32.冒険者ギルドでのお仕事

  翌日から、僕は冒険者ギルドで聖職者として依頼を受けるようになった。

 聖職者というより、冒険者的には治癒士といった方が伝わるかもしれない。

 ウォーレンに言われた通りに受付に声をかけると、ギルドの一室に案内してくれた。

 簡易のベッドが2台と机・椅子が1セット置いてあるシンプルな部屋だ。大きな窓があって風通しや日当たりも良く、前世の保健室を思い出させるような部屋だった。だから何となく、保健室の先生になった気分でいた僕です。

 最初は怪しんでか訪れる人は少なかったが、教会で何度か回復魔法を受けにきたことのある冒険者パーティーが尋ねてきたことをキッカケに、ちらほらと利用する人が増えてきた。

 3回程ギルドに来る頃には、顔見知りの冒険者も多くなり、頼られることも多くなったよ。

 負傷者が多いのは気になるけど、冒険者という職業柄仕方ないのだろう。ウォーレンも、思った以上に利用者が多くて驚いていた。

 ただし、訪れる冒険者の中には、待機しているのが女性じゃないことに露骨にガッカリしている人もいたけどね。

 僕でも良いじゃないか!夢ばっかり見てるんじゃないよ!!




 そんな依頼に勤しんでいたある日のこと。

 僕は初めて訪れていた冒険者パーティーの対応をしていた。

 僕と歳の近そうな若い男性3人組で、パーティーの内の一人が魔物討伐の際に脇腹と片足を負傷したらしい。仲間達で担いでギルドに戻ってきて、この部屋に案内されてきた。

 僕は負傷した冒険者をベッドに寝かせて、負傷した部位を確認して回復魔法を施す。

 最初はいつも通り「痛いの痛いの、飛んでいけ〜」って魔法かけてたんだけど、これが何とまぁ冒険者達から不評で。「婆ちゃんみたいだな」って言われてから、頭の中で念じるようになった。それはそれで、「無詠唱で!?」って感じで驚かれたけど。

 面倒くさいもんだよね。


「はい、治りましたよ」

「うおぉ、凄え!」


 ベッドに寝かせていた冒険者は、上半身を起こして治った箇所をペタペタ触って歓声を上げた。

 ギーマと名乗る彼は、立ち上がるとピョンピョンとその場で飛び跳ねて体の様子を確かめている。

 その様子を見て、仲間の二人も喜んでいた。


「最初の頃は怪しいと思ってたが、ちゃんとした奴で安心したよ」

「こんなにすぐ治るなんてびっくりだ」


 リオとダットという仲間の二人も、ギーマに近寄ってマジマジと傷のあった箇所を見つめている。時折ツンツンと触って、「やめろよ!」とギーマがくすぐったそうにしているよ。

 しかし、やっぱり怪しんでいる人もいるんだなぁ。悪徳商売してるとか思われてたのだろうか?

 そこはギルドの一室使ってるんだから、安心してほしいところなんだけどね。

 とりあえず、治して喜んでもらえたなら何よりだけどさ。


「では治療費として、銀貨1枚いただきますね」

「本当にそんな安くて良いのか?」

「精霊教会の基準では、それくらいなので」


 リーダーであろうリオが、財布から銀貨を1枚取り出して支払ってくれる。

 初めてここを訪れる冒険者には毎度驚かれるが、精霊教会ではこれが普通だ。

 一応、精霊教会の基準としては、

 ・病気や怪我:銀貨1枚

 ・毒や麻痺といった状態異常:銀貨3枚

 ・骨折や部分欠損:銀貨5枚

 といった感じだ。

 お布施や治療費は、回復・解呪の魔法の程度で決まるそうだが、【ヒール】とか【ハイヒール】とか言われても、僕は詠唱という形で魔法を覚えてこなかったので、正直よく分からない。

 僕としては、頭の中で「治れ〜」「良くなれ〜」って感じで魔法を使うから、凄く感覚的なんだよね。少し回復魔法を使って消費したくらいで魔力量が枯渇することもなければ、疲れることもないし。

 今のところは、元気になってくれたらそれで良しって感じなのです。

 そう考えると、他の教会の治療費事情とか、回復魔法事情について知りたいとは思うよね。知らない内に変なことしてたら大変だし。


「俺達みたいな低ランクの冒険者には助かるよ」

「ちょっと怪我した程度なら、休むか我慢するかだもんな」

「回復薬も金かかるし、教会だと高い治療費請求されるからな〜」


 彼らは口々に言っていた。

 彼ら3人はEランクのパーティーで、現在はランク上げを頑張っているという。

 低ランクのままだと、日々依頼を受けて稼いでも宿や食事代、武器・防具代としてすぐに無くなってしまうそうだ。今回は高額報酬を狙ってDランクの依頼を受けたが、手こずってしまったらしい。

 ただ怪我をしても、重症でなければ教会には行かないそうだ。

 彼らの言うように、教会は必要以上に高位の回復魔法を使って高額の治療費を請求してくるところがあるため、低ランク冒険者にとっては支払う余裕が無い。

 回復薬も、低級のものなら銀貨1枚で買えるが、傷が塞がる程度の効力しかないそうだ。中級や上級のものとなると、それ以上に高額で手が届かないという。

 借金をして支払うこともできるが、借金が残っている間はそこの街や村を離れることが難しく、できれば最終手段としておきたいそうだ。

 だからこそ、特に低ランクの駆け出し冒険者にとって、僕は救世主のような存在らしい。


「でも、あまり無理はしないでくださいね」

「それはそうだけどさ、やっぱり早くランク上げたいし」

「冒険者たるもの、一攫千金目指していきたいしな!」

「俺達としては、まずはCランク目指してるからな〜」


 やはり、冒険者には野心家が多いな。訪れる人達も、だいたい同じことを言っていた。

 冒険者界隈では、Cランクに上がればやっと一人前として認めてもらえるらしい。それだけ実力や実績があるってことだし、受けれる依頼の内容の幅も広がるんだとか。

 そんなこと言われたら、僕はGランクなんですけどね。

 まぁ、僕には冒険者としての野心は特に無いんだけどさ。

 ただ、目の前にいる夢や目標を持って日々精進している冒険者達は素敵だし、応援したいと思う。

 そのためにも、もっと精霊教会の存在が知られて、気軽に回復魔法を受けに来てくれる人が増えたら良いよなぁ。


「怪我や病気で困ったら、精霊教会を利用することも選択肢に入れてください。同じ金額のお布施で運営してますし、お金が無ければ教会の掃除とか力仕事を手伝っていただければ大丈夫ですので」

「精霊教会もあったんだな。この街はワドニス教の教会だけかと思ってた」

「あはは……街外れにありますからね……」

「また困った時は、エトさんか精霊教会にお願いするよ。ありがとな〜」


 ちゃんと精霊教会の布教活動もしつつ、冒険者達とお別れした。

 退室して空っぽになった部屋で一人、椅子に座って一息つく。

 精霊信仰も精霊教会も、特に冒険者は知らないって人が多いんだよなぁ。何となく名前や存在は知っていても、やはりワドニス教の影響や存在が大きく、かなりマイナーな信仰だと思われているっぽい。

 ワドニス教に目を付けられない程度には、知名度が上がってほしいところだ。

 それに僕が街を発った後、またミケーネ一人になったら教会の運営や管理も大変だろうから、冒険者との接点は多いに越したことはないだろうし。恩を売る的なことはしたくないけど、回復魔法と交換で力仕事を手伝ってもらえると凄く助かる。

 ただ何より、精霊信仰もワドニス教もお互いに上手く付き合っていければ良いんだけどね。

 そんなことを考えていたら、扉をノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ〜」


 そう言って深く考える暇も無く、次々訪れる冒険者達の対応をした。

 そのおかげで、お金は結構貯まってきたよ。

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