貴族に「良い結婚」が必要な理由
国王と各貴族家当主たちが身命を懸してやらなければいけないことは家督を次代に引き継ぐこと。
大半の目標は家門の権勢と資産を維持したまま次に渡すこと、有能な方ならば権勢と資産を増やした上に優れた後継者を育成するまで頑張ります。
そのため後継者である嫡男の結婚は最も重要になります。
嫡男の結婚で「毒にも薬にもならない」というものは現状維持ができるくらいのもの、薬となるのは家や領地の未来にプラスとなるもの、それ以外は毒でしかありません。
息子が幸せならばと毒を飲むなど当主失格、息子が毒を飲むなら毒が広がらないよう素早く息子を切り捨てられる方が当主に相応しいと言えます。
非情かもしれません。
でも貴族一人一人の肩に何人もの民の命が掛かっているのです。
そして結婚は二人のこと。
嫁いだ女性は夫と共に良い後継者になるため学んで将来に備えます。
しかし、この「共に」は理想です。
私の個人的な感覚ですが、嫡男の足りないところを嫁で補おうと考えるご当主が多いように見受けられます。
その具体例が王家のフレデリック殿下です。
その婚約者であった私の妃教育は割り増しの厳しさ、しかし相手が王家ですから不平不満も言えず耐え続けました。
手も抜けません。
王族として不適切となったとき、離縁ですめばよいですが首と胴がお別れする可能性もあるからです。
長く幼馴染ではあったのでこの先フレデリック様をどうなるのかは気になりますが、それは国王陛下のお考えを待つしかありません。
ただフレデリック殿下の妃教育を受けた身として言わせていただきます。
皆様、ご苦労なさいませ。
・・・ ティティス男爵 ・・・
知人から王立学園の卒業パーティーのことを聞いたとき僕は頭のどこかで「やはり」と思っていたが、ティファニー嬢があのカールトン侯爵令嬢からフレデリック王太子殿下を寝取るなんて大それたことをしでかしたと知ると僕は震えが止まらなくなった。
いくら彼女はもうサフィア男爵の養女だと自分に言い聞かせても、そのあまりの罪深さに血縁である我が家にも何かしらのお咎めがあるのではないかと今も怯えている。
ティファニー嬢は僕の実弟と平民の女性との間に生まれた子だ。
弟は貴族であることを捨てて妻と平民として生活していたためティファニー嬢は自分に貴族の血が流れていることを知らないまま育ったが、流行病で両親が相次いで亡くなる際に母親が彼女に父親の素性を明かした。
看取った医師が人情家で、十四歳の未成年を放ってはおけないと伝手を辿って我が家にティファニー嬢を連れてきた。
非情かもしれないが僕はとても困った。
僕の妻はよくできた女性で、ティファニー嬢の祖父にあたる父さえも亡くなっている以上は行き場がないからと彼女を受け入れた。
すでに僕たちの息子二人がどちらも成人していて、二人とも僕と同じ城の文官職についていたから我が家には経済的余裕もそれなりにあった。
しかし僕も妻もすぐにティファニー嬢を受け入れたことを後悔した。
貴族を知らない彼女はイメージで貴族として振舞った。
使用人に威圧的に振る舞い、僕たちにドレスや宝石などを要求する彼女に僕も妻も散々注意をしたが彼女は聞く耳を持たなかった。
叱責をすれば癇癪を起こす彼女に僕と妻は一緒に暮らしていくのは無理だと早々に誤りを認め、プロの手を借りようと彼女を全寮制の学院に入れることに決めた。
学院に入れば正しい貴族としての行動を学ぶことができるし、卒業するときには成人しているので家から出しても周りに咎められることはない。
ティファニーは平民だったのでさほど難しい試験ではなく、ギリギリではあったが合格できた。
屋敷を出ていくティファニー嬢の姿に我が家に平穏が戻ったことを喜んだが、それも長くは続かず入学して三ヶ月後にうちにある子爵から手紙が届いた。
付き合いのない方からの突然の手紙に戸惑いながらも格上からの手紙を読まないという選択肢はなく、中を見ればティファニー嬢が彼の娘の婚約者と仲良くしていて困っていると書かれていて仰天した。
直ちに学院に行ってティファニー嬢を叱ったが「お友だちと仲良くしただけなのに」と不貞腐れるだけだけ、この様子に説得は無理だと思うと同時に彼女は大それたをやらかすと予感した。
それで実際やらかしたのだから僕には先見の明があったのだろう。
しばらくしてサフィア男爵から彼女を養女としてほしいと言われ、僕はその申し出に飛びついた。
子どもがいないサフィア男爵が彼女を政略の駒として扱うのは目に見えていてが僕は家族を守りたかったし、その話をすると彼女は二つ返事でサフィア男爵の養女となった。
「ティティス男爵」
柔らかいのに硬く感じる不思議な声に僕は背筋をピッと伸ばしつつも素早く後ろを振り返る。
「カ、カールトンこ、侯爵閣下!」
なんでこんなところに……と思いたいけれど理由は痛いほどわかる。
僕が閣下に呼び止められる理由などあれしかない。
「忙しそうだから簡潔にすませよう。君と君の優秀な息子さんたちはこの国に必要だ、君たちをあの者たちと一緒に裁くことはないから安心したまえ」
わざわざそのことを伝えにきてくれたのだろうか、閣下が自ら?
「ミーニス商会長のお父君に代わってうちに納品にきた君の奥方があまりにも酷い顔色だから私の妻が心配して話を聞いたのさ」
頼りになる妻よ、本当にありがとう!
「剛毅で強かなところが私の妻は気に入ったようだ。今度の夜会にはぜひ奥方と参加してくれたまえ」
カールトン侯爵家から夜会の誘いがくるなど夢のようだが……婚約破棄からさほど時がたってないこの時期に夜会?
「ルシールの婚約が決まったんだ」
早っ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます