第九話 魔法総会当日
――そして魔法総会当日、全ての舞台は整った。
「さぁ、いくわよ!」
「私達は別にいいんだけどなぁ」
「「ねー」」
「まあまあ。リリィさんの目的でもありますし」
「……まぁ、デビューは派手な方が良いしね!」
「そうそう! 偉い人達の度肝を抜いて“ざまぁ”してやるんだから!」
4人は魔法学会の入り口に立ち、そこで円陣を組む。
『えいえいおー!』と気合を入れると掛け声が周りに響き渡った。
こうして、リリィの長い一日が始まった。
…
……
………
「さて、ゲストパスも受け取ったし、中に入りますか!」
受付所に向かうと、高そうなスーツを身にまとったカテリーナが、勝ち誇った顔でリリィに近づいてきた。
「お久しぶりですねリリィさん。とうとう学会から追放される気持ちはどうですか?」
「そうね。今からあなた達の ”ざまぁ” が見れると思うと、楽しみで仕方ないわ!」
「リリィさんは一体何を言って…… って、あなたはフィナカーン家の落ちこぼれじゃないですか」
「お、お久しぶりです。カテリーナさん……」
レイシアはビクビクしながらも、カテリーナの前に立ちお辞儀をする。
「他のお兄さまやお姉さま方は、立派な魔法使いになったというのに、あなたはロクに魔法も使えず見捨てられた恥さらし。よく神聖なこの場所に来れたものですね」
そう言って見下すカテリーナの目の前に立ち、リリィは睨んだ。
「私の友達をバカにしないで」
「うっ……」
いつもより低い声でカテリーナを威圧する。
「……まぁ、いいですわ。どうやってゲストパスを手に入れたかは存じませんが、リリィさんの追放が決定する瞬間を、間近で見守る事ね。アハハハッ!」
笑い声を響かせながらカテリーナは中に入っていき、入れ替わりに受付のお手伝いをしていたルリノがやってきた。
「リリリン! やっと来たのね!」
「ルリノー久しぶりー!」とリリィは両手を握り、レイシアとファム、マァムはルリノに会釈をした。
「とりあえず、今日の流れね」
ルリノは手に持ってるプログラムを広げ、大まかな説明を始める。
「……で、今年の活動を報告する所で、カテリーナの報告と提言が入り、その時に追放が決定したら即刻退場させられるわ」
「まったく、あの女らしいやり方ね」
「リリリンが発言出来るのはその審議中の1回のみ。そこでみんなを説得出来るかどうかよ」
「そうね。私に残されたワンチャンス。それをモノにしてみせるわ」
「うん」
ルリノは4人が何をするのか、詳しい話は聞いていない。しかし、リリィの自信に溢れた表情。そしてパーティーとして来ている事で確信していた。
――今日、何かとんでもない事が起こる。
ルリノは楽しそうな表情を見せる。
この表情から「いつもは退屈な魔法総会だけど、今回は楽しみでワクワクが止まらないわ!」という台詞が聞こえてきそうだ。
「リリリン。みんな」
「ん?」
「はい?」
「うん」
「何です?」
「楽しみにしてるねっ!」
ルリノは目を輝かせながらそう言うと、手を大きく振りながら元の場所に戻っていった。
「……楽しそうですね。あの人」
「うん。ルリノは私の事を理解してくれる数少ない友人。そして私と志を共にする、”戦友”よ」
そう言いながら、リリィは鞄に入れているクリスタルに触れる。
――きっと大丈夫。私はノルフィ・リンの娘なのだから。
4人が受付の方に行こうとすると、そこに現れた男達の中の一人を見て、不意にレイシアは足を止めた。
「……あっ」
「…………」
レイシアの存在に気づきじっと見る大柄の男性。ルエスタ魔法界隈の重鎮であり、フィナカーン家の当主。そしてレイシアの父親だ。
「お父様……」
そう呟いた後、レイシアは下を向いて何も言う事が出来ない。
「…………」
父親は娘に何も言わずにそのまま歩いていった。
「ちょ、ちょっと一言くらい娘に何か……」と言いかけたのをレイシアは止めた。
「リリィさん、いいんですよ。いつもの事ですから……」
「で、でも今の態度は流石に……」
そう言いながら、リリィは先ほどのカテリーナの言葉を思い出していた。
“ロクに魔法も使えず見捨てられた恥さらし”、そしてレイシアがパーティーに入る時に言っていた “フィナカーン家の恥” それらの言葉が彼女をずっと苦しめている。
(私とは違う形ではあるけれど、同じ苦しみを味わっている。こんなのいけない。私はレイシアの為にも頑張らないといけない……!)
リリィはレイシアを見ながらそう強く思った。
「行こう? レイシア。私もレイシアも、勿論ファムとマァムも凄い魔法使いだって事を見せつけるんだから!」
「は、はいっ!」
「「もっちろん!」」
――さぁ、行こう。私達の明日に向かって。
そうして、様々な思惑が絡み合った、ルエスタ魔法総会はついに始まった。
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