間章 “アクマさん”と……
とあるファミレス。
真昼の客の多い時間帯。
騒がしい店内で、その場所だけ静かだった。
その声すらも聞こえない程に、静かだった。
「あなたには何も分からないんじゃない?」
黒スーツの女性が綺麗な笑顔を貼り付けて言う。
黒髪ストレートの美女が丸く真っ黒な瞳を細めて笑っている時ほどの不気味な綺麗さはない。
「何も…って言われてもな。そもそも知る気なんかねぇよ。お前の真っ黒な腹ん中なんざ」
タバコを吸って、煙を吐き出す。
「お前が一体どう誑かしたかは分からねえが、おかげであそこの《スポット》にまた人が寄り付かなくなっちまったじゃねぇか。ナニがしてぇんだ、この野郎」
だが、女性は笑顔を保ったまま何も答えない。
その笑みが答えであるかの様に。
まさか、と察して尋ねてみる。
「全部、折り込み済みだったのか?」
「そうじゃなかったら、ただの一般人を生贄になんてしないでしょ?」
即答。
生贄という物騒な単語を笑顔で言っても、誰も視線をその机に向けない。
しかし、アレに一般市民を巻き込むなんてとてつもなくサイコすぎる。
「でも、そうでもしないとまたいつかの東京みたいになっちゃうよ?それは誰だって嫌でしょ」
女の意見に渋々、頷く。
「それでも流石にあのままじゃあ彼も死ぬのよねぇ。 成仏出来ないとなると可哀想ダナー」
ナンマンダブ、ナンマンダブと棒読みで呟いて手を擦り合わせる女。
(情の欠片もないくせに)
*
月日は少し経ったある日の事。
町は一日、幽谷の如く静かであった。
ニュースでは18歳少年の行方不明の報道などたったの数分で終わり、すぐに有名芸能人のスキャンダルに移り変わっていた。
もちろん、神隠しの森についての話題はインターネット上でも盛り上がる事はなく、一部のオカルトが短い期間で騒いでいるだけだった。
神隠しの森と言われた場所は、とっくにもう無い。
場広町の殆どが森になってしまったのだから。
———旧場広町樹海。Unknown 。
ザワザワと木々が擦れる。
ウサギが森の中を駆け回る。
リスは木の上を走っている。
シカは落ち葉を踏みながらゆっくりと歩いている。
鳥達は囀りをこだまさせながら森の中を飛んでいる。
陽光を遮る森の中、一つの靄が唸っている。
しかし、すべての獣はその靄に恐れず逆に寄っていく。
靄は獣達を見守り続けている。
靄は森を眺め続けている。
そして3ヶ月後、悪夢は突然起きた。
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