第6話 魔王討伐


「カード化!」


 なんとかカード化出来たので地龍は居なくなった。俺の手には地龍のカード。

「カード化」

 残ったモンスターも全部カードになって俺に集まって来る。

 カードホルダーが無限なのを今初めて知ったよ。


「「「うおぉぉぉおぉぉぉ!」」」

 「勝ったぞぉー」

   「護ったぞォォォォ」 


 みんな雄叫びを上げているが、余りにも死んでいるモンスターの数が少ない。

 でもそんなことはお構い無しでいまは勝利に酔いしれている。


 さてと、宿に戻ろうかと思ったら、テルハさんに遮られる。


「地龍を仲間にできたのか?」

「皆さんが瀕死まで持って行ったおかげですよ」

「それならばなぜテイムした!討伐直前だったのだぞ!お前のユニークのせいで!」

 え?

「それは…地龍がブレスを吐こうとしたからで」

「それでも!……ならば良い。何もなしにテイムするような奴ではなかったな。それにテイムに助けられた。悪かったな」

「……」

 俺は余計なことをしたのだろうか?

 皆が喜んでいるのに、俺だけがすこしブルーになってしまった。


「何もやる気が起きない」

 あれから一週間、俺はやる気が起きなくなっていた。

「兎丸。俺は余計なことをしたのだろうか?」

「キュッ?」

“コンコン”

「開いてまーす」

「入るぞ」

 テルハさんが入ってきた。

「まずは済まなかった!ドラゴンが討伐直前でいなくなったので気が立っていたが、お前に当たることはなかった!本当にすまない!」

「いえ。もういいですよ」

 もういいだろ。

「いやよくないだろ!聞こえていた、余計なことをしたと言っていただろう!」


「現に余計なことで、みんなで討伐出来た方が良かったですし」


「お前はブレスを出すのが見えたんだろ?」

「その前に討伐出来たかもしれませんし」


「お前は沢山の命を救ったんだ」

「それはどうですかね?ブレスが他の方を向いたかもしれないし、分かりません」


「ほらな?坊主にゃちと早いと思うぞ?」

 おばちゃん?

「ですが私の言った事でユートが」

「時間がかかる。ユートのやった事は多くの人を救ったのと同時に多くの英雄になるチャンスを奪ったのだから」

 おばちゃんの言う通りだ。

「ですが!」

「だまれ!お前が一番悔しがっていたのだろうが!いまさら態度を変えてどうなる?」

 テルハさんは涙を流してる。

「ユート。お前のやった事全部に責任なんかない。あの時出来ることをやっただけだ」

 俺は俺の出来ることをした。でも、

「たらればで死んだかもしれない、いや、討伐出来たかもしれない。そんなことはどうでもいい」

「どうでもいい?」

「この街が守られたことにかわりはないからのぉ」

 おばちゃん。

「それだけじゃ。帰るぞテルハ!」

「私はまだ……」

 扉が閉められてまた一人になった。


 街が守られただけでいいのか?

 

 俺には分からない。



 暇なのでカードの合成をしている。

 宿は金を払っているので俺が出なくても構わないだろう。


「カード合成」


 カードが光り一枚になって別のカードになる。またハズレ。


 俺はもう帰りたいんだよ。

 こんな世界より日本の方がマシだと思った。


「カード合成」

 またハズレ、いつになったら帰れるんだ?


「カード合成」

 またハズレ、俺は運がないな。


 ベットに横になる。

 兎丸も一緒だ。

 俺たちはただ頑張っただけなのになぁ。


「はぁ、飯でも食うか」

 下に降りていく、


「あんたまだ外に出ないんだね?何やってんのさ?」

「あ?良いだろ別に」

「まぁ、いいけどね」

 女将も呆れているようだ。


 ここに居場所はないな。

「わかった、明日出ていくよ」

「……はいよ」

 飯を食べ、部屋に戻る。

 シャワーを浴びてスッキリすると、どうでもよくなってきた。

「何だ。俺が考えすぎてただけか」

 この世の中がどうなろうが知ったこっちゃない。俺の世界じゃないからな。俺は俺が好きなように生きる。


 次の日、俺は荷物をカード化し、部屋を出ていく。モニカが寂しそうにしているが知ったことではない。


「あんた!いまからどうするんだい?」

「あんたの知ったことか!俺の生きたいようにやるよ」

 宿の扉を乱暴に閉める。


 いまさら心配されても困る。

 どうせ俺はモンスター使いだからな、魔王にでもなるか?いいかもな!どーせならモンスター全部が俺の仲間になればカードホルダーのレベルも上がるだろ!


「兎丸!仲間を増やすぞ」

 仲間はモンスターだけで十分だ。

「待て!ユート!私が悪かったと言ったじゃないか?なぜ分かってくれない?」

 テルハか。あんたのおかげで吹っ切れたよ。

「しるかよ?お前に俺の気持ちがわかるのか?」

「悪かった…としか言えない」

「テルハだっけ?俺はモンスターを仲間にして魔王になる!お前は俺を倒せ!名声が手に入るぞ!」

 俺の憧れた人はもういない。

「そんなことはやめてくれ!そんなことやめてください」

 膝をつくテルハに何も感じない。

「ははっ!無理だ!俺は俺のために生きると決めたからな!」

「お願いだからやめてください。この通りです」

 土下座をするテルハ。


「あんたはそれで良いのかい?」

「おう、おばちゃん!いいに決まってるだろ?この街を救った?だからなんだ?壊してしまえばいいだろ?」

「やめろ!この場で殺してでも止めるぞ」

 おばちゃん、殺してくれよ。


「ククッ!カード召喚!」

 地龍を召喚する。

「ほら、早く殺して見せろよ?じゃないとこれじゃ済まないぞ?」

「あぁ、あんたが壊れちまったのは私の責任でもあるね」

「壊れちまったものはもう壊れようがないけどな」

 俺は地龍に暴れさせる。

「じゃあな」

「地獄でまってな」

 おばちゃんバイバイ。

 俺は悠々と門から出ていく。

 街の中は阿鼻叫喚だ。


「ははははははは!」


「この分からず屋が!」

 テルハが剣を振り下ろすが、

「兎丸」

 兎丸がテルハの剣を刎ねる。


「地獄に堕ちようぜ?」


「絶対に堕ちない」


「あっそ!じゃーな」

「私は諦めないからな!」




 もう一年になるのか?

「兎丸!」

「は、ここに」

「人間どもはどうなっている?」

「大半が絶滅しています」

「そうか。あいつは?」

「テルハはまだしぶとく生きています」

「あははは」

 俺は一年とかからずに魔王と呼ばれるようになった。

 人間を、守るより殺した方が早いことを知ったし。モンスターの方が従順で言うことない。

 カードホルダーもカードマスターに変わってしまった。もう帰る場所もない。



「なんだ?騒がしいな」

「テルハが来たようです」

「あははは」

 面白い!実に面白い!

「カード化」

 全てのカードを今俺は手にしている。

「ユートォォォォ!」

「そこは魔王だろ?」

「なぜ!なぜ!こんなことまで!」

「あん?キッカケはあんただろ?」

「だから!キッチリけりをつけに来た!」

 ぼろぼろの勇者テルハ!って感じか?

「カード召喚」

「なっ!なぜ勝負しない!」

「なぜ?勝負しないといけない?」

 テルハの絶望仕切った顔がよく見える。


「兎丸。俺の首を切れ」

「は!」

「じゃーな!勇者テルハ……」

「ユートォォォォ!」


「こんなはずじゃ。こんなはずじゃなかったのに!」


「神よ!せめて私の手で殺させてくれ!なんで!なんで!兎丸ぅぅぅ!」


「キュ」

 兎丸は元のホーンラビットへと変わっていた。


 カード合成が解けたモンスター達も自分の好きな場所に飛んでいってしまった。



「私が悪かった、私が悪かったのだ、誰かぁぁぁ!私を殺してくれェェェェェ!」



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カードホルダー〜異世界転移した俺はいつかあの人を〜 あに @sanzo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ