第七話 パーティー」
「「えっ?」」
「えええええっー!?」
オープン前のお店の中で、双子とレイシアの大声が響き渡る。
あれからリリィは、レイシアを連れて2日に1回のペースでお店に遊びに行き、双子と仲良くなった矢先の話であった。
「リリィ、いきなり何を言ってるのよー」
「聞いての通りよ。私とパーティーを組みましょう」
「リ、リリィさん……」
自信たっぷりに話を進めるリリィを見ながら、3人は開いた口が塞がらない。
「店長から良い話があると聞いて、ワクワクしながら来たのにぃー」
「そもそも、何で店長が……」
ファムはカウンターを見ると、そこにいる店長は楽しそうに私達のテーブルを見ていた。
「簡単よ? 事前に店長さんとも相談して話を進めたから」
「はぁっ!?」
「何よそれ!」
「まずはこれを見て」
リリィは準備していたメモを3人に渡した。
そこには “ミト国最強の魔法使いパーティー計画!” と大きい字で書かれた表紙と、中にはいくつかの提案があった。
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・これから週に3回、指定の場所に集まって歌と魔法の研究を行う。
・その時間分、給料としてお店の2倍増しで「リン商会」が払う。
・形になったら正式にギルドにパーティー登録をして活動を開始する。
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「どうっ。良い話でしょ!?」
「…………」
「…………」
「…………」
ドヤ顔のリリィと、呆然とする他の3人。
「あのリン商会経由の話なら嘘ではないと思うけどぉ……」
「リリィは、一体何が目的なの?」
「リリィさんの目的を教えて下さい」
3人はリリィの口から出る言葉を待った。
「あのね? これは私達みんなの幸せに繋がる話なのよ?」
リリィは話を続ける。
「ファムとマァムは器用さと独自の技は凄いけど、普通の魔法については中の下止まり。しかも二人一緒でのパーティー参加希望」
「……ちぇっ」
「二人一緒は厳しいかなぁ」
「レイシアも、マジックパワーの備蓄量は尋常では無いけれど、それを使う事が出来ず宝の持ち腐れになっている」
「……」
「私は私で天才と自称してはいるけど、実技についてはからっきしでせいぜい下の上レベル。 ……どう? 冒険者になるには中々に厳しい状況だとは思わない?」
3人はそれを聞いて目を伏してしまう。
「……でもね。私達の長所をかみ合わせる事により、他とは全く違うパーティーになるかもしれない。最強のパーティーになれるかもしれない」
「しれない、か……」
ファムは少し険しい顔をしながら呟いた。
「うん。まだ仮説の段階だから断言は出来ない。でも、私の考えが当たっているのなら……」
リリィは鞄の中から青いクリスタルを取り出して、テーブルの前に置いた。
「あっ! これはルマルのクリスタル!」
「こんなに大きいのは珍しいね」
「やっぱりすぐわかるのね。なら話は早いわ」
そう言うと、リリィは二人の目を見つめながら真剣な顔で言った。
「お願い。今からあの歌を歌ってくれないかな」
「今すぐ?」
「うん」
少し困った顔を見せる二人。しかし、ここまで真剣な眼差しで見つめられたら断る事は出来ない。マァムはリリィに尋ねた。
「これは、リリィにとってとても大事な事なんだよね?」
「うん」
「そっか。ファム、いいよね?」
「勿論! 友達の頼みなんだもの。最高のステージを見せてあげる!」
「あ、ありがとう!」
「ちょっと待ってて、準備してくる!」
そう言うと二人はステージ裏に向かっていった。
「リリィさん、良かったですねっ」
レイシアは状況を掴み切れていないものの、今の雰囲気がとても心地良くて思わず笑顔になってしまう。
「ありがとう。目的は別としても、私とレイシア、そしてファムとマァムの4人でパーティーが組めたらとても楽しいと思うんだ」
「はい」
「だからこの実験を見ててね。 これでこれからの全てが決まると思うから」
「はいっ!」
レイシアは笑顔で答えた。
…
……
………
それから少ししてステージの照明がつき、ファムとマァムがステージに現れた。
「さてと」
それに合わせてリリィはクリスタルを取り出して、意識を集中させ始めた。
ステージからいつも通りの不思議で素敵な歌が聞こえてくる。観客が知り合い2人だけだとしても手は抜かない。いや、むしろいつもより丁寧に歌っている。
それは、二人がリリィの真剣さに反応したからであり、ファンと言ってくれたお礼の気持ちも混ざっていたからだ。
リリィの目当てはラスサビの前。あの黒と紫の光がステージに現れる瞬間。
二人が、その為にマジックパワーを拡散させるのと同時に、リリィはクリスタルを上に上げて呪文の長文詠唱を始めた。
「……あっ」
一瞬ファムは驚いた顔でリリィを見る。どうやら歌いながらも気づいたらしい。
これは呪文というよりは祈りの言葉、ルマルの村に昔から伝わる神に捧げる言葉だ。
そして歌はラスサビに入る。
ステージに様々な色の光が浮かび上がり、それに合わせて黒と紫の未知の物質が現れたのと同時に、
リリィは、期待と不安の入り混じった表情をしながら、最後の一節をハッキリと告げる。
――光あれ!
その瞬間、黒と紫の物質は勢いよくリリィが掲げるクリスタルに吸い込まれ、それに合わせて周りの色とりどりの光もクリスタルに吸い込まれる、
そして、それに反応したのか聖なるクリスタルは自ら青い光を発した。
「……!」
「「……!?」」
不思議な、そしてとても幻想的な光景だった。
「い、今のは何!?」
「マジックパワーが吸い込まれた……」
歌い終えたファムとマァムはお辞儀するのも忘れて、そのクリスタルを凝視していた。
「……きれい」
今のマジックパワーの流れを感じられないレイシアだが、目の前の幻想的な光景に、ただウットリしていた。
「……ふぅっ」
その後、発光が止まったクリスタルをテーブルに置き、店の外にも聞こえそうな歓喜の声が店内にこだました。
「やったわ! 私の仮説に間違いは無かった! 私は天才なのよ!」
リリィは満面の笑みで、3人の顔を見ながら『これはいける!』と確信していた。
これで新しい世界を見せつける事が出来る、と。
…
……
…‥‥……
「で、キレイなのはわかったけどぉ」
「これと私達がパーティー組むのに、どんな関係があるの?」
「リリィさん、説明お願い出来ますか?」
少ししてから3人はリリィに問いかけた。
「あっ、ごめん。そうだよね」
リリィはあくまで仮説だと付け加えながら説明を始めた。
・二人の歌と振り付けには、別の世界と繋がる不思議な力がある
・さらに独自の魔法により、そこから発生する未知のエネルギーをこの世界に具現化させている
・その未知のエネルギーを、ルマルの祈りとクリスタルで一か所に集めている
「そして、おそらくこのエネルギーは、強力な攻撃魔法に転用が出来る」
「……!?」
その言葉を聞いて、3人は顔を見合わせる。
「し、しかし、それで出来た事ってクリスタルを少しの間光らせるくらいで……」
「それは吸い込んだエネルギーを発射していないから。そして、マジックパワーが絶対的に足りていないからよ」
「そりゃあ、私達のマジックパワーはそこまで高くないけどさぁ」
「ううん。そういう話じゃないわ。別の世界から来たモノを、具現化させたままにするには相当なエネルギーが必要なの」
そう言った後、レイシアの顔を見る。
「そして、ここには人並外れた莫大なマジックパワーを持つ、最高の魔法使いがいるわ」
「わ、私……!?」
「そっ。だから、これには私達4人の力が必要なのよ」
「……」
リリィは立ち上がり、3人の顔をしっかりと見ながら深く頭を下げた。
「だからお願い、私達4人で新しい世界を見たいの」
「……」
「……」
「……」
ファム、マァム、レイシアはその光景を見て驚いていた。
たとえ長い付き合いでないとしても、リリィが簡単に頭を下げるような人では無い事を知っていたからだ。
「リ、リリィさん頭を上げて下さい。わかりましたからっ!」
レイシアも椅子から立ち上がり、リリィの頭を上げさせたあとゆっくりと語り始めた。
「……私は、今まで幾度もパーティーを組んだ人達から、『期待外れ』とか『無能』、『フィナカーン家の恥』と言われ続けてきました。そんな私でも、あなたのパーティーに入っても良いんですか?」
「ううん。違うわレイシア。私はあなただからお願いしたのよ」
それを聞いた瞬間、レイシアは涙を浮かべながら大きく「はい」と頷いた。
「ねぇリリィ、一つ聞いてもいい?」
マァムもリリィに問いかける。
「……何?」
「リリィはさっき、私達の歌には別の世界と繋がる力があるって言ったじゃない」
「うん」
「それってさ…… 私達の歌は向こうの世界で大人気って事でいいのかな?」
「だったら、私達はもっと頑張って歌わないとねっ!」
そう言うと二人は笑顔を見せる。
「ファム……マァム……」
リリィは3人に改めて頭を下げた後、心を込めて力強く言った。
「みんなありがとう! これからよろしくね!」
「うん!」
「まかせて」
「はい!」
――こうして魔法使い4人という、極めて変則的なパーティーが生まれた――
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