最終話 真相と真実

あのメールを送って1時間ほどすると、返事が来た。


今週の土曜日はどうでしょうか。またあのカフェで会いましょう。

桐野

やっと話の続きが聞ける。さゆりという親友のことも気になるし、何よりあの彼のことが気になって仕方ない。私は胸を躍らせながら、ぜひ土曜日に。と、文面にこそ表れていないが、喜々としてパソコンを打った。自分でも人の恋愛話にこれほど興味を抱くことができたことに驚いている。世間は惚れた晴れたの恋愛リアリティショーが蜘蛛の巣のように張り巡らせている。どれも同じようなコンセプトでつまらない。でもこの桐野葵という女性の恋愛物語に強く惹かれている。彼女に会うことだけを考えていると、すぐに土曜日を迎えた。


「お待たせしてごめんなさい。早速ですが、もう話してもいいですか。私この後人と会う約束をしていて」それなら、別日でもよかったのにとも思ったが、私の返答をまたず、話し始めてしまった。


さゆりの本当に好きな人はやっぱりあの彼でした。あなたも気づいていたでしょうけど、まさか漫画みたいなことが現実にあるなんて思わないでしょう?彼だと確信したのは、彼とさゆりが初対面のはずなのにどうも知っている様子だったです。部活が休みの日に、さゆりと2人で地元のショッピングモールへ出かけた時でした。目当ての服屋で服を物色したあと、フードコートで昼食を食べることになり席を探していました。その時後ろからトントンと肩をたたかれました。振り向くと彼がいました。


あそこの席良かったら使って、もう俺は済んだから。


久しぶりに会っても相変わらず彼は変わっていませんでした。耳を赤くしながら恥ずかしそうに話しかけてきたんです。ありがとう、それじゃあと何か過去のことを思い出して冷たくあしらってしまいました。初恋はうまくいかない。そんなことみんな知ってるのに、なぜか彼にやつあたりしたくなってつい意地悪い対応をしてしまったんです。隣にいたさゆりも耳を真っ赤に染めていました。ん?これは何かあるぞ。彼を知っているんだと思いました。譲ってもらった席に着くのと同時に、彼を知っているの?とすぐに聞きました。さゆりは長いまつげをはためかせながら、「うん。丁度高校を入学したときくらいかな。いつも通学に使っているバスで見かけたことが何度かあって。いつも音楽を聴きながら参考書を開いているんだけど、その姿が取っても印象的で覚えてたんだ。葵は元から知り合いなんでしょ。どんな人なの?」

そう話すさゆりの顔は完全に恋する乙女の表情をしていました。

口には出さないけれどさゆりのことが憎くなりました。私の方が先に好きになって私の方が先に知り合っていたのに。そう思いだしたら昔の淡い気持ちが思い出されて、

また彼に惹かれそうになりました。でも、もう終わった恋です。二度と好きにはなっていけない人。もう過去の人。私もしばらく会ってなかったから、どんな人なのか忘れちゃったと教えるのが惜しくなって嘘をつきました。そんなことで張り合っても仕方ないのに。好きな人がいながら別の人と付き合っている彼女が憎い。もうご飯を食べている場合ではありませんでした。用事ができたから帰るねとそのままさゆりを置いて帰路に着きました。まったくひどいことをしたと思います。でもどうにもできない昔の恋心のせいで、友情にひびをいれるわけにはいかないので、感情を押し殺して、ひとり泣いて歩いているうちにいつものまにか家の玄関に立っていました。


玄関の鏡の前で自分の紅潮した顔をみるのは嫌でした。こんなこと忘れたい。初恋なんていらない。私は友達といれればそれでいい。全部の感情が混ざり合っておかしくなりそうでしたが、家にいた母に見られたくなかったのですぐにいつもの顔を作りました。明日はいつも通りに。何もなかったようにさゆりに謝るんだ。と意気込んでいたら、さゆりから電話がかかってきて「大丈夫?体調悪かったの?明日また学校でね。お大事に」とだけいつものように一方的に話してすぐ切ってくれたのでなんだか拍子抜けでした。彼女のある意味自己中心的な性格に救われて、今でも良好な関係で

いるんですけど。まぁざっくりこんな感じですね私の淡い恋の想い出というと。じゃあもう時間なのでお先に失礼します。


彼女も十分自己中心的だと思うが、そのおかげで一気に話の真相が理解できた。これで小説のベースを作ろう。誰にでもあったようでなかった恋の物語。そうだタイトルはどうしようか。そういえば彼女はこの後、誰と会うのだろう。まさかね…。



memo

新作タイトル 「今宵も月が綺麗ですね」



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今宵も月が綺麗ですね 涼野京子 @Ive_suzun9

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