第六話 ファムとマァム

 

 二人のステージが終わって少ししてから、リリィは店員に「双子を呼んで」とお願いをした。


 それから数分後、リリィ達のテーブルに双子がやってくる。

 近くで見ても二人はそっくりで、そして魅力的で可愛かった。


「あのぉ、どのような用件でしょうか……」


 赤みのある髪の方が口を開く。二人の表情の硬さが少し気になるが、リリィは構わずチップとして二人にお金を渡して、称賛の言葉を送った。


「あなた達のステージとても良かったわ! あの独特の歌も、そしてあのステージ演出も!」


「えっ?」

「マジっ!?」


 それを聞いた双子は驚きの声を上げる。


「えっ? どうしたの?」

「てっきり、また怒られると思ったからぁ」

「ねー。 ビックリ!」


 話を聞いたらステージ後、時々客に呼ばれてクレームを受ける事があるらしい。


「知らない人からいきなり『あんなのは歌じゃない!』とか『魔法をオモチャにするな!』とか言われてもねぇ」


「まったく、奴らは魔法を神聖なモノとして考えすぎなのよ!」

「ホントそれ! キレイなのはキレイ。それだけでいいっしょ!」

「別に危害を与えてる訳でも無いしねー!」


 いつの間にか、双子とリリィは意気投合して盛り上がっている。

 

「ちょ、ちょっと。店内でこんな事を話すのは……」


 レイシアはそう言いながらも、その光景を微笑ましく眺めていた。


「ところであの歌はオリジナルなの?」

「そうなのっ。故郷の祈りの歌を元に作ったオリジナルソングよ!」

「祈りの歌、か…… 二人の故郷は何処なの?」

「国の外れにあるルマルという村よ」

「ルマルって、この前の……?」


「あっ……」

「まぁ、奇跡的に被害は少なかったみたいだけど…… ね」


 そう言って、二人は少し表情を曇らせる。

 ルマルは、この前モンスターの大群に襲撃された小さな村だ。しかし、事前の準備と迅速且つ勇敢な迎撃で、一気に撃退したと聞いている。


 そして、リリィはルマルの村に関する一つの不思議な噂を聞いていた。


「ねぇ、ところで近くの森に……」


 そう言いかけた時、厨房にいた店長が二人を呼んだ。

 

「ファム、マァム、そろそろ戻れ!」

「あっ……」


 気が付けば、結構な時間が経過していたようだ。


「お仕事中にごめんなさいね」

「ううん。私達のステージを褒めてくれてありがとう!」


 双子はリリィとレイシアの前で、ステージのポーズをもう一度決めた。


「私はファム・ラティ」「マァム・ラティ」

「「歌って踊れる双子の魔法使いを目指して勉強中! これからも応援してね!」」


 そう言うと、ペコリと頭を下げて店長の方に小走りしていった。


「……本当に華のある二人ですね」


 二人を見送りながらレイシアはポツリと呟いた。


「そうね」


 リリィはそう答えながらも、さっきのステージ、そして二人との会話について全力で考えていた。



──私の知識と直感、そして好奇心が告げている


「これから面白くなりそうね……」

「えっ?何かいいましたか?」

「ううん。これからもよろしくね。レイシア!」

「は、はいっ!」


 少し驚きながらも嬉しそうに言葉を返すレイシア


──ここから新しい世界が始まるんだ、と



 * * *



 あれからレイシアと別れ、家に帰るとすぐに母親の書斎へ向かった。

 今日あった事を忘れないように書き残し、ルマルについても調べたいと思ったからだ。


「楽しそうね。最近、良い事でもあった?」


 ノルフィ・リンは、その様子を楽しそうに見ながらリリィに話しかける。


「お母さん」


 魔法学会からの追放という悪い事があった筈なのに、どうしてだろう。 新しい発見を見つけたからか凄くワクワクしている。


「うん。凄く面白そうな事を見つけたの!」

「そう、良かった。なら、お母さんからもプレゼントっ!」


 そう言うと、ノルフィはポケットからクリスタルを取り出した。それは片手でようやく掴める大きめの六角柱で、青みを帯びたとても綺麗なクリスタルだ。


「えっ? これは……」


「これはね? お母さんが若い時に貰った特別なクリスタルなの。国の外れにあるルマルの村でしか見つからない、不思議なクリスタル」


 !?


「ルマルの、クリスタル……」

「そうよ。ルマルではこの青いクリスタルはとても聖なる物とされていて、不思議な力を集めたり、逆に発生させる事が出来ると言われているの」

「お母さん」

「きっと今のリリィには必要なモノ。きっと役に立つと思うわ。好きに使って良いわよ」


 そう言うと、ノルフィは悪戯っ子みたいな笑顔を見せる。


「お母さん……!」


 リリィは、母親のこの好奇心に溢れた子供のような表情が大好きで、『私もこんな笑顔で生きていきたい』 と常に思っていた。


 ルマルの村

 祈りの歌

 未知なる物質

 マジックパワー

 そして母親からのクリスタル


「……」


 リリィは動くなら今しかない! と思った。


「お母さん」

「うん? なあに?」


「今、お父さんが使ってない赤倉庫あったよね。私が借りて良いかな? 実験してみたいの」


「リリィ……」


 ノルフィは少し驚いたような声を出した後、リリィの目をじっと見つめた。


「詳しい話を…… ううん。聞く必要はなさそうね」

「えっ? 聞かないの? 何ならお母さんも一緒に……」

「娘が久しぶりに楽しそうにしているのに、親が邪魔する気はないわ。それに大商人の妻は忙しいのよっ」


 ノルフィは、我が事のように嬉しそうな顔を見せながら、うんうんと頷く。


「お父さんには私から話しておくわ。あと、他に必要なモノがあるなら言って? お母さんは娘のチャレンジを全力サポートしちゃうから」


「お母さん…… ありがとう!」


 リリィは抱きつきながらお礼の言葉を告げて、ノルフィはリリィの頭を撫でながら 「頑張ってね」 と優しくささやいた。


 少ししてノルフィが自分の部屋に戻った後、リリィはノートに必要だと思われるモノを次々と書き残していく。

 母親があそこまで言ってくれたのなら、その言葉には全力で甘える。それがノルフィ・リンの娘であるリリィの決意なのだ。


……

………


「んっ?」


 その後、リリィは古いルマルの書物を読んで気になる一文を見つけた。

 これは学説や歴史では無く、言わば言い伝えの類い。そこにはこう記されてあった。


-----------------

我々は知らないといけない。

この世界と共存している

もう一つの世界の事を。


決して交わる事の無い、

しかし向こうから見る事は出来る

心が繋がっている世界。


そして、その2つが交わり、

1つになった時、2つの世界は


“光”となる――

-----------------


「な、何よこれ……!」


 現実味の無い抽象的な言い伝え。いつもなら読み飛ばすだろう。

 しかし、リリィはこの一節に興味を惹かれていた。


「これって、もしかして……」


 色々考えを巡らせた結果、突拍子の無い一つの仮説にたどり着いた。

 ここから先は過去の本を読んでわかるモノでは無い。逆に新しい1ページを刻む為に動かないといけない。


(そして、大成功した姿を見せて大喜びさせるんだ。心から尊敬する大好きなお母さんに)


「……よしっ! これから頑張るわよ!」


 リリィは気合いを入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る