1章 黒鉄の冠 森の狭間の青空

威風堂々たる鋼鉄(1)

 深夜、都市高速を走る巨大な四輪駆動のピックアップトラック。

 メタリックブラックの外見はオレンジの街灯の光を流している。

 

 そのトラックの中は、さまざまな機材や工具が積み込まれている。

「東京戦争が終わって約2年か」

 その中央に鎮座する一騎の黒鉄の鎧。

 座席から伸びている何本かのケーブルで背中と繋がっている。


「東京に現れた魔王を討ち倒し、劫火から日本を守ったかと思えば、地方に赴く事になるとは」

 電子音声の混ざった声が嘆息を放つ。


『仕方ないデス。あの樹海はもはやダンジョン。数多の魔術師、転生者が行方不明になっているのデスから』

 ピックアップトラックの中から声が聞こえる。

 しかし、運転席には誰も乗っていない。ハンドルがゆらゆらと運転を制御しているだけだった。


『関係者によりますと……◯◯町で起きている連続失踪事件は、現在行方不明者が20人を超えており警察は今もなお捜索中という事です』

 ディスプレイ上に表示されるニュース。

 それは、彼が向かう町の名であり、3ヶ月前に生存者のいない樹海と化した町でもある。


 ピックアップトラックに揺られて3、4時間。

 都会の景色とは程遠い、緑の木々がそこらかしこに広がっている。

 「酷いな」

 黒鉄の兜からはその一言が漏れた。

 何せ、元々町だったモノが何らかの原因で森林になっているのだ。目に見えたのは家屋や自動車を突き破って生えてきた木々。

 あまつさえ、人の身体らしき肉片が木の上でぶら下がっているのも見えた。

 綺麗などとは、とても言い難い。

「これは、富士の樹海より酷いのではないか」


 奥に進むにつれて徐々に日光が薄くなっていく。

 あまりにも多すぎる木の葉に光は遮られ、暗くなっていく。

 森の中を潜っただけなのにまるで闇の中にいる様な感触になる。 


 突然、トラックのブレーキがかかる。

 『警告デス。前方に生命反応発見』

 車内の音声が警告音アラートを出す。

「家屋も人間も破壊されている中で、生命反応が1だと?」

 

 黒鉄の甲冑は、ディスプレイの中から一つの生命反応に照準を合わせる。

 速攻で敵だと確信していた。

 停止したピックアップトラックの天井から近未来的なデザインの大砲が出現する。

 その大砲は遠距離に一直線で撃てるように砲身が細長い。

 『魔力装填100%。充填完了。属性付与エンチャント・雷、発動。擬似電磁砲、展開。鉄杭弾、装填。発射まで3秒……2……1……』

 大砲の前方に魔法陣が展開される。

 チュドン!!

 先の鋭い鉄杭が大砲から発射される。

 鉄杭は高出力の雷の魔力を纏い、超高速で生命反応のあった場所へと奔っていく。


 常人であるならば回避は不可能。

 発射されてから約5秒後に着弾、爆発する。

 どおおんッッ!!

 静かな樹海に爆発音が鳴り響く。

 爆風は木々を薙ぎ倒し、土煙を巻き起こす。

 小鳥の群れは驚いて飛び上がる。


 だが、生命反応は消えていない。

「……ほう」

『警告!!前方の生命体、体内の魔力膨張。攻撃が来マス!!』


 土煙を巻き上げて飛び出してきたのは、先程放たれた鉄の杭。

 ピックアップトラックの上に付いた大砲を貫通する。

 咄嗟にピックアップトラックから大砲をパージして再び走り出す。

 大砲は爆発するがトラック自体には大きな損害はなかった。

 

 そして、土煙が晴れて目の前に鉄杭を返した者の姿が見える。


 それは、得体の知れない人型の合成獣キメラだった。

 「Urrrrrr……」

 黒い靄を纏ったそれは敵意を向ける。

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