4.気持ち悪い
「……また寝てる」
眠り姫に出会った翌日、彼女はまたそこにいた。意図的にゆっくり歩いて駅に到着して、まさかとは思ったが、また同じように縮こまっていた。
「おーい、朝ですよー」
もちろん起きる様子はない。流石に昨日で顔見知りになったからいいか。僕は昨日と同じように彼女を持ち上げ、ベンチに座らせる。今日はもう少し早く起きてもらわないと、少しの遅刻は承知の上での行動とはいえ、また昼間に登校する羽目になってしまう。
彼女のほっぺをつんつんする。
「さすがにこれで起きるなら、ねぇ……」
次に耳元で、周囲に変に思われないぐらいの声量で呟く。
「姫、朝ですよー。早起きは三文の得ですよー。おーきーてー……はぁ」
諦めて顔を遠ざける。少し体が動いた気がしたが、気のせいだろう。僕も寝るときは何回も寝返りを打って体勢を変える。
「…………おはようございます」
諦めて目線を前に戻してすぐ、隣から声が聞こえた。
「おはよう。今日はもう起きたんだね」
「……はい」
顔が赤いような気がする。風邪でも引いてしまったのだろうか。
「次の電車、乗りましょう」
彼女は突然立ち上がったかと思ったら、すたすたと点字ブロックの手前まで歩いていった。
「え? わかったけど、なんで?」
「一限に間に合うからです!」
さっきより顔が赤いような気がする。馴れ馴れしく接しすぎたのかもしれない。よく考えたら、昨日しかかかわっていないのにこうやって話しているのだ。気持ち悪がられても仕方がないだろう。
「…………ごめん」
「なんで謝るんですか」
「いや、たかが他人が、かかわりすぎたなって」
「そんなことないです! こうやって起こしてくれなかったら、学校に行くの、もっと遅くなってただろうし」
どうやら怒っているわけではないようだ。だとしたら心配の気持ちが湧いてくる。
「……えっ」
立ち上がり、顔をよく見ようと近づける。
「近っ……」
「体調、悪い?」
「……ちょっと、心臓が」
「心臓!?」
「あー、そういうのじゃないですから! 今日、なんか気持ち悪いですよ」
「……ごめん」
「全く……」
電車が到着する。僕は気まずくなってその場に立ち尽くしていた。
「え、なんで来ないんですか。ほら、こっち!」
「あっ」
右腕を手でつかまれて、ぐっと引き寄せられる。向き合った体同士が触れ合う形になり、僕はすぐにしまったばかりのドアの所まで引き下がる。
「なんか、顔色悪いですよ?」
「……少し気持ち悪いかも」
「ちょっと、大丈夫ですか?」
空いている席に座ってからのことはあまり覚えておらず、次の記憶は帰りの電車に揺られている時だった。
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