第3話 彼

高校1年生の春に初めてバスに乗って、学校へ行くことになりました。バスには学生かサラリーマンばかりが乗っていて、まあ正直に言うと変わり映えのする景色ではなかったです。でも通学し始めて一週間くらいして肩をとんとんってしてきた人がいたんです。それが彼でした。久しぶりっとあの時と変わらない眩しい笑顔で話しかけてきたんです。元気だったとかどこの高校に行ったのとかそんなことを聞いてきて、私は元気だった、さくら高校だよと答えるしかありませんでした。一問一答のような歴史単語を復唱しているような感覚でした。変でしょ?会話とは言えなかったと思います。それで、彼は先に降りて行ってあっさりと別れました。でも私は内心ドキドキしていたんです。また会えたって、やっぱり彼と話していると落ち着くなってそう思いました。彼はシャイな性格でしたから、話しかけるだけでも相当勇気が必要だったと思います。小学生の時もそうでしたから、ずっと私の方が、会話が途切れないように気を付けていました。


彼がバスを降りたあと、しまったと思いました。連絡先を聞いていなかったんです。やっと高校生になってスマホを買ってもらったというのにうっかりしていました。兄は知っていたでしょうけど、私から聞くと気まずいですし、なんといってもなぜお前が聞くんだということになるでしょう?だから次会ったときに絶対に聞こうと心に決めました。でも、その次はなかなかやってきませんでした。私はいつも同じ時間のバスに乗っていたのですが、彼はそうではなかったみたいです。期待外れの日々を過ごして彼と再会してから1か月が経とうとしていました。もうこれだけ会えなかったら運命ではない。そう考え始めて、彼のことはすっきり諦めようとしていました。

結局、どうなったかというと高校1年生の間に会うことはありませんでした。そんなもんだったのでしょうか。彼と私は。どう思います?



彼女はそこまで話し終えると、10分前よりも気分が晴れたような顔をしていた。



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