第十話 リリィの思い

「私はこの場を借りて皆様に申し上げたい。ここにいるリリィ・リンは、学会にいてはいけない害悪だという事を!」


 魔法総会が始まって数十分後、40人以上参加している大会議室の中で、カテリーナの声が響き渡った。


「彼女は学会に在籍した現在も常識外れた行動を繰り返し、学会の権威を貶めようとしている。今までの先人が築き上げた栄光ある歴史を汚し続けている。私はそれを見過ごす事は出来ません!」


 それを聞きながら、リリィは静かに発言の機会を待っていた。


(……個人的な感情を大義と置き換えて弁論する。世界が大きく動きつつあるのを一切見ない。いや、見えないフリを繰り返す。まったくくだらないわ)


「確かに、リリィ・リンが豊富な知識を持った優秀な人材なのは認めます。しかし、特別な血統も持たずに実際の魔法スキルは普通の魔法使い以下。そんな人がこの栄光あるルエスタ魔法学会に在籍している事自体、おかしいと思いませんか!?」


 カテリーナの怨恨混じりの弁論は続く。いつもなら「ただの戯言」だと無視していれば良いが、他の有力者を味方に引き入れた今となってはそうもいかない。


「なによ。あの女えっらそうに」

「話を聞いてたら、リリィは何も実害与えてないじゃない。意味わかんないわ!」


 小さな声で呟く二人に、リリィは悪戯っ子な表情をしながら、シーッと人差し指を口に当てながら呟いた。


「これが今の魔法界隈よ。まったく、くだらないわよね」


……

………


 それから数分間、カテリーナは弁論を続け、最後にこの発言で締めた。


「私はこの女が近い将来、魔法という崇高で聖なるモノを地に貶める事になると確信しております。その前にここから追放すべきなのです!」


 カテリーナが礼をした時、パチパチパチ!とその発言に対して拍手する人が大半を占める。

 逆にしていない学会員はルリノとレイシアの父が率いる学派一同、そしてカテリーナの父である学会長くらいだ。


「リ、リリィさん……!」


 レイシアは異様な雰囲気が怖くなり、思わずリリィの服を掴む。「大丈夫よ」とリリィは優しくその手を握った。


 拍手が収まった後、進行役がリリィに問いかけた。


「今のカテリーナの発言に反論や言いたい事はありますか?」

「はい」


 そう言いながら、リリィはすっと椅子から立ち上がる。

 

 その様子を不安そうな顔で見つめるレイシア、ファム、マァム。

 逆に目を輝かせてワクワクが止まらないルリノ。

 そして、勝利を確信した表情のカテリーナ。


 皆の視線を一身に受けながら、リリィは静かに喋り始めた。



「私は、このミト国で一番権威がある魔法学会、ルエスタに在籍させていただいている事に感謝しております。そして、それをとても誇りにも思っております」


 !?


 てっきり彼女は喧嘩腰で来るだろう。と思っていたカテリーナ達は、予想外の始まり方に少し困惑していた。


「それは、今までの積極的で献身的な活動、そして、“ミト国の魔法水準の向上を目的に魔法に関する技術の研究促進を図る“という、設立目的に強く賛同したからです。しかし、実際に在籍して残念な事がありました」


 リリィは、ゆっくりと参加者の顔を見渡す。


「それは過去の歴史や伝統に固執して、今生まれつつある変化に対応しようとしない事。そして、今の学会が行っている事が設立理念に即してない。と思わざるを得ない事です」


 そう言うと、リリィは鞄から青いクリスタルを取り出し、ゆっくりと机に置いた。

 前半分はクリスタルがそのまま露出しており、後ろの方は掴みやすくする為に木製のグリップが取り付けられている。


 その独特のグリップや、見た事が無いギミックは、”これはただの宝石でも装飾品ではもない。何かのマジックアイテムだ!” と強くアピールしており、次第に学会員がざわめきだした。


『そ、それは一体……』

『このクリスタルは、もしや!』


 リリィはこのアイテムについて説明を始めた。


「ご存じの方もいらっしゃるでしょう。これはルマルの村でしか取れない、”聖なるクリスタル”と呼ばれる物です」


『……!』

『やはりそうだったか……』


 参加者全員が”ルマルの村”という単語に反応したのを見て、リリィは話を続けた。


「その皆さんの反応を見る限り、噂をご存じなんですよね? この前のモンスター襲撃の際に起きた”謎の大爆発”の噂を」


『その件に触れてはいけない!』

『やめるんだ!』

『あれはでっち上げだ! 嘘っぱちだ!』


 今まで黙っていた学会員が急に騒ぎ始める。


「たとえ、ミト国から箝口令が敷かれているとしても噂は広がるモノです。しかし、あなた達は何故、それについて調査や研究しないのですか!」


『……』


「私はその事が一番悲しいです。魔法は日々進化していくものです。そして、もっと便利で日常生活に溶け込むモノなんです」


 そう言いながらリリィはクリスタルを持ち、横にいる3人に声をかける。


「いいわね。いくわよ」

「「「はいっ!」」」


 その発言に、周りがどよめく。


「私はルマルの不思議な現象に関する仮説を立て、研究、実験を繰り返した結果、全てではありませんが一部解明する事に成功しました。そこで……」


 リリィはニヤリと笑いながら言った。


「今、その証拠をお見せしてもよろしいでしょうか?」


『!!??』


 大会議場は騒然となった。


「やめなさい! 魔法総会でそんな暴挙は許されません! お父様、お父様からも止めるようおっしゃって下さい!」


 カテリーナは学会長である父に中止させるよう促したが、学会長は少しの間だけ目を閉じた後、ゆっくりと、しかしハッキリと告げた。


「……いいだろう。やってみせろ」


「お父様!?」


 驚くカテリーナをよそに、リリィは歓喜の声をあげた。


「ありがとうございます! やります!」


 学会長の発言により、カテリーナや他の学会員は何も言えなくなり、ただリリィ達を睨みつける事しか出来ない。


 そして数分後、よし、始めよう! とリリィが顔を上げた瞬間、扉が勢いよく開いて外にいた警備人が大慌てで入ってきた。



「緊急事態です! モンスターの集団がこちらに向かっています!」

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