宇宙を飛び翔ける竜人とプロトコル・ドロイド
藤泉都理
宇宙を飛び翔ける竜人とプロトコル・ドロイド
タブーです。
やつの口癖だった。
私から離れるのは、タブーです。
「私から離れるのはタブーだって言ったでしょうが!」
「食料を買いに行っただけだろうが」
「充電中の私は睡眠状態になっていて最も無防備だって言ったでしょうが!」
「ここは安全だと何度言ったらわかるんだ?」
「何度言ってもわかりません!」
安全が確保されている狭い部屋の中で、全身金ぴかのプロトコル・ドロイドであるシゥティは護衛役である竜人、
佐飛丸は辟易しながらも、これも金の為だと自身に言い聞かせ、悪かったと口にした。
「これからは離れない」
「その言葉を聞くのは十四回目ですが未だに改善されておりません」
「これからは改善する」
「………お願いします。私は必ずこの情報を兄弟に届けなければならないのですから」
「ああ」
「届けた後は、私のこの黄金の身体を差し上げますから」
「ああ」
シゥティが兄弟に情報を届けるまで守護する報酬は、シゥティの黄金の身体だった。
黄金の身体に加え、その他の部品も売り払えばそれはそれは大金になるらしい。
シゥティを兄弟のところまで安全に送り届けておくれ。
佐飛丸がマダムに依頼されてから早十日経つが、未だに敵らしきやつと遭遇はしていない。
楽勝な仕事だと喜べばいいのか。
腕がなまっちまうと嘆けばいいのか。
(そもそもどんな情報なんだか)
別段それほど興味があるわけではない。
ただ、あのマダムが直々に依頼してきたのだ。
よほど危険な案件だとほくそ笑んでいたのだが、肩透かしもいいところだった。
「食べ終わったらすぐに出る。今度の飛行で目的地に辿り着ける」
「はい。ああ。これで辿り着けるのですね。今迄ありがとうございました。お願いします」
深々と礼儀正しく頭を下げるシゥティの後頭部を見ながら、佐飛丸はああと返した。
(まあ、大金が入れば)
あとはどうでもいい。
人化を解いて本来の姿である竜に戻った佐飛丸がシゥティを乗せて飛行し辿り着いたのは、小さな緑の星「ササンサン」だった。
「おい。おまえの兄弟はどこに居るんだ?」
見渡す限り、何種類もの植物が生い茂っているだけ。
流石は緑の星と銘打っているだけはある。
ただし、枯れていなければ、の話であるが。
そう、ここの星の植物はすべて枯れていたのだ。
シゥティはにっこり笑った。
はいですからここに居ます、と。
佐飛丸は怪訝な表情を刻んだ。
「ふざけているのか?」
「いいえ。この星の植物がすべて、私の兄弟です」
「おまえはプロトコル・ドロイドだろうが」
「はい。植物とプロトコル・ドロイドの異種兄弟ですね」
「では情報とは、ここの植物を生き返らせる為のものか?」
「ええ。この情報を直接、兄弟の言葉に変換して渡します。そうすればきっと、兄弟は生き返る。また、美しい姿を取り戻せる」
シゥティは一度、大きく息を吸うと、滑らかに、軽やかに、美しく歌い出した。
佐飛丸は腕を組んで、シゥティの歌う姿を見つめていた。
感動するものなのだろうなと他人事のように思いながら。
一時間、三時間、半日が経った。
シゥティは歌い続ける中、佐飛丸は異変に気づいた。
シゥティの身体が少しずつ、少しずつ、小さくなってきているのだ。
ああ、報酬がどんどん減って行くな。
激昂してもおかしくない状態。
にもかかわらず、佐飛丸は他人事のように思った。
いいさと思ったのだ。
このまますべて星に還ればいいと。
ずっとここで兄弟と生きて行けばいい。
「………ここは消えてなくなるところではないのか?」
「え?いえ。プロトコル・ドロイドは約束を違えません。出会った時の状態の私を報酬として差し出すと言ったではないですか」
「ああ。そう、だが」
一日歌い続けて、歌が止んで、掌に乗る大きさになったシゥティを見て、その身体は空っぽだと思いきや、ぐんぐんぐんぐんと小さくなった身体が大きくなっていき、そして、元の大きさに戻ったのであった。あっという間に。
「ではどうぞ」
両腕を大きく広げたシゥティを見た佐飛丸はけれど、植物がまだ枯れた状態であるのに疑問を抱き、そのままシゥティにぶつけた。シゥティはあっけらかんとした口調で答えた。
「ええ?そんなすぐに回復するわけがないじゃないですか。一年くらいかかりますよ」
「見なくて、いいのか?」
「ええ。絶対に回復するとわかっていますから。なので、遠慮なく私を分解し、売り払ってください」
「一年」
「え?」
「一年後に売り払う。それまで、おまえはここで待機しておけ」
「え?え?え?え?え?」
「いつまでその一文字を繰り返すつもりだ?」
「あ。申し訳ございません。あの。本当に、よろしいの、でしょうか?」
「枯れたままだったら後味が悪い。回復したのを見届けてからおまえを売り払う」
「はい。あの。ありがとうございます。では。あの。とりあえず。睡眠状態になります」
「ああ」
「佐飛丸様。よろしければ、一年間私とこの星に居ませんか?」
「結構だ。別の仕事を受けに行く」
「あ。はは。そうです、よね」
「ただ」
「ただ?」
「時々は見に来るかも、しれない」
「………はい」
佐飛丸は衣を翻すと同時に、竜に戻ると「ササンサン」から飛び立った。
シゥティは佐飛丸の姿が見えなくなると同時に、睡眠状態になった。
一年後。
「ま、まあ。紫色でもみんな生き生きしてますし問題ありませんよね!どうぞ!私を売り払ってください!」
「どう見てもおまえの兄弟はしょげているが」
「ほ、ほら、みんな。新しい自分に出会えたと思って。紫を受け入れるのです!」
「………行くぞ」
「え?」
「元の姿に戻せる方法を探しに行くぞ」
「え?あの。佐飛丸様」
「行かないのか?」
「あ」
シゥティは紫一色になってしまった兄弟を見回して、そして、佐飛丸の背中に飛び乗った。
「旅費代は私の華麗なる歌声で稼いでみせます!」
「………期待しておく」
佐飛丸は宇宙空間を飛びながら、とりあえずマダムのところへ情報収集しに行くかと考えたのであった。
「佐飛丸様!ありがとうございます!」
「ああ」
「金ぴかになるって方法なら聞いたことがあるんだけどねえ」
「え?兄弟が私と同じ金ぴかに!」
「では、その方法を知る種族に会いに行くか?」
「はい!では地球に行きましょう!あ!」
「何だ?」
「佐飛丸様。私から離れるのはタブーですよ。言葉が通じないのですから!」
「見つめ合えばわかる」
「………どこからその自信は出て来るんですか?」
「ふん」
(2023.6.23)
宇宙を飛び翔ける竜人とプロトコル・ドロイド 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます