会の3人。
石柱を創生し大地を操る『地』属性の使い手となった英里子はオカルト研究会長として探と美香による無計画な探索の効率化を図るべく魔物図鑑の作成、方眼用紙&表計算ソフトを用いたマヨイガマップの作成、探がこれまで集めて来た武器防具とアイテムの効果確認とリスト化……3人目のマヨイガ探索メンバーとして加入した英里子部長のKAIZENマネジメントにより探索効率は圧倒的に向上していた。
「美香ちゃん、そっちの方はどうや?」
ステータス画面をエアディスプレイ召喚して床でジベタリアン休憩中の英里子は同じくステータス画面確認中の美香に問いかける。
「ううん……特に習得可能になっているのは無さそうかな?」
「そうかあ、せめてこの文字が読めればなぁ……」
そんなKAIZENマネジメントを妨げているもの、それは解読不能なステータス画面の象形文字だ。
探が何故か習得出来てしまった緊急脱出以外にも数多くの探索サポートスキルを習得できる(と思しき)ステータス画面内のリストを英里子部長はドラッグ&タッチするが何も起こらない。
「この前のクモ女みたいに人語で意思疎通できてウチらにフレンドリーな魔物でもおればええんやけど……そんな都合のいいもんおるわ……けが?」
急に自目を剥いて首をガクガクし始めた英里子はそのまま地面に昏倒する。
「英里子ちゃ……あばばばばば!」
急に自目を剥いて首をガクガクし始めた美香も苦しそうに叫びながらそのまま地面に昏倒する。
「華咲さ……」
首元に微かな痛みが生じた直後、全身の力が抜けてしまった探もそのまま膝をついて地面に倒れてしまう。
「こいつら……人間か? どうしてこんな所に?」
曲がり角の物陰から吹き矢の筒を持って出て来た赤銅色の肌で額に一本角を持つ150センチほどの小さな人間は自身が麻痺毒で行動不能にした未知の存在に戸惑う。
「うん、間違いない……こいつら人間だ。でもどうやってここに入れたんだ?」
小男が倒れた女の子2人をつんつんして調べていたその時、背後から殺気を感じる。
『エレメントプラス!』
炎を帯びた刀を振り下ろしてきた人間の男の一撃を紙一重で交わした小男は投石攻撃でカウンター反撃する。
『ファイアボール!』
「ひえっ!」
探がカウンターのカウンターで撃って来た火球を小男は身を低くして交わす。
「まっ、待ってくれ! あんたまさかホムラモノなのか?」
両手を上げて降参してきた小男は距離を取りつつ探に尋ねてくる。
「ホムラモノ? 僕は壇条学院高等部2年生、オカルト研究会部員の雲隠 探だ。お前こそ何者だ?」
「雲隠の若御館様……まことに申し訳ありません!」
探の名前を聞いた瞬間、小男は平身低頭の姿勢を取リブルブル震えながら己の非を詫び始める。
「あの二方の女子様は若御館様の……郎党の者でございますか?」
「あっ、ああ……そうだけど」
その言葉を聞くや否や、飛び上がるように駆け出した小男は美香と英里子の治療を始める。
「それで……お前何者や?」
苦くてえぐみの強い解毒薬を無理やり飲まさせられた英里子は不機嫌な声で小男に聞く。
「はい、私はマヨイガ五神の主・タメシヤノミコト様に仕える小鬼タタラと申します。火ノ宮で異変が起きていると聞き調査に参ったのですが……まさか雲隠家の若御館様が試練に挑んでいたとは。まことにお久しゅうございます」
美香と英里子の治療を終えた式神タタラは3人の前で深々と頭を下げる。
「ええと、色々と聞きたい事はあるんだが……ここは迷処町の伝承にも伝わるタメシヤ様の迷宮で間違いないと言う事か?」
「若御館様、おっしゃるとおりでございます……もののふが消え、人の移り行く世に伴い忘れされられて久しいこの試練に雲隠家の家督を担う若御館様が挑むとは……我が主たるタメシヤノミコト様もさぞかしお喜びになることでしょう」
「雲隠さん、あんたんとこすごい家やと思っておったけど……なんかすごい人やったんやね! まあそれはさておき、タタラ!」
「はいっ!」
「ウチは呉井英里子! 若御館様に仕える軍師にしてブレーンや。色々聞きたい事はあるけど、まずはこれをどうにかしてくれんか?」
英里子はステータス画面を開き、謎の象形文字をタタラに見せつける。
「これは酷い……ぶれいんの軍師様、私でもこの程度なら修正可能です。少々お待ちを……」
タタラが画面のタブを動かし何か操作し、ポチポチと操作すると言語表記が徐々に日本語に切り替わっていく。
「おお、これや……ふむふむ、ステータス確認、装備、所持アイテム、サポートスキル……基本インターフェイスはオンライングームとかと同じやね。合成? これはなんやろうなあ……」
「若御館様、失礼いたします」
「タタラ、会ってすぐ聞くのは失礼だが……僕たち3人がここに入れないようにする方法とかは無いのか?」
ステータス画面の日本語化を行うタタラに探は聞いてみる。
「申し訳ございません、若御館様。マヨイガの試練は一度始めると途中で止めることはできませぬのです。もし方法があるとすれば……五武神を倒してこの試練を完遂する事。それのみでございます」
「つまり先輩に私のラブレターを呼んでいただくにはゴブシンなる物を倒してこのマヨイガ入りが完全に出来なくなるようにする必要があるのね……先輩! そうと決まれば進むしかありません!」
「せやな、探さん。オカルト研究会としてこんな最高のネタはそうそうないで? これからよろしゅうな……センパィ!」
一難去ってまた一難、オカルト研究会と自分自身の解放のために五武神なる未知の存在に挑まざるを得なくなった探。その運命やいかに……
【第6話に続く】
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