閑話:魔法付与と、転移魔法の開発
教会のお勤めが終わり、夕食も食べ終えて自室でくつろぎ中の僕です。
今日はこれから、父とミケーネへの贈り物として購入した飾り紐へ、お祈りを込めようと思っている。
テーブルの上にそれぞれ藍色と黄色の飾り紐を並べて、考える。
さて、どんな祈りを込めようか?
商売繁盛……は、門番も教会もそもそも商売目的ではないしなぁ。
交通安全……は、二人とも街からほとんど出ないって言うから馬や馬車なんて乗る機会もないだろうし。
開運……っていうのは何だかパッとしない。
恋愛成就……は、求めてないだろうし。……うん、多分。
ここは無難に、無病息災が良いかなぁ。
(父もミケーネも、笑顔で元気に過ごせますように)
父とミケーネが笑顔で元気に過ごす様子を想像しながら、僕は手を合わせ、二本の飾り紐へ祈りを込める。
そんな様子を想像しながら、僕も自然と笑顔になっていた。
すると、僕の体内から魔力が溢れてくるのを感じる。
「あれ?なんで魔力が?」
溢れてきた魔力が放出され、金色の光となって二本の飾り紐に降り注ぐ。
飾り紐は光に包まれ、やがて消えると元の状態に戻った。
僕はその一連の様子を、ポカンとした顔で眺めていた。
「これは、何が起こったのかな……?」
飾り紐を摘んで、しげしげと観察する。
特段、手触りとか素材とかは変化無さそうだけど……。
「その飾り紐、魔法付与されたみたいよ」
後ろから、パメーラの声が聞こえた。
振り返って見ると、パメーラが精霊の姿でベッドに腰掛けていた。
パメーラはこちらを見て、妖艶に笑っている。
「パメーラ先生、魔法付与って?」
「この飾り紐に祈りを込めたでしょう?エト様の想いに魔力が反応して、魔法が付与されたってところかしらね」
パメーラは僕の方に近付いてきて、一緒に飾り紐を眺める。
「これはなかなかの代物ねぇ」
「そうなんですか?」
「エト様も自分で鑑定してみたら?」
そう言われて、僕も飾り紐を鑑定してみる。
するとウインドウが表示された。
【飾り紐】
聖魔法が付与されている。
装備した者に防御結界を張り、あらゆる状態異常を無効化する。
「状態異常の無効化……」
「これは国宝級の代物だわね」
「まさかそんなものができるとは……」
軽い願掛けのつもりでお祈りしたんだけどな……。
まさかそんな凄いものに仕上がってしまうとは……。
無病息災を祈って、状態異常の無効化か。
「魔法付与ができるなんて思わなかったです」
「創造魔法のスキルが発動したんじゃないかしら。祈りを込めながら、何かイメージしてたんでしょう?」
「そういうことですか……」
思いがけない発見だ。
まさか魔法付与までできるとは思わないじゃん。
そうなると、知らない内に何かのアイテムに魔法付与してしまう可能性があるわけだし、今後こういうことをする際は注意しないとね。
しかしこの飾り紐、どうしたものか。二人には特に何も言わずに渡した方が良いかな?
説明したとして、父は元冒険者だからテンション上がったりするかもしれないが、ミケーネには受け取るのを断られそうな気がしてしまう。
詳しいことは言わず、「お守りです」って言って渡すことにしよう。
魔法付与には驚いたけど、何よりこの飾り紐が二人を守ってくれるなら、僕としては嬉しいし。
僕は渡す時まで飾り紐を鞄の中に閉まっておこうとしたら……
「エト様、その飾り紐、まさかそのままお渡しするおつもりですか?」
どこからかセルメリアがやってきて、僕に問いかけてきた。
「え?そうだけど?」
「エト様……。せっかくの贈り物なんですから、それっぽく包んだりして飾り付けしませんと」
「あぁ、そういうことね。全然考えてなかった」
「……そうだろうと思っておりました」
そう言うと、セルメリアは僕から飾り紐を奪い取って、いつの間にか準備されていた木箱とリボンを使って綺麗にラッピングをしてくれた。
流石です、セルメリア様。ありがとうございます。
さて、気を取り直して。
パメーラもいることだし、以前から考えていた転移魔法を開発してみようと思う。
「パメーラ先生、転移魔法が使えるようになりたいんですけど、実際そういう魔法って存在してるんですかね?」
せっかくなので、僕よりも魔法に詳しいパメーラに聞いてみる。
「転移魔法ねぇ。昔、大賢者様が使っていたわよ」
パメーラは思い出しながら教えてくれた。
今は僕が引き継いで持っているが、パメーラの宿る杖の持ち主であった大賢者。
大賢者は、全国の訪れたことがある地に転移用の魔法陣を目印として設置し、その場所に転移して移動していたそうだ。
異世界ファンタジー系のアニメや漫画でよく見た感じのやつだよね。
ただやはり、転移魔法は一度行ったことのある地でないと使うのが難しいそうだ。
魔法はイメージという通り、転移先の具体的なイメージが必要になるという。
そう考えると、魔法陣を設置して魔法陣同士を繋いで転移するっていう方法は理にかなっている。
「魔法陣かぁ。いちいち設置するの面倒くさそうなんだよねぇ」
面倒くさいのもあるし、魔法陣と言われても何を描けば良いのか分からないし。
目印だから何でも良いのかもしれないけど、正直その目印や設置した場所を覚えておける自信がない。
個人的には、想像すれば簡単に転移できるっていうのが理想なんだよなぁ。
それこそ、ピンク色のドアを開けば好きなところに行ける某未来道具とかさ。
前世だったら、ネットで調べれば行ったことがなくても現地の様子を具体的に知ることができるから、自由に転移できそうなのに。
アルスピリアに関しては土地勘なんて全く無いし、世界地図はあるけど大雑把過ぎて想像しにくい。勿論、ネットなんて存在しない。
うーん、どうしたものか……。
「そんなに悩まなくても、創造魔法のスキルで自由にやってみたら良いんじゃない?」
考え込む僕を見て、パメーラが言う。
「エト様は、前世の記憶があって私には想像もつかないような発想をするんだから、色々と試してみたら良いのよ」
「自由に、かぁ……」
確かに、パメーラの言う通りだよね。
魔法はイメージ。特に創造魔法は、想像することで無限の可能性がある。
初心にかえって、自分の理想をしっかり描いてみよう。
とりあえずは、行ったことのある場所は気軽に行けるようにしたい。
魔法陣とか面倒くさそうなものは要らない。
転移するのは良いけど、いきなり目の前の景色が変わるのは怖いから、それこそドアとか窓とか通り抜けて転移できるような感じにしたい。
そういう幾つかの理想を掛け合わせていく。
そういえば、試しの転移先はどこにしよう?
ラグフォラス様に会いたいし、久しぶりに森の教会に行ってみようかな。
ある程度決まったところで、意識を集中して転移魔法を具現化させる。
「ゲートオープン!」
すると、目の前に淡く光る四角い窓のようなものが出現した。
成人男性が屈まなくても大丈夫なくらいの大きさで、淡く黄色に光っていて、先は見えない。
この四角い窓のようなものをなんて呼べば良いのか迷うけど、『ゲートオープン』とか言っちゃったし、転移ゲートとでも呼んでおこう。
僕は恐る恐る、具現化させたゲートを観察する。
「これ……成功してるよね……?」
「これはどこに繋げたの?」
「えっと、森の教会に繋がるようにしてみました」
厳密に言えば、森の教会の礼拝堂に繋がるように想像してみた。
躊躇っていても仕方ないので、僕は転移ゲートに顔を突っ込んでみる。
突っ込んだ先には、懐かしい景色があった。
前世の記憶を思い出してから最近まで過ごしていた、森の教会の礼拝堂。
夜中ではあるが、礼拝堂は明るく綺麗に保たれていた。
「わぁ……ちゃんと繋がった……」
僕は転移魔法が成功したことに驚きつつ、久しぶりの森の教会に懐かしさと嬉しさも感じた。
顔だけじゃなく、全身ゲートを通り抜ける。
アテンシャの街の教会から、森の教会へ。
何十キロと離れている距離を、転移ゲートを隔てて一瞬で転移することができた。
僕の後に続いて、セルメリアとパメーラもゲートを通り抜けて転移してきたよ。
「面白い転移の仕方だと思ったけど、上手くいったみたいね」
「エト様、素晴らしいです」
セルメリアとパメーラが褒めてくれた。
ちょっと照れちゃうね。
ただ、想像した通りにちゃんと転移魔法を発動できたから、自分でも上出来だと思う。
自分が行きたい場所を具体的にイメージすれば転移先に繋げることができるので、これならアテンシャの街を出立した後でも気軽に帰ることができそうだ。
とはいえ、いきなり街中に転移したら周囲の人々に驚かれそうなので、転移先は気をつけないとね。
「ラグフォラス様、ただいま戻りました!」
夜中で申し訳ないけれど、僕は教会に帰ってきたことを知らせる。
静かな礼拝堂に、僕の声が響き渡った。
「お帰りなさい、エト」
どこからともなく懐かしい声が聞こえてくると、目の前にスゥっと、ラグフォラス様が姿を現した。
「まさか、魔法で転移して帰ってくるとは思いませんでした」
「夜遅くにすみません」
「ふふふ、良いんですよ。ここは貴方の家なんですから」
ラグフォラス様はニコッと笑って言ってくれた。
森の教会を出て一ヶ月程度しか経っていないのに、凄く懐かしく感じる。
きっと、アテンシャで過ごした時間がそれだけ充実していたからだろう。
礼拝堂のベンチに座り、僕はラグフォラス様に街での出来事を話した。
街の精霊教会でお世話になっていること。
父と再会することができ、親子で楽しい時間を過ごせていること。
聖者として旅がしやすいように、冒険者登録をしたこと。
街や森の守護精霊と出会ったこと。
ワドニス教のこと。
そして、そろそろ街を出て王都へ向けて出立しようとしていること。
僕の話を、ラグフォラス様はにこやかに聞いてくれていた。
「あっ、ごめんなさい。僕ばっかり話して……」
「ふふふ、エトが元気そうで何よりです」
ラグフォラス様の我が子を愛でるような様子に、少し恥ずかしくなってしまう。
「それにしても、街ではかなりのんびりしてしまった気がします。使命のために、もう少しキビキビしないといけませんよね」
「大丈夫ですよ、お父上と再会できたのは喜ばしいことですからね。確かに使命は大事ですが、エトが笑顔で元気にいてくれることも大事ですから」
「そう言ってくださるとありがたいです」
「アテンシャで過ごした時間は、きっと貴方にとって必要なことだったのでしょう。その時々で、感じるままに進んでいけば大丈夫ですよ。必ず創造神様が導いてくださいますから」
「そうですね、そう思うようにします」
ラグフォラス様の言葉に励まされる。
きっと上手くいくはずだ、と。これまでもそうだったように。
次に向かうモロッカの村でも何かありそうな気はしてるけど、これからも色んなことがあるだろうけど、それらはきっと起こるべくして起こっていることだ。
そう信じて、僕にできることをしながら進んでいけば良い。
最近少し考えることがあったりしたけど、心がスッと軽くなった気がする。
「このタイミングで、この教会に来られて良かったです」
「でしたら、私としても嬉しいですよ」
「転移魔法も使えるようになりましたし、また帰ってきますね」
「えぇ、ここで待っていますからね」
そうして、短い時間だったがラグフォラス様との再会も終えて、街に戻ることにする。
具現化してそのままにしていた転移ゲートの前に立つ。
「それでは、行ってきます」
「行ってらっしゃい、エト」
別れを告げて、ゲートを通り街の教会の自室に戻った。
何だか、旅立ちの時よりも寂しさは感じなかったな。
きっと転移魔法のおかげで、気軽に会いにいくことができると感じたからだろう。
魔法って、本当に素晴らしいね。
しかし、転移魔法を使えば旅に出ていても、わざわざ野宿したりお金を払って宿に泊まったりする必要もないのではないかという考えに至ってしまう。
けど、それはそれで旅の醍醐味が無くなってしまうし、世界中を旅することは前世の夢の一つだったし、旅は旅として楽しむことにしようと思う。
たまに顔を見せに帰るくらいで、ちょうど良いかな。
「ま、贈り物は準備できたし、転移魔法も使えるようになったし、良かった良かった」
そういうわけで、ひょんなことから魔法付与ができてしまい、転移魔法の開発に成功したのでした。
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