第四話 母と娘とフィナカーン家

 双子のステージも終わり、最高のケーキを堪能した3人はそのままお店から出た。


「それじゃあね! あなたもまた会った時よろしくね!」

「は、はい!」

「もう暗いんだから、走っちゃダメよリリリン」


 リリィはルリノ、そして例の彼女と別れて帰宅した後、すぐに母親の書斎に入って調べ物を始めた。

 無論、さっきの双子が見せた謎の光についてである。


「やっぱり、あの黒と紫の混ざった色の記述は、見つからないのか……」


 魔法には属性という物が、必ず付与されている。

 そして、それは特殊な物質を介する事により、”ペクトール色”として判別する事が可能だ。

 例えば火は赤、水は青、土は茶色と分かれており、種類は結構多い。だがらこそ、それらの中に入っていない事がおかしいのだ。


「もし、この自然界に存在しない色だとすれば、人工物、もしくは……」


 学術書を読み進めていると、後ろから女性の声がした。


「リリィ、どう? 論文捗ってる?」

「お母さん」


 ノルフィ・リン。元魔法使いであり、今は商人の嫁。

 そしてリリィの母親だ。


「うーん。いくつか候補は見つけたけれど、確定までは出来ないな」

「ふーん。大変ね。どれっ」


 ノルフィはリリィの側に来て、ひょいっとノートや本を覗き込む。


「…………」


「お母さん?」


「……紫と黒の混ざったペクトール光、魔力元素、二人の相互関係、空間境界域」

 ノルフィは、先ほどとは違う鋭い目つきで、リリィのメモを凝視しながら、ボソボソ呟いている。


 少しして、ノルフィは側から離れていつもの穏やかな笑顔になり、 「論文、頑張ってねっ」 と言って部屋から出ていった。


 ありがとうお母さん。と小さく手を振った後、書きなぐったノートを凝視するが、答えは見えてこない。


「……やはり、またあのお店に行かないとダメね。それに、あの双子と話してみたいわ」


 リリィはそう呟くと、本を閉じた。


……

……… 


 翌日、リリィは一人でルモンドに向かった。


 本当は、今日もルリノと一緒に行きたかったが、これから仕事が忙しくなるらしい。


「仕方ないけど…… 少し寂しいな」


 リリィがお店の扉を開けると、昨日の店員がやってきた。


「いらっしゃいませ」

「昨日と同じケーキと、オススメの紅茶ちょうだい」

 

 そう言うと、今日はカウンターではなくステージに一番近い席に座った。


「はい。かしこまりました」


 普通、リリィはお店で2日連続で同じモノを食べることはしない。

 しかし、あのケーキだけは別だ。あそこまで美味しいケーキは無視出来ない。


「美味しいモノは食べれる時に食べないとね!」


 そう言いながら、リリィはノートを出して今日確かめる事を確認し始める。

 その時、お店の扉が弱々しく開いた。


「……あっ」


「あなたは昨日の」

「こんにちは」


 彼女はペコリと頭を下げてカウンター席に座ろうとしたが、リリィは声をかけてそれを止めていた。


 「ねぇ、もし1人でゆっくりしたいのなら構わないけど、良かったら一緒に座らない?」


 リリィは、自分の口から咄嗟に出た言葉に少し驚いていた。


 今日の目的を考えたら、一人でじっくり双子を見るべきだ。

 それに、いつもはこのように声をかける事はしない。

 

 しかし、彼女にも興味があったのも確かだ。



(そっか。私はこの人にまた会えたのが嬉しかったんだ)



 そうリリィは理解した。双子にはここに来たら会う事も出来るだろう。しかし、この人とはいつ会えるかわからないのだから。


「え、えっと……」


 予想外の提案に彼女は明らかに驚いている。

 そして、少し間をおいて、リリィの目を見ながら言った。


「よ、よろしくお願いします」


 そういうと、少女はリリィのテーブルまで行き対面で座る。


「ありがとう!」


 リリィは満面の笑みでお礼を言った。


「私はリリィ・リン。あなたは?」

「わ、私はレイシア・ミラ・フィナカーンといいます……」


「!!?」


 その名前を聞いてリリィは思わず立ち上がった。


「あなた、フィナカーン家のご息女!?」

「は、はい」


 少し困ったような表情をする彼女の横で、リリィはそれ以上に困惑していた。


(まいった。フィナカーン家は一流の魔法血統。学派も存在している魔法界隈の重鎮だ)


「あ、あの……」


(当主には子供が5~6人いるとは聞いていたけど…… どこかで見た事ある気がしたのはこれだったのね)


「あのっ!」

「な、何っ!?」

「ケーキ、来ましたよ?」

「えっ?」


 テーブルに目を移すと、美味しそうなケーキが2個並んでいた。


「わぁっ。美味しそう! レイシアさんのケーキは……」


「レイシアで良いですよ? そっちの方が落ち着きます」

「うん」


「森の木の実ケーキらしいです。一口食べます?」

「えっ?いいの!?」

「はいっ」


 二人は 『いただきます』 とそれぞれの前にあるケーキを食べ始めた。


「リリィさんもここのケーキを食べにきたんですか?」


「うん。それもあるけど昨日のあの双子が気になって」


「あー。あのステージはとても不思議で幻想的でしたね」


「まさか、こんな所であんなモノを見せられるなんて思いもしなかったわ」


「あの発光現象はどのような仕組みで動いているのかしら……」


(……!?)


「ちょ、ちょっと待って??」

「はい?」


 リリイは驚いた顔でレイシアの顔を見る。当のレイシアはキョトンとした顔でリリィを見返している。


(どういう事? レイシアはあの時に発生したマジックパワーを感じなかったというの!? フィナカーンの血筋なら仮に魔法の修行をしてないとしても、一発でわかる濃さだった筈なのに……!)


 どれだけ考えても、その答えを見つける事は出来ない。


(だったら、直接確かめるしかないわ!)


 リリィはもう一度、胸元からギルドカードを取り出した。

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