最終話 私達、魔砲使い少女パーティーです!

『モンスター!?』

『ここは街の中央部だぞ!』

『一体何が……!』


 会場は一気に騒然となった。

 モンスターの組織的な動きが活発化しており、月に1~2回 “威力偵察”で街の近くで小競り合いはあるが、ここまで警報が鳴り響く事は初めてだ。


「どういう事よ!」


 カテリーナが警備員に詰め寄ると、その警備員は答えた。


「空です! 空から多数の大型モンスターが街の中央部に向かっているのです。一直線に!」


『空から!?』

『陸からの襲来はあったが、空からは初めてだな』

『奴ら、今度は本気か?』



「皆様は決して外には出ないように。そして、戦える者はお力をお貸しいただきたい!」


 空から襲撃するモンスターの場合、相手が接近して来ない事には戦う事が出来ない。飛行艇を飛ばす事も可能だが、基本的に不利な戦いになり、そもそも今からでは間に合わないだろう。


 だから人間側がすべき事は、どこにモンスターが着地しても即座に対応が出来るように、適切な人員を配置する事である。



 そう、今日までは。



「……フフッ。絶好のチャンスがやってきたわ!」


 戦闘の準備等で周りが慌ただしく動いてる中、リリィは勝ち誇った顔を見せた。


「リリリン?」


 ルリノがその様子を見てリリィに声をかけるが、リリィはそれには答えず、会場にいる人達に宣言した。


「皆さん! 今から私達の力をお見せします。デモンストレーションでは無い”本当の力”を! 皆さんは安全な所から刮目してご覧ください。これが”新しい時代”です!」


 高らかに宣言すると、続いて3人に「行くわよ!」と声をかける。


「ほ、本当ですか? 今日はデモンストレーションだけだって……」


「何言ってるのよレイシア! これは最高のチャンスなのよ!?」


「で、でも……」


 急な展開に戸惑うレイシアとは対照的に、ファムとマァムの二人はノリノリだった。


「いいね! 楽しくなってきたわ!」

「最高のデビューを見せてあげましょう!」


「勿論フルパワーでいくわよ!」

「え、えええぇぇ!? まだ試射しかしてないのにぃ!」

「大丈夫。私を信じてレイシア!」


 そう言いながら、4人は部屋から勢いよく出て行った。


……

………


「それでどこ行くのよリリィ」

「屋上よ!」

「そうね! 障害物は無い方がいい!」

「そういう事!」


 そして屋上までたどり着くと、4人は飛来してくるモンスターを探した。


「どこにモンスターがいるのかしら……」


 その時、下の方から声が聞こえてきた。


「リリリーン! そこじゃない! 西の方向から来るらしいわ!」

「ルリノ!?」


 モンスターと戦える若いルリノやカテリーナ達も、建物の外に飛び出して、モンスターの襲来に備えていた。


「ありがとうルリノ!」

「そんな事より頑張ってね! 楽しみにしてるわ!」


 良く見ると、ルリノは杖こそ持っているものの、衣装もそのままで戦うという雰囲気では無い。間違いなく” 私達を見る為に外に出たのだ”とリリィは確信した。


「さて。観客もいるみたいだし、そろそろステージを始めますか!」


 遠くからゆっくりとやってくる、鳥形の大型モンスター4体と無数の小型モンスターを視認して、リリィはそう宣言した。


 4人は集まって立ち位置を確認した後、それぞれの体勢を整える。


 鞄からクリスタルのアイテムを取り出して、片膝をついて衝撃に備えるリリィ。

 その両側に立ち、静かに目を閉じて集中を始めるファムとマァム。そして一番後ろで両手を前に出すレイシア。


 これが4人の一番能力を発揮するポーズ。

 後は、準備が出来た二人が歌いだすのを待つだけだ。



 モンスター達はまとまって我が物顔で空を飛ぶ。しかし、それも今日までだ。人間は絶えず進化しているという事を忘れないで。とリリィは呟く。


 少ししてからファムとマァムの口から静かに、そして優しくも力強い歌声が広がっていく。


 その歌声を地面で聞いた者たちは、訝しげに上を見上げる。


『歌?』

『こんな時になによ!』

『戦場で歌が聞こえてくるなどと……!』


 という声が聞こえてきそうな状況の中、ルリノはモンスターそっちのけで4人がいる所をじっと見ている。


 “ついに始まるんだ!”という期待を胸に秘めながら。


 双子が奏でる二つのメロディーラインがきれいに並び、時には複雑に絡み合いながら静かに、そして力強く進んでいく。


 そして、その不思議な歌がサビに近づいた時、屋上から辺りの空気が震えるかのような強烈なマジックパワーが放射された。


『!!』

『何だ!』

『なんて強力なマジックパワー……!』



 リリィは、マジックパワーの嵐の中心で呪文の詠唱を開始する。

 

 まるで祈りのような呪文が二人の歌と混ざる。

 

 それに応えるように巨大な魔法陣が浮かび上がり、リリィと二人の歌が同じ言葉を発した。



――光あれ!



 その瞬間、辺りに満ち溢れていたマジックパワーが様々な色の光を発した後、急速にクリスタルの中に吸収されていく。

 その圧縮されたマジックパワーは、クリスタルの中で眩い光を放ち始めた。

 昼にもかかわらず、眩しく輝くクリスタルは、まるで小さな太陽のようですらあった。


 そして、リリィは呪文の最後の一節を告げながら、グリップに付いていたスイッチをゆっくり前に倒す。



――そして、静寂と安らぎを……!



 光り輝くクリスタルの先端から、黒と紫が入り混じった未知の光が一直線に発射される。

 その光は、遠くにいるモンスター達を飲み込むくらい大きく広がり、光に包まれたモンスターは叫び声を出す間もなく一瞬で蒸発した。


 いや、“消失した”と言った方が正確かもしれない。それくらい呆気ない最期だったのだ。



『な、何よ。今のは!』

『まさかこんな事が……!』

『恐ろしい。悪魔の所業だ』


 この光景を見た者は、何が起こったか理解する事が出来ず、ただ屋上を見上げる事だけだった。


「何て事をしてくれたの。リリィ・リン……!」

「リリリン……」

「……あれがノルフィの娘、か」

「…………」


 地上で様々な反応を見せている中、リリィは満面の笑みを浮かべる。


「これが私達の力。そう、私達は魔砲使い少女パーティー、”カノン”よ!」


 リリィは力強く宣言しながら、まだ微かに光を帯びている聖なるクリスタルを、誇るように頭上へ掲げた。



――この一撃が世界を大きく変えていく事を、まだ誰も知らない。



----- 第一章 完 ----





―――――――――――――――――――――


最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

今回は第一章、11話までの公開となります。


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