46.守護精霊を探しに

 冒険者ギルドでの治癒の任務も、一旦終わりが近づいてきた。

 イリーナとメイとの話の後も、何だかんだ回復魔法を受けに来たのは5人くらい。

 その5人も、以前回復魔法を受けたことのある冒険者で、依頼中に負傷したって人達だった。

 その後は、やって来る冒険者もいないし、明日からも村長の家で治癒を続けるということもあり、今日は早めに終了させてもらった。

 日が昇っているうちに、村の外れにある祠に行っておきたいしね。

 救護室を片付けて受付に行くと、ギルド職員からめちゃくちゃ感謝されたよ。

 溜まっていた依頼を、冒険者達がどんどん引き受けてくれて助かっているそうだ。良かった良かった。


「それで、こちらはギルドマスターから支払うよう命じられた報酬です。どうぞ」

「えっ、こんなに頂いて良いんですか!?」

 

 帰り際に、ギルド職員から報酬として金貨10枚ももらったよ。

 貰い過ぎじゃないかと躊躇ったけど、「それだけ冒険者ギルドとして助かったということです!!」と、職員全一致で手渡してくれた。

 あまり遠慮するのも失礼だし、ありがたく頂戴しておく。

 今後の旅の資金として、大切に使わせてもらおうかな。

 そして気にしていたことだが、以前疾風の牙を襲ったワイルドベアは、他のAランクパーティーが討伐してくれたそうだ。それはもう、見事なまでに。活動復帰の肩慣らしにちょうど良かったらしい。

 それを聞いて、僕も安心したよ。

 報酬を受け取り、聞きたいことも聞き終わると、ギルド職員達にお礼をして、冒険者ギルドを後にした。

 冒険者ギルドを出る際、ロビーにいた冒険者達も、「また今度な」って声をかけてくれたよ。




 冒険者ギルドを出て、早速モロッカの守護精霊を祀る祠へと向かう。

 僕は、メイに教わった祠の場所を思い出す。確か、村の外れにあると言っていた。

 まずは、村の門から外に出て、言われた通り西の方向に向く。

 その先にある、村の門からでも目立って見える、大きな木が目印という。

 平原に幾つか木は生えているが、明らかに一本、一回りくらい大きな立派な大木があった。


「セルメリア、多分、あの木だよね?」

「そうですね。あの木以外、これといったものは無さそうですし。それに微かですが、精霊の気配を感じます」

「精霊の気配かぁ。じゃああそこで間違いなさそうだね」

「そうですが……」


 セルメリアが、やや言葉を濁した。

 その場で立ち止まって、セルメリアの方を見る。


「何か気になることでもある?」

「気になるというほどでもありませんが……。精霊の気配、守護精霊という割には弱々しいなと感じまして。エト様は感じませんか?」


 セルメリアの返答に、僕も気配を感じてみる。

 目を閉じて、守護精霊の気配を辿ってみたけど……、距離が遠いのか、僕には感じ取れなかった。

 ただ、気配とは違う感覚が伝わってくる気がする。


「う〜ん……」

「いかがなさいましたか?」

「僕には気配は分からないんだけど……。何か寂しいような、胸がキュッてなる感じがしてくるんだよね」

「逆に私にはそういう感じは分かりませんけど……。とりあえず、行ってみましょう」


 お互いに、分からない感覚を共有しただけだった。

 精霊の気配だけでなく、僕自身に伝わってきた感覚のことも気になるけど、まぁ行けば分かることだろう。

 そうして、僕とセルメリアは遠くに見える大木の方へ歩いて行った。




 大木の近くには、歩いて30分程で到着した。

 大木は、背が高いというよりも、ガジュマルみたいな感じで根っこや枝葉が沢山伸びている感じ。

 大木に近づくと、根っこに少し空洞になっている部分があり、そこに石造りの小さな祠があった。


「あっ、あれが祠みたいだね」

「そのようですね」


 祠自体は、整備されていないわけではなさそうだけど、苔が生えていて小汚い感じに見える。

 祠に近づくにつれて、僕もやっと精霊の気配を感じられるようになった。

 それと同時に、寂しそうな感覚も強くなる。

 しかし、肝心の守護精霊の姿が見えない。

 アテンシャ様のように眠っているのか、クマリット様のように出払っているのか……。

 ただ、黒い靄は漂っていないし、瘴気を発しているわけではなさそうだと分かり、少しだけ安心した。


「色々気になるところだけど、先ずは挨拶とお祈りしなきゃだよね」


 気になることは一旦置いといて、祠の前に跪いて手を合わせる。

 そして、挨拶とお祈りに集中するために、目を閉じた。

 

「………」


 お祈りをしながらも、ずっと感じている悲愴感と孤独感。

 今にも消えて無くなってしまいそうな、蝋燭の灯火のような、蛍の淡い光のような、そんな儚いイメージが浮かんでくる。

 ……こういう感覚、どこか覚えがある。

 まだ前世の記憶を思い出す前の、少年エトの時に感じた感覚だ。

 クルトアの村で、『呪われた子』と言われて、除け者扱いされた時の感覚と記憶。

 その時の感覚や記憶が蘇ってきて、僕自身も胸にチクっと棘が刺さったような痛みを感じてしまう。


(うん、ツラいよね、この感じ……)


 理由は分からないけど、モロッカの守護精霊も、一人ぼっちで寂しさを感じているのかもしれない。

 こういう時、少年エトはどうしていただろうか?

 そして僕は、父に抱きしめられて温もりを感じたり、1人にさせないようにと守られていたことを思い出す。

 そんな父の存在に支えられて、安心感を感じていたことも。


(同じように、感じてもらえるか分からないけど……)


 僕はお祈りを続けながら、イメージの中で儚く消えそうになっている灯火を、両手でそっと包み込んだ。

 抱きしめるように、手の中に包み込む。

 そして、安心してほしいと、祈りを込める。

 消えてしまわないようにと、絶対に消させはしないと、祈りを込める。

 すると、弱々しかった灯火が、金色の光に包まれて徐々に大きくなっていく様子が自然と浮かんできた。

 それと共に、悲愴感や孤独感が薄れていくのが分かった。

 ……うん、これなら大丈夫そうだ。

 そう確信して、僕は目を開ける。


「エト様、気配が戻ってきました」

「うん、良かった良かった」


 挨拶やお祈りが終わったのを感じて、セルメリアが声をかけてきた。

 セルメリアも同じく、弱々しかった気配が戻ってきたのを感じたようだ。

 僕は立ち上がって、祠を眺める。


「エト様、何をお祈りなさったんですか?」

「うん、ちょっとね。寂しそうだったから、1人じゃないよって感じかな」

「『1人じゃないよ』ですか。エト様らしいですね」

「まぁねぇ」


 セルメリアの言葉に、思わず苦笑いで返してしまった。

 そりゃあさ、アニメや漫画のヒーローみたいにカッコいいことできたら良いなぁとは思うけど……。

 何というか、僕はこういう人間だしねぇ。

 無理して僕らしくないことをやるよりも、そのままの僕でできることをしたら良いじゃんね?

 勿論、できることをを増やすために努力はしたいと思ってるけど。

 そんなことを話したり考えたりしていると、頭上からカサカサと音が聞こえてくる。


「あれっ、何だろう?」


 音の方を見上げると、枝葉が音を立てて揺れていた。

 徐々に音や揺れが大きくなっていく。


「……クゥーー……ーン……」

「ん?鳴き声……?」


 カサカサという音に混じって、何となく鳴き声のようなものが聞こえてきた。

 何だろうと思い、目を凝らして頭上を見上げていると……、



 ボスんっ



 と、落ちてきた何かと、顔面からぶつかった。


「ぶへっ!!」

「キャンッ!!」


 ぶつかった何かは、僕の顔面と衝突した後に地面に転がっていった。

 ……あれ、思ったよりも痛くないぞ?

 何か、フワッとモコっとしていたような?

 とはいえダメージが無かったわけではないので、衝突した額を撫でつつ、地面に転がった何かを見る。


「……毛玉?」

「毛玉、みたいですね」


 僕とセルメリアは、顔を見合わせる。

 地面に転がっている何かは、白くてモコモコとした小さな毛玉だった。

 ……えっ、なぜ毛玉??


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