第三話 ステージの向こうに見える世界
…
……
………
少しして少女二人がステージに上がってきた。
ショートボブで愛嬌のある表情と深い緑色の瞳、可愛さを引き出させる赤と白のステージ衣装が見る人の目と心を奪う。
そして一番の特徴は、この二人が”双子”だという事だ。
あまりにもそっくりで、二人違う色で染めたと思われるピンクと水色の髪、あとはアクセサリー等の違いでどうにか判別出来るレベルだ。
「凄い。双子だ」
「可愛い双子って絵になるのね……」
ステージの上で立つ双子の美少女。このビジュアルだけでも人気が出るだろう。
正直、こんな小さな店にいるのが勿体ないとすら思えた。
「どんな歌を歌うのかしら」
「楽しみだね」
双子はペコリと頭を下げた後、寄り添う様に並んだ。
そして、祈るように胸の前で両手の指を合わせてゆっくり目を閉じる。
楽器隊が後ろにいないアカペラ形式というのもあって、歌というよりまるで祈り、儀式の前準備に見える。
『……』
時が止まったかのような静寂の中、双子はゆっくり口を開いた。
「な、何よこれ……」
戸惑うルリノや他の客とは対照的に、リリィは流れてくる音に驚き、喜び、そして恐れすら感じていた。
今、双子が歌っているのは、今まで聞いた事のない全く新しいジャンル。
二つのメロディーラインがきれいに並び、時には複雑に絡み合いながら静かに、そして力強く進んでいく。
しかし、この歌は人を喜ばせるモノではない。リズムやノリで聞く人を高揚させる訳でも無ければ、情緒に訴えるメロディーラインでも無く、歌詞も抽象的だ。
いわば無機質。人間ではない別のモノに向けて歌っているようにさえ感じてしまう。
ここまで既存の音楽と大きく異なる曲調だと 『これは歌ではない!』 と怒る人も出てくるだろう。
少なくとも激しく人を選ぶ歌なので、人気が出るとは到底思えない。
しかし、この歌には不思議な魅力があるのも確かだ。
ここからどう歌が展開するのか。そしてどのように終わるのか。
リリィの興味は尽きなかった。
そして、歌がサビに向かっていき、双子がお互いの手を握った瞬間、リリィはすぐにステージの変化に反応した。
(これは、マジックパワー!?)
僅かではあるが、確かにステージからマジックパワーが出ているのを感じる。
「リリリン、これって……」
同じく異変に気づいたルリノが小声で話しかけてくる。
「うん。ステージにいるのは双子だけ。つまり……」
あの双子は二人とも魔法使い。そして何かしようとしている。
サビに入った瞬間、ステージ全体から様々な色の光が、仄かに浮かんでは消えていく。
その優しく幻想的な雰囲気に 『おぉ~』 と客から声が漏れる。
「……なるほどね」
リリィは感心した表情で呟いた。
「リリィ?」
「例えるなら、ステージに撒いたマジックパワーに、無詠唱の特殊な呪文で点火してる感じね。二人はとても器用な事をしているけれど、原理自体は単純だわ」
そう淡々と説明しながらも、リリィは既存とはまったく違う、新しい世界を見せてくれる双子に夢中になっていた。
歌はそのまま進み、ラスサビに向けて再度マジックパワーを周りに放出している。
(おっ。さっきよりも濃いわね。面白そう!)
リリィはワクワクしながら、少しの変化も見逃さない! とステージに集中する。
しかし、今度は今までとは少し異なっていた。
サビに入った瞬間、先ほどと同じく様々な光が現れるが、その中に “理論上ありえない色“が混ざっていたのである。
「ちょっ……!!」
思わず大声を出して立ち上がるリリィ。それを見たルリノは「リリリン!」 と小声で注意した。
「ご、ごめん」と言って席に座るが、目の前の光景に心が奪われていた。
(あれは知ってる属性の色じゃない。おそらくどれとも違う、全く新しい魔法属性。いや、魔法であるかすらもわからない…)
頭の中で様々な仮説を立ててみたものの、これだ! と言える答えは出てこない。
これは家に帰って色々と調べないと……
………
パチパチパチ!
「へっ? 終わったの??」
呆然とするリリィの横でルリノや先ほどの彼女、そしてお客さんは珍しい物を見た。と二人に惜しまない拍手を送っている。
──もしかしたら、私は新しい世界を目撃したのかもしれない
リリィはそう考えながら、ステージから去る二人をジッと見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます