第3話

「ギャギョギョォォォ!」

『ウォーターウォール!』

 美香は先輩と自分の前に水壁を噴出生成。アシッドスネイルが全身から突き出して来た触腕を弾き流す。

『アクセラート』『エレメントプラスソード』

 美香の援護防御の間に身体能力強化と刀に火を纏わせる基本強化を終えていた探は一気に水の壁を突き破って突撃し、横一閃で殻もろとも溶断すべく斬りかかる。

「ヒェェェィ!」

「何っ! ぐあっ!」

 軟体を傾けつつ頑丈な殻でその一閃を受け止めたアシッドスネイルはその重量級タックルで探を突き飛ばす。

「先輩!」

「この程度なら大丈夫! だがあいつ……剣で倒すには面倒すぎる!」

 身体能力強化で衝撃を受け流し、瞬時に立て直した探は敵の体表を覆う酸で使い物にならなくなった刀を投げ捨てる。

「ミギョァァァ!」

 そんな二人の目の前で全身の軟体筋肉を収縮させたアシッドスネイルは脚部をフルスロットル稼働。重戦車級ボディで一気に轢き潰すべく突進する。

「走れぇぇ!」

 敵に背を向けた美香と探が走り出したその時……動きが固まった敵がぐにゃりと倒れ、そのまま全身が崩れてドロドロの黒い液体と化して行く。


「うぷっ……」

 敵の自滅により轢殺は回避したとは言え、溶けた敵の吐き気を催すような悪臭に美香は思わず口を押さえる。

「しかし、こいつ……何か変だったな? おい、これって……」

 探がすくい上げた物、それは襟と袖口がえんじ色で白い半袖の服だった。

「見覚えのある服ですね……? ああっ、そんな!」

 黒い液体でドロドロになった体操着の右胸に書かれた『呉居』の文字に美香は泣き崩れる。

「まさか呉居さんはこのバケモノに……いや、しかしこの残骸に人骨が無いという事はどういう事だ? それにこの上に着ていたその他の服はどうなったんだ? まだ助けられるかもしれない、とにかく急ごう!」

「……っ、はい!」

 雲隠先輩の冷静な分析で友人の生存可能性を見出した美香は涙をぬぐい、すぐにこの巨大生物が来た方向に駆けだす。


 ……マヨイガのどこか、大部屋。

「うふふ……カタツムリは柔らかくて滋養もあってお肌にもいいなんて最高ね!」

 蜘蛛の巣まみれになった部屋の中央で巨大な蜘蛛の巣に陣取り、アシッドスネイルの踊り食いに興じている巨大な蜘蛛の下半身を持つ黒レザーコルセットボンテージ女。中身を食べ終えて空になった巻貝の残りをほじり取って部屋の隅に放り投げる。

(みっ、美香ちゃん……助けてくれぇ! ウチ、食われるのは嫌やぁ!)

 雲隠先輩の言っていたマヨイガではぐれてしまい、一人で彷徨っていた所を蜘蛛女に捕らえられた英里子は食べられない部分である布をはぎ取られた状態で手足を縛られて蜘蛛の巣に磔られていた。

「さてと……デザートは貴女にしようかな?」

「ひいっ!」

 カタツムリを食べつくした蜘蛛女は部屋の壁に付けられた蜘蛛の巣足場を伝って英里子の元に向かってくる。

「くっ、蜘蛛の姐さん。うち美味しくないで? 肉も硬くて、骨っぽいだけよ? それよりさっき毒を打ち込んだにも関わらず逃げた特大のカタツムリさんはいいんですか?」

「あら、お気遣いありがとう! でもね……貴女の方が美味しそうよ」

「それは気のせいやで、美人なクモの姐さん。ウチ食うたら腹下し……ひゃあん!」

 説得の最中、蜘蛛女に顔をベロリとなめられた英里子は悲鳴を上げる。

「うふふ、可愛い声ねぇ……こうすればもっと綺麗な声になるかな?」

 そう言いつつ蜘蛛女は人間上半身のボンテージをほどく。

「あqqqqqswでrftgyhじゅいこlp!」

 蜘蛛女のボンテージ下、そこに隠されていた胸部から腹部に縦に大きく開いた口。声にならない悲鳴を上げる英里子を蜘蛛の巣から剥がした蜘蛛女は器用に糸でぐるぐる巻きにする。

「ああん、たまらないわぁ……こんな新鮮で可愛い子が私のご飯になるなんて! せっかくだから足からゆっくり、ゆうっくりと呑み込んで……肉も骨も内蔵も全部消化して栄養にしてあげる! いただきまぁ……」

『ウォーター!』

「きゃっ!」

 いきなり顔に冷水を浴びせられた蜘蛛女が下の方を見ると、そこにいたのは青いフードで杖をこちらに向けた女だ。

『フレイムスラッシュ!』

 その隙に死角から火炎剣で斬り上げて来た男の剣撃を紙一重で交わした蜘蛛女は英里子を離して落としてしまう。

「ああっ! わたしのごちそう!」

 蜘蛛女は英里子を回収しようとするものの、粘つく巣の上を自在に走り回って斬りつけて来る男に対処するので精いっぱいだ。

「美香! 走れ!」

「はいっ!」

 糸巻き状態にされた英里子をエレメント能力で生成した液球クッションで受け止めた美香はすぐにセーフティールームめがけて走り出す。

「逃がすか!」

『クイーンフェロモン!』

 蜘蛛女は腹部からガスを噴出。それを嗅ぎ付けた大蜘蛛・小蜘蛛、様々なサイズのギガントスパイダーが大部屋に押し寄せる。

「ひぇぇぇぇ!」

「お前たち! 女王蜘蛛クイーンアラネイアの命である! メス2匹は生け捕って我が肚に収めよ! オス1匹は殺せ!」

 女王のフェロモンで招集されたギガントスパイダーは全方位から一気に探に飛び掛かる。


【第4話に続く】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る