第6話

「美香ちゃん、準備はええ? おトイレはすました? お色直しは出来とる?」

「うん、大丈夫だよ!」

「雲隠さんはカメラのセッティング出来とるか? 彼女ちゃんはOKやで?」

「ああ、大丈夫だ。録画準備出来ている」

 私立壇条学院、教育施設棟5階にあるオカルト研究会室。

 生徒会による活動審査資料提出を求められた3人は研究中間発表プレゼンテーション動画撮影のセッティングを済ませ、各々の配置につく。

「3……2……1、GO!」


「皆さま、ご視聴ありがとうございます。オカルト研究会メンバー、高等部1年生の華咲美香です。これより私達オカルト研究会が現在行っている地域史研究の報告プレゼンテーションを行います」

 美香はカメラの前で落ち着いて話す。

「私達はこの迷処町でかつて信仰されていたと言う土着神、タメシヤ神について研究しており、これまでわかっている事をこのプレゼンテーションでまとめます」

 美香は後ろのホワイトボードに貼りだされたA3拡大コピー紙をめくる。

「迷処町郷土資料館に所蔵されていた資料によりますとタメシヤ神の伝承が最初に確認されているのは平安時代の貴族の日記です。当時、この地域に国司として出向していた貴族の日記によりますと、この地域では元服を迎えた武士の嫡男は5人のチームを組んでタメシヤ神をまつる5つの社を1つずつ回って生涯にわたる冥加と武運長久を祈る風習があったと記録されています」

 古文書のコピーのA3資料をめくった次のページには火乃宮、水乃宮、土乃宮、風乃宮、鳴神乃宮と書かれている。

「同資料館によりますと多くの資料が太平洋戦争で失われてしまい、残っているのは戦前の研究者が残した記録のみだそうですが、多くの資料で指摘されているのが火乃宮、水乃宮、土乃宮、風乃宮、鳴神乃宮と言うタメシヤ神をまつる社名と五行思想との関連性です。

私達は今、この鍵を握ると思われる五行思想について重点的に調べておりその成果を次回発表できるように努力しております。これで今回の報告プレゼンテーションは終わりとなります、ご視聴ありがとうございました」


「見事なプレゼンテーションや、美香ちゃん! ほんまにありがとうなあ……」

 プレゼンテーション動画撮影を終えたオカルト研究会室に拍手が響く。

「よし、ちゃんと記録は出来ているからこのメモリーカードを部活用PCにコピーして……添付報告メールをするだけやな!」

 探がビデオカメラから取り出したメモリーカードを受け取った英里子はデータをノートパソコンにコピーし、生徒会長代理からの督促メールに添付返信する。


「さて、事務仕事はここまでにして……オカルト研究会活動開始や!」

 ホワイトボードに貼ったA3資料を剥がした英里子部長は太黒ホワイトマーカーで『マヨイガ攻略会議』と大きく太黒マーカーで描き、ドロドロな液体で全身を覆われた球体ボディで額に2本の角を持つ真っ赤なカエルのイラストを貼り付けた。

「ええと、前回の会議でまとめた今後やるべき事は……」

 前回の会議時にスマホで確認した記録写真を見つつ、情報を書き加える。


◎火乃宮以外の4つの宮を探す

◎風エレメント使いのもののふを探す

◎雷エレメント使いのもののふを探す

◎火乃宮のボス、火炎蝦暮(仮称)を倒す


「で、何か追加はある?」

 英里子部長の問いかけに探と美香は考え込むばかりだ。


 数日前、タタラから「マヨイガの儀」の詳細を聞いたオカルト研究会の3人。

 タタラは正規の手順を踏まずに入れてしまった3人にこれまで気づかなかった失態を管理者として詫びると共にステータス画面の文字化けのアップデートパッチ処理と進行不能バグの修正処理を実施。

 探達も気づいていなかったマヨイガ無限ループ状態が解消された事で目と鼻の先にあった五武神の待つ『火ノ神』の間を発見し先に進んだのだが……そこで待ち構えていた火乃宮の主である赤いガマガエル巨大魔物は重量と跳躍力を活かしたフライングボディクラッシュ攻撃で3人を翻弄し、英里子のアーススパイク攻撃も体液ヌルヌルボディで無効化。

 口から射出してきた舌に絡めとられて巨大な口に引きずり込まれそうになった美香を助けようと探が撃ったファイアーボールが部屋中にまき散らされていた可燃性の体液に引火して火の海となり総員緊急脱出すると言う大敗を喫したのであった。


「まあそうやろねぇ……せめて他のエレメント使いが見つかればええんやけど」

「英里子ちゃん、次は1人で行くんだよ?」

 部活動情報掲示板に『オカルト研究会部員募集中! 風と雷のもののふ求む!』と言うポスターを生徒会や教師に無許可で貼りだした件で連帯責任を問われ、副生徒会長と教師達に謝罪土下座行脚した美香は英里子をけん制する。

「ああ、もちろんよ! あんなのもうこりごりですわぁ……そうなると今うちらに出来るのはコレだけやろなぁ。これに関しては何かある?」

 英里子部長は赤ボードマーカーを手に取り、4番目の項目『火乃宮のボス、火炎蝦墓(仮称)を倒す』に下線を引く。

「それだったらあのバウンドを封じ込めるのは必要だろうな」

「あの油に引火しないようにするのも必要だと思います」

「美香ちゃんを狙ったセクハラ舌も切らんといかんやろなぁ」

「ステータス画面の戦闘スキルや装備を変更する?」

「オンライングームとかの設定的に弱点属性は水とかなんやろかなぁ?」

「だったら私の水エレメントで生成した水を大量にぶっかけるとかはどう?」

 先刻とは打って変わってポンポン飛び出すアイディアを英里子部長はホワイトボードにメモしていく。


「つまリヤツに有効打となるのは……舌切リカエルにして動きを止め、水責めにするって事やな」

 英里子部長はホワイトボードに舌を切られ、縛られて水牢内で泣いているカエルのイラストを描きつつブレインストーミング結果をまとめる。

「英里子ちゃんってイラスト上手いんだね、それ写メしてスマホ壁紙にしていい?」

「ああ、ええよ……で、これを具体的にやる方法ってあるんやろか?」

「呉井さん、もしかしたらだけど……あのアーススパイクを応用してこういうのって出来ないかな?」

 机上の裏紙を手に取った探は作戦イメージ図を描き始める。

「なるほどなぁ…… ベタやけど、有効そうやねぇ」

 探の描いたイメージ画に英里子はうなずく。

「でもこれだけじゃあ決め手に欠けるんと思うわ……なにか、こう。攻撃手段が必要じゃないかしら?」

「それなら華咲さんと呉井さんのマヨイガエレメントで協力してこう改良するとかは?」

 別の裏紙を手に取った探は再びイメージ図を描く。

「おお、なるほど! さすがは先輩です! 英里子ちゃん、これならいけるんじゃないかな?」

「うん、ウチもそう思うわ……やってみる価値は十分あるで。そうと決まれば美香ちゃんも雲隠さんも、今日はたらふく食うてよう寝ておき!……明日から火乃宮で特訓や! 今日は解散!」


【第7話に続く】

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