オニオンパニック
サタはマンションで一人暮らしをしている食べることが好きな大学生だ。
その日は、2時過ぎに大学の講義が終わり、夕飯の買い出しに行くことにした。
「今日の夕飯はカレーでも作ろうかな。簡単だし。」
そんなことを考えていると、近所のスーパーに着いた。
「とりあえずタマネギがいるか。」
そう思って、スーパーの自動ドアが開き、店内に足を踏み入れた瞬間、異様な雰囲気が流れていることに気づいた。
外の駐車場にはたくさん車が止まっていたはずだが、店内には一人も見当たらず、別世界に来たように静かだ。
後ろで自動ドアが静かに閉まった。
思わずサッと振り返ると、自動ドアの透明なガラスが塗りつぶされたように黒くなっている。
近づいてみたが自動で開くはずなのに開く気配がない。
とりあえず店内を見回ってみることにした。
店内に入ってすぐ左に焼き芋を焼いている屋台のような機械があり、その先には果物と野菜コーナー、一番奥には麺類や魚の売り場が広がっている。
まずはそこを回ることにした。林檎、キウイ、キャベツ、レタス、大根…。山積みにされた物を横目にしばらく歩いていたが、ネットに入ったタマネギに目がとまった。
ふと、ネットの一つを手に取ってみる。と、何か視線を感じた。
顔を上げると、濃い紫のスーツを着て、ポーラーハットを被った男?達5人に囲まれて、通路を一つずつふさがれている。
しかもがじりじりと近づいてきている。
ネクタイの色はオレンジで、着ているスーツとは対照的だ。
しかもよく見てみると顔がない。透明人間が服を着ているようにも見える。
とりあえずまずい。まずいまずいまずい、捕まったら何をさせられるのか分からないが、とてつもなくまずいことだけは分かる。
とにかく手に持っていた3つのタマネギが入ったネットを、オレンジネクタイ達の一人に投げた。
だが、堅いはずの玉ねぎは、壁に当たるように、ゴンと鈍い音がして、オレンジネクタイの体に弾かれていく。
全く効いていないようだ
でも彼らは確実に近づいてくる。
まだ、まだタマネギはたくさんある。手当たり次第に、オレンジネクタイを狙って投げた。
それでも彼らは止まらない。
そして数秒後、サタは紫の波に飲み込まれた。
気が付くと、暗い部屋の中に仰向けに倒れていた。暗くて何も見えないが、体の下に石のようなゴロゴロとした感触がある。
とりあえず体を起こす。すると、急に明かりがついた。
思わず目を細める。
もう一度ゆっくり目を開けると、何十人といそうなオレンジネクタイ達に見下ろされていた。
顔はないけど。
静かに目の前にいたやつが口を開いた。
「おまえはサツマイモは好きか。」
声はかなり低い。
サタは答えようとするが、声が出ない。焼き芋、大学芋、スイートポテト。サツマイモの料理は好きだ。好きなはずだ。
「す、す、好きです。」
サタはやっと声を絞り出して、かすれた声で答えた。
しばらく経って、また別の後ろにいるオレンジネクタイが口を開く。
「おまえ、最高だな。」
少しだけ奴らの声のトーンが上がった。
それからすぐに周りの奴らも「サツマイモ最高、サツマイモ最高。」と叫び始め、サタは体を丸め、顔を埋めて耳を塞いだ。
ハッとすると周りが明るくなっており、スーパーの出口に立っていた。
後ろで自動ドアが閉まる。
周りにはさっきまでのオレンジネクタイは誰もおらず、車の音、人の足音、子供の泣き声、それをなだめる母親の声が聞こえる。
「戻ってきた?」
サタは安心してきて腰が抜けそうになる。
だが両手がズシンと重い。
見ると、パンパンに膨れたレジ袋を両手に持っていた。
左手の方には、鶏肉、タマネギ、にんじん、カレーのルー、右手の方には、たくさんのサツマイモが入っていた。
はぁ、サツマイモのことが少し嫌いになりそうだ。
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