11.待っていたの

「今だから言いますけど、二日目は起きてましたよ?」


 帰りの電車、行きとは逆の、窓際の席に座った僕は、これまた逆の肩に預けられた体温を感じながらリラックスしていた。


「二日目って、初めて会った次の日?」


「そのままじゃないですか。まあそうですけど」


「起きてたって、まさか狸寝入り?」


「ふふっ、そうです。また会えるかなーって思って、今朝みたいに家を早く出てあそこにいたんです。いつもは疲れすぎて何も感じませんでしたが、あの姿、見られるとすっごい恥ずかしいですね」


「そりゃね。同年代じゃなかったらどうしてたか。酔っぱらいかと思うし」


「まあ、ある意味酔ってたのかもしれませんね。偶然会うことができたあなたに、また会えるかもってあんなことをして」


「でも、ベンチに座るとか考えなかっ……」


「ベンチに座ったら気づかれずに電車に乗って行っちゃうかもしれないじゃないですかー……あれ、どうかしました?」


「まさか、僕が起こそうとした時のこと……」


「はい、ばっちりです。ほんとセクハラです」


「…………」


「嘘です冗談です。私はそう思わないんで、大丈夫ですよ。恥ずかしかったですけど。なんですか、姫って」


「そりゃ、ちっちゃくて寝顔が眠り姫みたいだなって思ったから、姫ーって」


「姫……」


「あ、ごめん地雷踏んだ」


 チビと言われるのを嫌がっていた彼女にまた失言をしてしまった。


「姫…………姫……姫」


「あ、あのー……」


「うん、いい響きです。私、ちっちゃくてよかったって久しぶりに思いました」


「お気に召したようでよかったです……」


「これからも姫って呼んでくださいね」


「え、外で話すときにそれは恥ずかしくない?」


「また出かけてくれるんですか?」


 彼女は少し驚いたような顔でこちらを覗き込む。息がかかりそうな距離になり、僕は思わず逃げようとするが、窓際に座っているため逃げ場が見つからない。


「え、まあ、それはその……時と場合によっては……」


「なんですかそれ。もう言質取っちゃいましたからねー」


「まあ、いいけどさ」


「よろしくね。王子様」


「それはやめて」


「あはははっ」


 歯を見せて笑う彼女の姿は、すっかりご機嫌そうだった。

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定期券を忘れたら 時津彼方 @g2-kurupan

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