第五話 キャパシティーとマテリアル

 リリィは自分のギルドカードをテーブルに置きながら言った。


「ねぇ、レイシア。ギルドカード持ってる?」

「えっ? あ、ありますけど……」

「良かったら見せてくれない?」

「……」


 リリィの真剣な目を前に断れないと感じたのだろう。

 少し躊躇しながらも、レイシアはカバンに入れてあったギルドカードを取り出した。


 リリィは「ありがとう」と、カードを受けとり上から確認を始めた。


「…………」


(この人、今までに何回かギルドに入っているけど、すぐ脱退しているわ)


 更に下に読み進めた時、リリィは衝撃のデータを見て思わずレイシアの方を向いた。


(スキルポイントが低すぎる。血統からしてありえない。これじゃ初級者以下じゃないの!)


「私、要領が悪くって…… 恥ずかしいですねっ」


 リリィの表情を見て察したのか、レイシアはバツが悪そうに笑って見せた。


「あ、でも養子とかでは無いんですよ? ほら、ここを見てください」


 レイシアはギルドカードの一番下にある“備考・特記”の方を指差した。


「えっ、ええええええええっ!?」


 そこに書かれている数字を見て、更に大きな衝撃に襲われた。


 マジックパワーのキャパシティーが異常値を示している。

 もし、この数字が本当なら、レイシアは普通の魔法使いの数十倍、いや100倍マジックパワーを持っている事になる。


「初めの頃はこの数字と家の名前のおかげで、いろんなパーティーに入れてもらったのですが、実際には最下級の呪文しか使えなくて、全部クビになっちゃいました……」


 例えるなら、ドデカい樽はあるものの、蛇口が小さすぎる様なモノだ。

 これではマジックパワー切れが無いとしても色々と使いにくいだろう。特に戦闘時には死活問題だ。


「そうね…… でも、この圧倒的なキャパシティは決して無駄では無いわ。きっと大きな力になる。私、リリィ・リンが保証するわっ!」


「ありがとうございます。それで、私からもお伺いしたいのですが、リリィさんってまさか伝説の……」



「……うん。 私はノルフィ・リンの娘よ。 幻滅しちゃった?」


 やはり引退してだいぶ経過したとしても、まだ色々言われるのか…… と思いながら、今度はリリィがバツが悪い顔を見せた。


「い、いえっ。確かに驚きましたが、こうやって娘のリリィさんと話をしていると、お父様や他のみんなが言う様な人では無いと感じています」


「レイシア……」


「そんなリリィさんから保証されて嬉しいです。今はダメダメだけど、いつか立派な魔法使いになれると信じられます」


「……ありがとっ!」


 リリィはその言葉を聞いてとても嬉しくなった。


……

………


 それからしばらくして、ステージの照明がつき、それに合わせてリリィは鞄からノートを開いた。

 今から目の前で起こる事を全て書き留めて、この現象について突き止めてやる! とペンを持つ手に力が入る。


 そして、昨日と同じく双子がステージの袖から現れた時、私達を見て手を小さく振ってアピールをしてくれた。



(双子で、可愛くて、愛嬌もあり、そしてあのステージパフォーマンス。人気が出るのは間違いないわ)


 と、改めて思った。しかし、言葉は続く。


(肝心の歌が大衆受けするジャンルだったら、ね……)


 人を激しく選ぶあの曲調は、少なくとも二人の外見には合わないし、正直このお店にも合っていない。

 オープン直後に2曲歌って終わりという時点で、お店からの扱いは容易に想像出来る。


(それでも私はこの二人を応援したい。あの歌も、パフォーマンスも、そして存在感も唯一無二のモノだから!)


 二人はステージでお辞儀をした後、両手の指を合わせてゆっくり目を閉じる。

 リリィはそれを見て”もしかしたら、これは本当の儀式じゃないの?” と思った。もちろんあの歌もである。


 リリィが一番知りたいのは、あの現象がどうやって生まれているのか。

 魔法なのか、歌詞なのか、メロディラインなのか、ハーモニーなのか、それともそれらの複合なのか。


 リリィは、ステージを楽しみたいという心を抑えながら、ステージを凝視して気づいた事をノートに書き留める。


 問題のラスサビがやってくる。双子が放出するマジックパワーは、ステージ前だと予想以上に強い。ある程度の力を持った魔法使いなら間違いなく気づくだろう。


(それなのに、レイシアは……)


 リリィはチラッと横の方を向いた。


 その直後、ステージいっぱいに様々な淡い光が浮かび上がり、あの黒と紫が混ざった謎の色も現れる。


「……あっ!」


 リリィは目の前でその謎の色が浮かんできた瞬間、とっさにその光に向かって手を伸ばしていた。

 

 ペクトール光自体は只の光現象。だから何かを感じる訳でも無いし、当然危険性も一切無い。


 しかし、その謎の光は微かだが ”触った感触” があった。


「!?」


 思わずリリィは手を引っ込める。


(そんな事が、そんな事があっても良いの!?)


 リリィは動揺しながら呟く。



「あれ、物質なの……?」



 ありえない。そんなの普通ありえない。


 それは、”無から有”が生まれているという証拠。ペクトール光とは全く違うモノが、どこからかやってきて現れている。


(そんなのはありえない。しかし、目の前で起こったのは事実。それを冷静に受け止め、分析して全てを明らかにするのが私の使命よ)


 こんなワクワクは久しぶり! とリリィは嬉しくて笑顔を見せる。

 双子のステージが終わってもさっきの光景、そして感触が頭から離れない。

 リリィはもう我慢が出来なかった。


「少しだけでいいから、あの双子さんと話させてくれない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る