コミュ障の私に淫魔は無理ゲーだって!~お隣に住んでいる男騎士だと思っていた女騎士さんが精気を分けてくれることになりました~

鳥助

第1話

「実はリリスは淫魔の子なんだ」

「成人になると精気を吸わないと生きていけなくなるの。だからね、今日から誰かの精気を吸わないと」

「えっ」


 絶句した。言葉が出ない。今日は十六歳の誕生日なのに、どうしてこんな話になるの?


「というわけで、行きずりの人でもなんでもいいから、精気を吸ってくるんだ」

「大変だと思うけど、命かかっているんだからしっかりとやってきなさい」


 見知らぬ人の精気を奪ってこないといけないってこと? そうじゃないと生きていけないって……本当に言っている? 


 お父さんとお母さんをじっと見つめると、真剣な顔つきで頷く。そして、玄関を指さして出ていけアピールをした。えっ、本当にこれから行かなくちゃいけないの?


 突然そんなこと言われても、私には無理だよ。だって、だって私っ……!


「コミュ障の私に淫魔は無理ゲーだって!」



 はぁ、やっぱり無理だった。


 人通りの多い大通りにある広場に行ったけど、すぐに家の前まで戻ってきた。コミュ障だから見知らぬ人に話しかけられなかったからだ。話しかけたとしても話題が「精気」を分けてくださいだもの、そんなの恥ずかしくて絶対に無理ぃ!


 声をかけた人がそんなことを言われたら、絶対に変な目で見てくるし、最悪通報されるかもしれない。そんなの絶対に耐えられない。


 精気を吸わなかったら死んじゃうって言っているし、どうにかしないといけないのは分かっている。けど、こんなのどうしようもないよぉ~!!


 成人したらすぐ死ぬって、そんなのあんまりだよぉー! どうしてこんなことになっちゃったのよ、私はまだ生きていたいのにー!!


「あれ? リリス、ちゃん?」

「ひぅっ」


 恐る恐る振り返ってみると、そこにはお隣に住む騎士のマーデルさんがいた。長い金髪を一つに結び、優し気な青い目で私を見てくる。


「家の前でどうしたの?」

「え、と、そ、の……な、なんでも、ない……デス」


 うぅ、カッコいいマーデルさんを見ると目が潰れる、傍にいるだけで私が浄化されてしまうぅ。目線を逸らしながら、なんとか取り繕うけど……しっかりと返答できてないから可笑しく思われているんじゃないかな。


「なんでもないなら、どうしてここにいるの?」

「そっ、れは……あの、なんと、いいますか……中、に、入れ、なくて……ですね」

「中に入れない? あー、そういうこと」


 ひぃぃ、話すの緊張するっ! 早く会話が終わらないかな。


 顔を逸らしながら願っていると、手首を掴まれた。


「そういうことなら、家族が戻ってくるまでウチにいればいいよ」

「へあっ!? いやっ、違っ、そ、あ、あぁ~!!」

「遠慮しないで、お隣さんだし。困った時はお互い様だよ」


 今が一番困っているんですぅ~!!


 抵抗らしい抵抗もできないまま、私はマーデルさんの家に連れ去られた。



「鎧を脱いでくるから、ソファーに座って待ってて」


 どどど、どうしよう! 男の人の家に入ったの初めてだよぉ! 緊張しすぎて、息が、胸が、存在が痛くなる~!!


 私の存在が異性の家に存在していることが申し訳なくなる。外見よし、性格よし、職業よしのマーデルさんの家の中で息して本当にごめんなさいっ! 全世界の女性様、本当に申し訳ありません~!


 私みたいなグズでノロマで一日中家の中に閉じこもっている薄暗い女が、マーデルさんの家にいること自体が罪みたいなものだよね。あ~、早く家からでないとマーデルさんに私の悪い菌が移ってしまうかもしれない。なんとかして、早く出なければ!


「あれ、まだ座ってなかったの?」

「へうっ! ご、ごめんなさいっごめんなさいっ」

「はははっ、遠慮しているんだね。お隣さんなんだから遠慮しなくてもいいんだよ」

「そ、そうは、言っても……やっぱり、私なんか、お、お邪魔、ですし」

「いいの、いいの。さぁ、座って。今、お茶を入れてあげるから」


 はうっ、肩を掴まれてしまった。そのまま肩を押されてソファーに座ってしまった。どどど、どうしよう、帰れなくなっちゃうよ。


「あ、あの」

「そこで待っててね」


 私が呼び止めるのもむなしくマーデルさんは台所へ行ってしまった。……どうしよう、勝手に帰るわけにはいかないし、かといって台所へお邪魔してまで帰る宣言をするわけにも。


 詰んだ、今の私ものすごく詰んでる。強引に帰ることもできないし、だからと言って説得をしようとしても全然無理だったし、このままここにいないといけないの?


 どうしよう、精気を吸わないといけないのに、ここにいたんじゃ何もできない。まぁ、外に出ても何もできないからどこにいたって同じなんだけどね。あーもう、どうしたらいいの!


 私はこれから淫魔として生きていけることができるの? どうせなら、この事実をもっと早く知らせて欲しかった。お父さんもお母さんも私のことを心配して直前まで黙ってたらしいんだけど、それでも言って欲しかったな。


「困ったなぁ……」

「何が困ったの?」

「ひゃっ!?」

「何か困ったことがあるのかな? 私でよければ相談に乗るよ?」


 いつの間にか独り言を言ってた!?


 温かい紅茶を持ってきたマーデルさんは私の隣に座り、テーブルに紅茶を置く。はわわ、私の隣にマーデルさんがっ! どどど、どうしようっ! 緊張で混乱する!!


「相談っ、していただけるっ、っていう話じゃ、ないというかっ! 私個人の問題、なのでっ!」

「ほら、何か問題があるってことでしょ? 良かったら力になるよ」

「い、いえいえ! そこまでしていただかなくても、大丈夫ですっ! マーデルさんに、その、迷惑、かけたくないのでっ!」

「私は迷惑だなんて思ってないよ? だから、ぜひ聞かせてほしいな」


 首を少し傾げて笑うその顔を見て、私の心臓がドクンと跳ねあがった。うぅ、そんな顔をするなんて卑怯だよっ、かっこよすぎるよ!


 一人で慌てているとマーデルさんの手が伸びてくる。私のセミロングのピンクブロンドの髪を撫でて、微笑んでくれた。


「困っている子をそのままにはできないよ。リリスちゃんの力になりたい」


 甘い声が私を撫でるようだ。その感覚は体をゾクゾクとさせて、体の奥から熱がこみ上げてきた。もう、頭の中は真っ白だけど、何か言わなきゃとコミュ障独特の変な思考になる。


「そんなっ、相談なんてできません! だって、精気を貰うことって、言えるわけ、ないじゃないですかぁ!」

「……精気?」

「し、しまったぁっ! いえ、今のは、言葉の綾といいますか、そのっ、あのっ、関係ないです、関係ないですから~!」

「どういうことかな?」


 体の前で両手をブンブン振っていると、手首を掴まれた。ヒィィッ、マーデルさんの顔がやけに真剣だぁ! 逃げ、逃げたい、逃げなくちゃ~!



「なるほど、リリスさんは実は魔族の淫魔だったってことだね。それで成人になった今日から精気を吸わないと生きていけなくなると」

「は、はい~……」


 あ、洗いざらい話してしまった。だって、だって、こんなにカッコいいマーデルさんに詰め寄られたら話すしかないじゃない! 断ることも、嘘をつくこともできなかった。


「その精気っていうヤツを吸えばリリスちゃんは生きていけるってことだよね」

「そうなんですが、頼める人がいなくて……」

「そういうことなら私の精気を吸ってくれてもいいよ」


 ニコッとマーデルさんが笑う、笑う、笑ったぁ! うぅ、その笑顔で私が浄化されてしまう。って、そういうことじゃなくて、今精気を吸ってもいいっていってくれたよね!


 笑っていたマーデルさんだけど、今度は困ったような顔になった、どうしたんだろう?


「女の私でも精気を吸っても大丈夫なの?」

「えっ」

「だから、私は女だ。同性同士で精気を吸っても問題はないのか?」


 ……えーーーーーーーーーっ!? マ、マ、マ、マーデルさんって女性だったのーーーーーーーーー!! ずっと男性だと思ってたーーーーーーーー!!


 よく見たら胸もあるっ!! 喉ぼとけがないっ!! そ、そっか普段は鎧姿ばかり見ていたから、それで勘違いしてたんだ。なーんだ、そういうことか。女性同士だと知ったら気分が落ち着いてきた。


 ……って、全然落ち着くわけがない!! ああぁぁ、コミュ障が憎いっ!!


「そのっ、女性同士でも、大丈夫みたいです、はいっ」

「それなら良かった。それじゃ、早速はじめてみようか」

「はい?」

「精気を吸ってもいいよ」


 いきなりかいっ!! ハードル、コミュ障の私にはハードルが高すぎるわっ!!


「このままの状態でも精気って吸えるものなの?」

「えーっと、感情が高ぶったり、こう、ドキドキ、ムラムラしたりする状況にならないと、無理、みたいです」

「感情が高ぶったり、ドキドキ、ムラムラ……ねぇ」


 ふむ、と顎に手を当てて考えるマーデルさん。真剣に考えている姿がかっこよくて見てるだけで、目が潰れる。ダメだ、女性だと分かっていてもマーデルさんがかっこよく見えてしまう。


 二人で紅茶を飲みながら考える。まぁ、誘惑の魔法を使えば一発なんだけど、いう勇気がでない。ってか、マーデルさんに誘惑の魔法を打つ勇気もない。人と絡み方が分からないっていうのがコミュ障にとって辛いところだ。


「よしっ」


 ん、何かいい案が浮かんだのかな? マーデルさんを見ていると、手を広げてこちらに近づいてくる。ボーッと見ていた私は簡単にマーデルさんの腕の中に収まった。


 って、えーーーーーーっ!?


「こうしていたら、ドキドキするんじゃない?」


 それはこっちのセリフですーーーーー!! 女性と分かっていても私よりも体が大きなマーデルさんに抱きしめられると、変に意識してドキドキしてしまう。ほらーーー、こっちがドキドキしても意味ないんですってばーー!!


 ゆ、勇気を出して言わなくてはっ!


「あ、あのっ、これ、意味ないと、思いますっ」

「そうなの?」

「そそ、そうですっ! だって、マーデルさんのほうがドキドキしてなくて、私のほうがドキドキしてますからぁっ!」

「……そうか、私がドキドキしないといけないんだったね」


 少し残念そうな声をして、マーデルさんは私を離してくれた。よ、良かった……これで息ができる。はっ、落ち着いている場合じゃない、しっかりと説明しないといけないんだった。


「あ、あの……私には、誘惑の魔法があるので、それをマーデルさんにかければ、ドキドキすると思いますっ」

「そんな魔法があるのかい? それならそうと言ってほしい。さぁ、存分にかけてくれ」


 胸をドンと叩いて、任せてと言っているみたいだった。自分で言っててあれだけど、話の展開が早すぎる。本当にいいんだろうか、凄く不安になってきた。


「じゃあ、かけますよ」

「あぁ」


 両手をマーデルさんに向けて、自分の中にある魔力を高めていく。その魔力を誘惑の魔法の力に変換して、マーデルさんに向けて放った。


 優しいそよ風がマーデルさんに吹き付ける。きょとん、とした表情のまま身動きはない。しばらく様子を見ていても、何も反応がなかった。えっと、もしかして失敗しちゃった?


「あの、どうでしたか?」

「う、うーん……これと言って変化がないような」

「そ、そうですか」


 そんな失敗したってこと!? この魔法だけが希望だったのに、これが効かなかったらどうやってドキドキさせればいいの!? マーデルさんに頼んで勝手にドキドキしてもらって、ってできるわけないよね。


「ああぁぁっ、どうしよう。何も手がないよぉ」


 頭を抱えて左右に振る。このまま精気が吸えない状況になったら、私は死んでしまう。それが嫌だったら頑張ればいいだけなんだけど、どう頑張ればいいのかも分からない。


 ドキドキさせるにはどうやってコミュニケーションをとればいいの!? 話が必要だったら、どう話せばいいの? 触れあいが必要なら、どう触れあえばいいの? 今までコミュニケーションを怠ってきた弊害がー……


「リリスちゃん」


 マーデルさんに呼ばれて顔を上げると、優しい手つきで頬に手を添えられた。


「悲しそうな姿を見ると私も悲しくなる。どうか、悲しまないで」


 憂いの表情が私に降り注いだ。これでもかっていうくらいに、ドバドバと降り注いだ。


「リリスちゃんの力になりたい気持ちはあるんだけど、あまり力になれていなくてごめん」


 端整な顔立ちを真正面から受けて、悲しみに満ちた目がまっすぐに私を見つめてきた。それだけで、私の体と頭の温度が急激に上がってとてつもなく恥ずかしくなる。


 なんだかマーデルさんが可笑しいよ。もしかして、違う魔法をかけちゃった? それとも、誘惑の魔法にかかっちゃった? ど、どっちなのー!?


「マ、マーデルさん落ち着いてください。もしかしたら、変な魔法に、かかってしまったかも、しれません」

「変な魔法? 私はいたって普通だ、本当にリリスちゃんに申し訳なく思っているだけだよ」

「え、えぇー……」


 ほ、本当かな? なんだか距離が近くなったし、妙に顔が近いし、これが普通なのかな? やっぱり、何かの魔法にかかちゃったんじゃないのかな。


 マーデルさんの顔を正面から見たくなくて、視線を逸らしていたら、手を握られた。ひぃぃっ、今度は何!?


「リリスちゃんが私を見てくれなくて、とても残念だ」

「そ、それは、ですねっ。マーデルさんが眩しくて、直視できないといいますか。私にとって、その、非常に目にも心臓にも悪い、といいますかっ」

「そんな……折角一緒にいることができるのに、リリスちゃんに嫌われているなんて」

「いえいえいえいえ、そんなことはっ」


 やっぱりなんだか変だよ。感情の揺れ幅が大きくなったというか、距離も近いし、言動もグイグイ来る感じだし。さっきの魔法は上手く発動できたっていうことなのかな?


 そしたらドキドキするはずなんだけど、そんな気配はない。精気を感じると美味しそうな匂いがしてくるはずなんだけど、そんな気配もない。うーん、どうしたらいいか分からない。


 黙って考えに耽っていると、マーデルさんは悲し気に話し始めた。


「実はね、リリスちゃんとこうやって話せないかと、ずっと考えていたんだ」

「えっ」

「初めてみた時から、小さくて可愛い子だなって思っていたんだ」


 マーデルさんは二年前くらいに隣に引っ越してきた。初めて会ったのは引っ越しの挨拶をした時、お互いに一言くらいしかかわしてなかったけど、そんな風に思ってくれていたんだ。


「私は騎士だろ? 周りにいる人たちはガタイのいい人ばかりで、周りに可愛い子はいなかった。だから、隣に可愛い子がいて本当に嬉しかったんだ」

「そ、そうなんですか?」

「私も女だ、可愛いものは好きだ。だから、リリスちゃんと仲良くなりたかったんだが、会う機会がなかった」


 まぁ、人目をできるだけ避けていたしね。初めて会った時から私なんかに興味を持っていたっていうことか。そんな気配はなかったけど、避けていたから申し訳なかった。


 悲し気なマーデルさんだったんだけど、こっちに視線を向けた時にパァッと表情を明るくした。


「だから、今日は家に呼べて嬉しいし、それにリリスちゃんの力になれるかもしれない。これをきっかけにリリスちゃんともっと仲良くなりたい」

「え、いや、私と仲良くなっても、その、楽しくない……ですよ」

「そんなことはない!」


 声を上げたマーデルさんは私の手を両手でギュッと握った。


「愛らしい姿を見ると私の胸がときめいて、可愛らしい声を聞くだけで嬉しくなってしまう。一緒にいるだけでこんなにも心が弾むのは、リリスちゃんだけだよ」


 えっ、えっ、これって、なんだか、口説かれている……みたいな。やっぱり、誘惑の魔法のせいなのっ!?


「あぁ、やっぱり近くで見ると本当に可愛いな、それに小さい。こんなに可愛い生き物が存在するなんて」

「あ、あの、あの……やっぱり魔法にかかってる、みたいですが。落ち着いてくださいっ」

「魔法にかかっていたとしても私は落ち着いている。困った顔も可愛いな」


 ひぃぃ、こういう時ってどうすればいいの!? どう断って、どう離れればいいの!? 全然わかんない!!


 マーデルさんと目を合わせて言えばいいのかな、でもでも、恥ずかしくて目も合わせられない。あーー、どうしてマーデルさんはこんなにカッコいいのっ、恥ずかしくて無理だよぉっ!


 その時、美味しそうな匂いが漂ってきた。空腹じゃないのに、空腹を刺激される感覚が体に走った。もしかしてこれって、精気を感じているってこと?


 匂いを辿ればそれはマーデルさんから発せられているみたい。ということは、マーデルさんはドキドキしているってこと? これはチャンスだ!


 行動に移そうとした時、手を引かれて体が傾く。私の体はマーデルさんに寄りかかり、マーデルさんは私の体を抱きしめていた。


 なっ、なっ、なっ、なんてこったいっ!!


「あー、リリスちゃんは可愛いな。もう離したくない」


 あばばばばばっ。どどど、どうすればいいのっ! どんな行動をするのが正しくて、どんな行動をしたらいけないのか全然分からない! 


 マーデルさんの体は固くがっしりしているけれど、ところどころが柔らかくて安心する。包まれている感じがやみつきになる……ってこの状況に流されないでー!!


 あぁ、でもいい感触でこのままでもいいかも。えへへ、なんだか気持ち良くなってきた。それにいい匂いがするし、美味しそう。


 匂いを吸い込むように息を大きく吸った。すると、美味しい匂いが体の中に入ってきてどんどん満たされていく。空腹だった部分がどんどん満たされていって、とても気持ちよくなる。


 そして、匂いを全て吸い切った。


「……」

「……」


 はっ、私は何をしていたんだ。い、今のは精気を吸っていたってことになるのかな。


 ギャーーッ、マーデルさんに抱きしめられている! ど、どうにかして離れないと!


「あ、あのあのっ」

「……はっ、ごめん!」


 声をかけるとマーデルさんがすぐに体を離してくれた。恐る恐る伺うと、きょとんとした顔をして何が起こったのか分からないような表情をしている。


 さっきの気持ちよさはなんだったんだろう。多分精気を吸ったら収まったんだけど、あの変な状態はなんだったんだ? 初めてあんな状態になったからちんぷんかんぷんだ。


 二人で不思議そうな表情を浮かべて時間が過ぎ去った。



「今日は、色々と、その、ありがとう、ございました」

「いや、いいんだよ。無事に精気を吸えたみたいだし。リリスちゃんの力になれて良かったよ」


 玄関先で立場話をする。目的の精気も吸えたことだし、私が帰ろうとするとマーデルさんがそこまで送ってくれるらしい。隣だから別にいいのにな。


 誘惑の魔法はきっとマーデルさんにかかったんだと思う。両親がいうには、理性の枷を外すことができるって言ってたんだけど、それでどうしてあの状況になったのかが分からない。


 ちらっとマーデルさんの顔を見ると、いつもと変わらない凛々しい顔をしている。あの時みたいに蕩けた顔をしていない。んーー、経験値がなさ過ぎて訳が分からない。


 玄関を開け、すぐ隣にある私の家の玄関まで行く。ようやく家に帰れるよ、安心した。


「そうだ、リリスちゃん」

「は、はいっ」

「えっと、もし良かったらなんだけど……また困ったことがあったら私を頼ってほしい。今回みたいな精気を吸うのでもいいし」

「そ、そうですか」

「それにまた……お話もしてみたい」

「そそ、そうです、か」


 少し恥ずかしそうに話すマーデルさん。迷惑しかかけてなかったのに、私と話をしてみたいだなんて、なんて寛大な心。私と一緒にいてもつまらないのに、でも嬉しい。


 私も少しはマーデルさんと仲良くなりたい、かな。


「えっと、その……約束、します」

「そうか! なら、これからよろしく!」

「は、はいっ」


 ただのお隣さんだったマーデルさんと親しくなるきっかけが生まれた。少しずつでもいいから、普通に話せるようになりたいな。

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