3.おそろい

「私、朝にすごく弱いんです。それで体力もなくて。最寄り駅はここなんですけど、いつも二十分歩いてここまで来てるんですけど、それで疲れてよく階段でへたれこんじゃうんです」


「それで寝てしまった、と」


「本当にごめんなさい。でもいつも休もうとしてもベンチは埋まってるので、仕方なく……」


 申し訳なさそうに肩をすくめる彼女の顔は再びこちらの目線から隠れてしまった。


「いつもはもっと遅い時間に起きて、遅刻して学校に行ってます。でも、まだ今日は早いほうかな」


「早いっていっても、もう十時だけどね」


「今から行けば……うーん、二時間目間に合うかな。うち、授業半分出ないと出席にならないんですよ。昼からにしようかな」


「僕の所もそう。昼休みに間に合うように行こうかな」


「本当にごめんなさい。ご迷惑を……」


「いいって。二時間目の英語のテスト面倒だったし、どのみち遅刻はする予定だったから」


 まあ、さっきまでそのテスト範囲を見ていたわけだが。


「じゃあ、もう少しお話していきますか」


「いいけど、私立の中学に通うような女子がこんなところにいたら、なんか言われない?」


「……中学? 私が?」


「え、まさか」


「高一です」


「ごめんなさい」


「すぐ謝れるのはえらいです。何年ですか?」


「僕も高一」


「あ、おそろいだ」


 にひひ、と歯を見せて笑う彼女は、やっぱり中学生にしか見えない。


「ま、補導されそうになったら助けてくださいね」


「分かったよ……」


 僕は単語帳をカバンの中に入れようと手に取る。


「……あ、その単語帳同じ」


「ま、みんな持ってるでしょ。有名だし」


「そうなんだ。なんか私達、似た者同士なのかもね」


「階段で寝るような人と一緒にされたくありません」


「もう!」


 ぽこぽこ肩を叩く力は非力だ。よく男子高校生のノリで絡むときに比べたら、それこそ子どもを相手にしているような感じだ。


「……また、失礼なこと考えてる」


「でも若く見られるのはいいことなんじゃない? 僕なんか、よく大学生料金取られそうになるし」


「私は、大人に見られたいのに……やっぱり、私達全然似てない」


「そりゃね」


 そっぽを向いた彼女はこちらに向きなおる。頬を膨らませている様子は、もう言うまでもない。


「なんか、目が覚めてきました。もう学校行こうかな」


「出席にならないんじゃないの?」


「せっかく早く起こしてもらったんです。早起きは三文の得です」


「十時を早起きに入れるのはどうなの?」


「いいんです。私比最速です」


「随分偏った企業データなことで」


「私、もう行きますけど、どうしますか?」


 立ち上がってこちらを振り向く。ちょうど駅に到来した電車が起こした風にふわりと髪がなびく様子は、さっきまでとは違って少し……。


「僕も行こうかな」


 重い腰を持ち上げ、背伸びをした。

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