星に願いを

 あいちゃんと喧嘩した、きっかけは些細なことだった。期末テストを頑張ってるのは知っている、ボクもテスト勉強を見てあげていたから尚更。ボクと同じ大学に進学したいからって言われたからね。


 出会った頃はこの子大丈夫なのかななんて思うほどダメダメだったけど、ボクが義妹と引き合わせたのが良かったのかよく二人で勉強をしているようだ。勉強場所が学院の自習室だから卒業したボクは参加できない。


 少し話がズレちゃったね、なんで愛ちゃんと喧嘩したかだけど、テストが終わったらボクとデートする約束をしていたのに、その日は行けないなんて言うんだよ、だから愛ちゃんなんて嫌いだって言って家を出ちゃった。


「はぁ、あんな事言うつもり無かったのにな」


 靴は履いてきたけど、財布もスマホも置きっぱなしで出てきてしまって困ってる。梅雨が明けていないのに晴天だけど昨日降った雨のせいですごく蒸し暑いのも相まって自然とため息が出てしまう。


 行く宛もなくとぼとぼと歩いていると気がつけば駅前の公園についていた、無意識のうちに公園内にある噴水広場に来ていたみたい。水が跳ねる音と吹き付けてくる噴水の水気を含んだ風が気持ちいい。


 近くにあるベンチが空いていたのでとりあえず座るとさっきまでの蒸し暑さが嘘のように涼しい風が吹いてくる。目を閉じると吹き上がった噴水の水が打ち付ける音だけが聞こえる。


 そういえば愛ちゃんはどうしてデートの日行けないなんて言ったんだろう、理由を聞き忘れちゃったな。「はぁ」またため息が出てしまった、ボクは何やってるんだろうな。


「あーーー、お義姉ちゃん見つけた」


 聞こ覚えのある声に反応して閉じていた目を開けると直ぐ側には義妹の凜華りんかがいた、テスト休みのはずなのになぜか高等部の制服を着ている。


「凜華こんな所でどうしたの?」


「どうしたのじゃないよ、ちなみにこんな所でって言いたいのは私だからね」


「なんでそんなに怒ってるの?」


「わわわ、ちょっと義姉ちゃん立って、とりあえずあそこの木陰に移動しよ飲み物買ってくるから」


 なんか焦ったような感じで腕を掴まれ無理やり立たされ木陰にあるベンチへ移動させられ寝かされる、移動する時足元がふらついた気がするし頭が働かないような。


「義姉ちゃん少し待っててね」


 濡れたハンカチをボクの額乗せて走っていく。濡れたハンカチが気持ちいいなとボーっとしていると凜華が戻ってきて寝ているところを起こされた。


「はい、とりあえず飲んで、義姉ちゃんなんか熱中症みたいになってるんじゃない?」


「ん、ありがとう」


 飲料水を受け取りまずは一口、おいしい体に染み渡るようで体温が下がるのがわかる、ほんとうに熱中症になりかけていたのかもしれない。


「凜華ありがとう助かったよ」


「はあ、もうホント何やってるのよ」


「ごめん、お金は今度かえすから」


「これくらい良いわよ、それより何があったの? 愛が泣きながらお義姉ちゃんに嫌われたって連絡してきたんだけど」


「うっ、その、なんと言いますか勢いで」


「まあ良いけどね、とりあえず愛にお義姉ちゃんが見つかったって連絡するからね」


「お手数おかけします」


 しょんぼりしているボクを見てため息をつきながらスマホを取り出して連絡し始める。飲料水をちびちび飲みながらそれを見ている、連絡が終わったようで凜華がボクの横に座って「少しもらうね」とボクの手から飲料水を取りそのまま何口か飲んで「ありがとう」と言って返してくれた。


「愛もすぐ来るって、それで何があったの?」


「テスト終わったらね愛ちゃんとお出かけする約束をしてたんだ、だけどね愛ちゃんがその日は行けないって、だからね勢いで家を飛び出しちゃったんだ」


「あーその日ね、理由は聞いてないのよね」


「うん。もしかしたら理由を言ってくれようとしたのかもしれないけど、聞く前にね」


「お義姉ちゃんらしくないっていえばらしくないし、らしいって言えばらしいよね」


「なにそれ」


「普段のお義姉ちゃんならちゃんと理由を聞いたと思うし、よっぽどお出かけが楽しみだったのかショックだったんだよねって事よ」


「うんそうかも知れない」


「ちなみにその日はね夏期講習関係で講習受ける子は学院に登校する日なんだよ」


「そうなんだ……、あーもうなんか自分が嫌になるよ」


「そういうわけでから、ほら愛が来たよ」


 うつむいていた顔をあげると走って来たのかハアハアと息を荒げて顔には汗をにじませた愛ちゃんが見えた。手に持っていた飲料水を凜華に渡して立ち上がりボクは愛ちゃんに向かって駆け出す。愛ちゃんもボクに気づいたのか駆け寄ってくる。


「愛ちゃん」「王理おうり


 ほぼ同時にお互いの名前を読んで抱きつく。


「王理ごめん、約束してたのに」


「ボクのほうがごめんね愛ちゃん、理由も聞かないで嫌いなんて言って」


 愛ちゃんの火照った体温が心地良い、それと汗の匂いがする、匂いを嗅いでいるボクに気づいたのか愛ちゃんがボクから離れる。


「その走ってきたから汗臭いよね」


「そんなことないよ、愛ちゃんはいい匂いしかしないよ」


「はあ、もうふたりとも馬鹿なことしてないでこっち来なさい」


 凜華がボクと愛ちゃんの手を引いて木陰のベンチに座る。


「もう二人は仲直りしたって事でいいよね」


「「うん」」


 そこから凜華に散々ダメ出しの説教をされた。説教をされながら愛ちゃんに飲みかけの飲料水を渡し飲んでもらい、そういえば今日は七夕だったなと現実逃避気味に考えていた。



 仲直りしたボクと愛ちゃんは夜の商店街を浴衣姿で手を繋いで歩いている、向かっている先は商店街を抜けた先にある神社だ。駅前からの帰り道に七夕祭りのポスターを見かけたので急遽行ってみようということになった、凜華も誘ったのだけどすごく嫌そうな顔で「馬に蹴られたくないから行かない」と断られた。


 出店の間を歩き神社の奥へ進む、神社には複数の笹が置いてあり、その場で短冊を作れるようになっている。周りにはカップルや女友達で来ている人、それに子供連れの親子がいたりと結構賑わっている。


 ボクと愛ちゃんはそれぞれ短冊に文字を書き込み笹に吊るす、お互いの書いた短冊を一緒に見てついつい笑いが溢れる。ボクは短冊に『愛ちゃんとずっと一緒にいられますように』と書いた、愛ちゃんの短冊には『王理といつまでも仲良くすごせますように』と書かれていた。


 人混みから離れて暗がりへ移動する、月明かりだけがボクと愛ちゃんを照らしている。ボクと愛ちゃんは手をつなぎ一緒に空を見上げる、目に飛び込んでくるのは満天の星空だ、天の川がきれいに見える。


「綺麗だね」


「うん、綺麗」


「愛ちゃんまた来年も一緒に来ようね」


「はい……」


 愛ちゃんに顔を向けると潤んだ瞳と目が合った、そしてボクはそっと顔を近づけ軽く口付けを交わす。


「大好きだよ愛ちゃん」


「王理、私も大好きです」


 そして今度はボクの唇に愛ちゃんの唇が触れる、愛ちゃんとのキスの味は来る途中で食べたりんご飴の味がした。

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