27.ギルドマスター呼び出し案件

 父とルーカスとの模擬戦を半ば強制的に終わらせ、冒険者ギルドに戻ってきた。

 僕は、これから自分のステータスを鑑定されることに頭を抱えている。

 諦めがついたと思ったんだけどね、やっぱりその時が近づいてくるとドキドキしちゃうよね。

 他人のステータス覗いておいて、こんなこと言ってたら怒られそうだけど。

 冒険者だったら、自分の強さとかレベルとかって自慢して見せびらかしたくなったりするかもしれないけど、僕は冒険者として生きていくわけではないし。それにステータスを見せて強いことが知れ渡ったら、それこそ何に巻き込まれるか分かったもんじゃない。

 僕は癒しの聖者なのです。

 聖者の役目だけで十分なのです。

 この強さも、身を守るために使えれば良いのです。

 アニメや漫画の影響でヒーローやヒロインに憧れはあるけど、正義の味方気取りで活動したいわけではないし、勝負事で頂点に立ちたいわけでもない。

 色々と考えていたら、ギルドの受付を過ぎて応接室に案内された。

 こじんまりとはしているが、家具や飾りは高価そうなものが置かれている。


「鑑定道具を準備してきますので、少々お待ちください」


 ルーカスはそう言って退室した。

 僕は父と二人、大きなソファに腰掛ける。

 模擬戦後で一休みしたいところだが、鑑定される前に父に話しておきたいことがあった。

 声が漏れてルーカスやギルド職員に聞かれるのも嫌なので、念のため魔法で室内に結界を張っておいた。風魔法で、声の振動を部屋の外に漏らさないようにする結界だ。


「父さん、ステータスを鑑定することなんだけどさ」

「どうした、浮かない顔してるな。楽しみじゃないのか?」

「いや、僕もう自分のステータス知ってるし」

「えっ、そうなのか?」


 そうして父に、僕には鑑定スキルがあって自分や他人のステータスが見れることを話しておく。

 父は真面目に聞いていたが、何かスッキリしないようだ。


「じゃあ、なんでステータス見られたくないんだよ?自分で知ってるなら良いじゃないか」

「僕のレベルさ、今74あるんだよ」

「……74か、そりゃ凄いな。俺やルーカスが勝てないわけだ」


 父は遠い目をしていた。

 模擬戦のことを思い出しているのだろうか?

 僕がそうしたいところなんだけどね。


「でもレベルが高いのは良いことじゃないか。何が心配なんだ?」

「今の僕の強さってさ、昔魔王を討伐した勇者の次くらいに強いらしいんだよね」

「凄いじゃないか」

「そんな強いって言われる人間、世間にバレたらどうなると思う?」

「……あぁ、そういうことか」

「理解が早くて助かるよ」


 父は察してくれたらしい。

 強い人間を、世間が放っておいてくれるはずないよねっていうこと。

 何か問題が起これば、真っ先に駆り出されるに決まってる。アニメや漫画でありがちなやつ。

 何より父は、僕が争いを好まないことを知っているしね。

 僕がステータスを公開したくないことを、何となく理解してくれたようだ。


「でもどうするんだ?これからバレるだろ?」

「魔法使って、数値誤魔化してしてみてもいいんだけどさぁ」

「お前そんなことまでできるのか……」

「多分できると思う。でも、ここはとりあえず公開して相手の出方を見てみるよ」

「良いのか?」

「ある程度知ってる人がいた方が、動きやすいこともありそうだしね」


 全ては話さずとも、ある程度理解してくれている協力者がいた方が良いとは思っている。

 人脈は大事だ。普段からの根回しもね。

 転生者であることを話す必要はないけど、僕が強いってことは知ってくれてた方が良い。

 強さは時に抑止力になるからね。それを使うかどうかは別として。

 それに、今後は冒険者ギルドにお世話になることもあるかもしれないからね。


「ただ父さん、僕が転生者であるってことは話さないでね?」

「それは分かってるよ」

「再会するまでのことは、よく知らないって言っといてくれればいいから」

「任せとけって」


 親子で会話していたら、扉がノックされる。

 扉を開けて、ルーカスが何か道具を抱えて入ってきた。


「お待たせしました。こちらがステータスの鑑定を行う道具です」


 ルーカスは向かいのソファに座り、間のテーブルに鑑定道具を置いた。

 A4サイズくらいの大きさの、何も書かれていない灰色の板だ。

 これが鑑定道具?どう見てもただの板だけど。


「鑑定道具には見えないでしょう?」

「……顔に出てました?」

「大丈夫ですよ。初めての方は、大体同じ反応をされますから」


 恥ずかしいなぁ。

 それにしても、ルーカスはよく見てるよね。

 僕が分かりやすいだけなのかな。


「この鑑定道具に、左右どちらでも構いませんので手を置いてください。そうすれば、エトさんのステータスが表示されます」

「分かりました」


 僕は言われたように、鑑定道具に手を置いた。

 手を置くと、道具に少し魔力を吸い取られるような感じがして、次第に淡く光って文字が表示されていく。

 僕はドキドキしながら表示されるステータスを見て、少しホッとした。



【名 前】エト

【年 齢】15

【レベル】74

【体 力】3890

【魔 力】9088

【攻撃力】750

【防御力】623

【素早さ】745

【スキル】聖属性魔法 創造魔法 武術 鑑定



 森の教会にいた時よりはレベルは上がっている。訓練は一応続けているからね。

 ただこの道具は万能ではないみたいだ。加護とか表示されてないし。

 それなら何か聞かれても、上手く誤魔化せるかもしれない。

 同じく表示されたステータスを見た父とルーカスは、鑑定道具を凝視していた。


「………」

「………」

「……あの〜?」


 ハッとしてルーカスは立ち上がり、「少々お待ちを」と言って退室してしまった。

 今度はどこに行ったんだ?

 隣を見ると、父はまだ固まっている。


「父さん?」

「お前……バケモンだな……」

「それは、褒め言葉として受け取っておこうかな」

「いや、すまん。何となく聞いてはいても、やっぱり実際に見ると驚くな」


 父は生きてきて、ここまでのステータスを見たことはないそうだ。

 父が会ったことのあるSランク冒険者も、レベル50くらいだったみたいだし。


「ここに表示されてるのが全てじゃないんだけどね」

「まだ何かあるのか?」

「加護とかそういうやつかな。この道具、全部は表示されないっぽい」

「お前、加護持ちでもあるのか……」


 父はまた遠い目をする。

 加護持ちって、かなり珍しいそうだ。それこそ王家とか、強くて有名な冒険者がたまに持っているらしい。

 見れなくて良かったよ。ステータスの数値だけでも驚かれたし。


「もう俺は、ちょっとしたことでは驚かんぞ」

「慣れてくれると嬉しいよ」


 そうしていると、再度扉をノックする音がする。

 次は、ルーカスともう一人大柄な男が入ってきた。

 父より大柄な壮年男性、熊みたいだ。顔や腕に幾つか傷跡がある。

 それぞれ向かい合って立ち、挨拶をした。


「ギルドマスターのウォーレンだ。よろしく頼む」

「エトと申します。こちらこそよろしくお願い致します」

「カトルだ。こちらこそよろしく頼むよ」


 僕達も立ち上がって挨拶をし、ソファに掛け直す。


「それでルーカス、これが問題のステータスだな?」

「はい、こちらです。エトさんのステータスです」


 そう言ってルーカスは、テーブルに置いていた鑑定道具をウォーレンに渡した。

 ウォーレンは僕のステータスをざっと見て、少し驚いていた。

 僕と、そしてステータスを何度も見比べている。信じられないものを見ている感じで。


「ルーカス、これに間違いはないんだろうな?」

「はい、間違いないかと。道具を使う様子は一部始終見ていましたので」

「そうか……」


 道具を持ったまま、ウォーレンは頭を抱え出した。

 難しい顔をしている。見た目が厳ついだけに、見ていて何か怖い。


「ここまでのステータスを見るのは、俺でも初めてだな」

「やっぱり珍しいんですかね?」

「珍しいってもんじゃねぇよ。ここまでの奴は、俺が冒険者になってから見たことねぇ。それがぽっと出の新人冒険者とはな……」


 ぽっと出での新人ですみませんね。確かに今日冒険者になったばかりですよ。

 しかし、やっぱりいないのかぁ。同じくらいの人、一人くらいいるんじゃないかって期待してたんだけどなぁ。

 そういうウォーレンは、元Sランクの冒険者だったそうだ。元冒険者かつギルドマスターの彼が言うのなら、本当なのだろう。


「ルーカスから聞いたが、聖職者なんだってな?」

「はい、精霊信仰の教会におります」

「精霊信仰か、それまた珍しいもんだな。しかし、こんなレベルになるまで何してたんだ?」

「一応教会で、色々と修行をしておりました」

「……カトル、本当なのか?」

「すまないが、俺もエトと会ったのは5年ぶりでな。俺達はクルトアにいて、村が無くなってから最近まで離れてたから、詳しいことは俺も分からないんだよ」


 父はちゃんと話を合わせてくれている。


「修行っつっても、どうやったらこんなになるんだ?Sランク冒険者ですら、ここまでの奴はいないぞ?」

「それはまぁ、剣とか魔法の先生が優秀だったと言いますか……」

「はっ、喋る気がねぇなら無理にとは言わんよ」

「そうしていただけると助かります」

「いや、無理矢理なことしたら、こっちの方が危うくなりそうだからな」


 ウォーレンの横で、ルーカスも頷いている。

 まさかこの二人も、僕のこと危険人物だと思ってる?そんな危ないことしませんからね?そちらから手を出してこなければの話だけどさ。

 変に詮索しないでもらえるのは助かるけども。


「一つ聞いておく。エト、聖職者じゃなくて、冒険者ギルドの専属要員になる気はあるか?お前ならSランクに上がるのは容易いだろうし、各地のギルドで良い待遇受けさせてやれるぞ?」

「ギルドマスター、それはいくら何でも」

「ルーカス、これはギルマスの会議にかけたところで一致するだろうさ。こいつのステータスだけ見れば、各国のギルドや王家が欲しがる人材だぞ?」

「そうかもしれませんが……」


 二人で何か話してるよ。僕ってそこまで大層な人間なんですね。

 お誘いは魅力的かもしれないけどさ……


「あの、すみません。お誘いは嬉しいんですけど、そういうのはお断りです」

「なっ!?」

「えっ!?」


 ギルド職員の二人は驚いて僕を見た。

 こいつおかしいだろって顔してますよ、お二人さん。

 そりゃあ冒険者にとっては名誉なことなんだろうけども。


「僕の本職は聖職者です。僕は、自分の役目を全うするのに役に立つと思って冒険者になったんですよ。魅力的なお話だとは思いますが、今の僕は冒険者としての名誉とか生活は求めてないんですよね。冒険者であることが僕の目的の邪魔になるのなら、申し訳ないですが登録は取り消させてください」

「悪いな、こういう奴なんだ」


 曖昧にしても仕方ないから、はっきり伝える。

 隣で父が申し訳なさそうにしているよ。


「すまない。気に障ったのなら謝る。この通りだ」

「いや、気にしてませんから!顔を上げてください!」


 わざわざ立ち上がって謝るウォーレンを見てこちらの方が慌ててしまう。

 謝罪を求めて言ったわけではないんです……。


「そう言ってくれると助かる。冒険者は荒れた奴が多いから、お前みたいな奴と話してると変な気分だ」

「そういうのはどうも苦手でして」

「聖職者だしな、根は真面目な奴が多いんだろうよ。たまに来る治癒士達も、真面目な奴が多いな」

「職業柄って感じですかね?」

「そんなもんだろう。ところでエト、聖職者も冒険者も登録して、これからどうするんだ?」


 僕はギルド職員の二人に、聖職者として先ずは王都へ、そして各国の精霊教会を回ることを説明する。

 旅する中で、冒険者登録をした方が動きやすいと提案されて登録に来たことも話した。


「じゃあ固定の街やギルドに常駐する気はないんだな?」

「はい。少しの間滞在したり繰り返し訪れることはあっても、常駐はしないと思います」

「パーティーを組むつもりは?」

「それもないですね。聖職者の活動がメインですから。常に依頼を受けているわけにもいかないですし。タイミング良く受けれる依頼があったりすれば良いかなぁって感じです」

「でも少しは依頼受けないと、登録抹消になるぞ?」

「そこは……善処します……」


 そう言うと、ウォーレンは腕を組んで考える様子を見せる。

 やっぱり冒険者としての活動は難しいだろうか?


「お前の考えてる方法だと、正直冒険者として活動し続けるのは難しいかもしれないな」

「ですよね……」

「ただ、ギルドとしてお前のことは確保しておきたい。ステータス以外にも、聖属性魔法のスキルなんざ治癒士としてなら貴重過ぎるし、他のスキルも貴重なものばかりだ。だから、お前の仕事の邪魔をしない範囲で、冒険者としても活動してほしいと思ってる。だから、一度ギルドマスター会議で話をさせてくれ」

「話ですか?」

「そうだ。正直Gランクにしておくのも勿体無いんだ。模擬戦とはいえ、ルーカスを負かすなんて並みの冒険者じゃ無理だからな。話つけてやるから、少し時間をくれ。悪いようにするつもりはない」


 何だか違う方向に話が進んでいってないか?

 登録取り消しだと思ってたんだけどな。そっちの方が楽かなぁと思ってたんだけど。


「エト、良いじゃないか。話通してもらう分には構わないだろ?」

「うーん、できるだけ内緒にしておいてくださるなら……」

「分かった、約束しよう。ギルドの上層部だけの極秘情報にしておく。ルーカスも、ここでの話は口外禁止だからな」

「分かりました」

「よろしくお願いします」


 そうして、ステータス鑑定からのギルドマスター呼び出し案件はお開きとなった。

 帰り際に「何か依頼受けるか?」と言われたが、気疲れしてしまったので丁重にお断りしたよ。

 それから教会に帰ってミケーネにも報告したら、「あんたも大変だね」と苦笑された。

 僕はどのように導かれていくのでしょうね?

 

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