25.エト、冒険者登録をする

 食事会の次の日。

 酔い潰れていた父もミケーネも、二日酔いになることなく元気に起きてきた。強いな。

 起きた父は「後でな!」と言って、仕事の当番を交代をお願いするために早々に出ていった。

 僕とミケーネは、お祈りを済ませ朝食を摂っている。昨晩は沢山食べて飲んでだったので、軽めの朝食だ。


「今日は教会のことは気にせず行っておいで」

「良いんですか?」

「昨日約束してただろう?行っておいでよ」

「ありがとうございます。行ってきますね……」

「そんな顔するもんじゃないさ。お父さんも喜んでたじゃないか、親孝行しておやりよ」


 そう言ってミケーネは、僕の背中をバシンと叩いた。

 食べてる途中だったから、思わず喉に詰まらせるかと思ったよ。

 咳き込みながら、再度何とかなるさと思うようにする。

 今朝のお祈りでも、イケメン神様とラグフォラス様にちゃんと導いてもらえるようにお願いしたし。

 朝食を終えて礼拝堂の掃除をしていたら、再び父がやって来た。


「エト、待たせたな!ギルドに行くぞ!!」

「当番、交代してもらえたんだね」

「あぁ、ガルバに言ったら『仕事なんてどうとでもしてやるから、さっさと行ってこい!』だとさ」

 

 ガルバもかなり甘いよね。

 聞くところによると、ガルバは極度の愛妻家で子煩悩だそうだ。

 見た目は怖そうだけど、家族愛の強い人だったとはね。

 だから門番達にも、「家族を大事にしろ!」と日々言っているそうだ。おかげで家庭を大事にし過ぎて仕事辞めていく人が一定数いて、万年人手不足みたいだけど。

 まぁそんなことは置いといて。

 ミケーネに見送られながら、二人で街の中心にある冒険者ギルドへ向かった。




 冒険者ギルドに入ると、中は閑散としていた。

 冒険者は朝一で依頼を受けて出かけていくのだそうだ。

 空いているなら助かる。何せ父親が一緒だからね。親を連れて登録しに来る人とかいるのだろうか?

 真っ直ぐに受付に行くと、ちょうどルーカスがいた。


「ルーカスさん、おはようございます」


 挨拶をすると、ルーカスは僕と父とチラッと見て応える。


「おはようございます、エトさん。そちらは、噂のお父様でしょうか?」

「おぅ、よろしくな!」

「まさか門番の方のご家族様だったとは」

「……耳が早いですね」

「ギルド職員として、情報収集を行うことも大事ですからね」

「そうですか……」


 この真面目なギルド職員は、どこまで情報掴んでるんだろう。秘密さえバレてなきゃいいけど。

 父とルーカスも面識はあるようだが、素性までは知らなかったようだ。簡単に自己紹介し合っていた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「こいつの冒険者登録をしてほしくてな」

「エトさんのですか?精霊教会としては大丈夫なのですか?」

「大丈夫みたいです」

「しかし、聖職者の方が冒険者登録なさるなんてこともあるのですね」

「実は僕、今後王都に行かないといけないんですよね」


 ルーカスに、簡単に事情を説明した。

 精霊とかお役目のことは言わないが、聖職者として全国の精霊教会を回らないといけないとだけ伝える。


「それで冒険者登録ですか。なかなか変わったことをされますね」

「いやまぁ、道中日銭でも稼げれば良いかなぁと」

「詳しい詮索は致しませんよ。冒険者は様々な事情を抱えている方も多いですからね」

「お前も訳ありみたいなもんだしな」

「父さんは余計なこと言わないでね?」


 父は隣で面白そうに笑っている。

 この人は、その内酔った勢いで色々と喋ってしまいそうで不安だな。


「エト様は聖職者で回復魔法が使えますし、治癒士として需要があるそうですね」

「冒険者って、職業的なものも決めないといけない感じですか?」

「そこまでは必要ないですよ。ただ、剣士や魔導士といった役割を明示しておいた方が、パーティーを組みやすいかと思います」


 特にそういうのは考えてなかったなぁ。

 ソロ活動しか考えてないから、パーティーとか組む予定無いし。


「ちなみにカトルさんは、冒険者登録はしなくても良いのですか?」

「俺はいいよ。この腕だし、今は門番仕事に満足してるしな」

「分かりました。では、エトさんの登録をしていきましょうか」


 そう言うと、ルーカスは奥の棚から紙とペン、何やか変わった道具を持ってきた。


「先ずは、こちらの登録用紙を読んでサインをお願いします。注意事項は読んでくださいね」


 そう言って紙を差し出してきた。

 冒険者の登録用紙には色々と提示してあったが、要約すると、

 ・冒険者の活動は自己責任(怪我しても死んでも責任は取りませんよってやつ)

 ・虚偽の申告や報告禁止

 ・他の冒険者に危害を加えてはならない

 ・その他、規則を破ったら処罰対象&登録抹消

 といったところか。

 ちなみに、今世エトの記憶があるからちゃんと読み書きできるよ。父が子どもの頃にしっかり教えてくれたんだよね。

 登録用紙を読んで、サインの記入欄に名前を書いた。勿論、『エト』とだけ。


「登録料として銀貨5枚頂きますが、お持ちですか?」

「げっ、お金かかるんですね」

「カトルさん、息子さんに何も言わず連れて来たのですか?」

「大丈夫だ、俺が払うつもりだったからな」


 そう言って、父がズボンのポケットから銀貨を取り出して支払う。


「確かに頂戴しました」

「父さん、ありがとう……」

「出世払いで頼むよ」

「分かりましたよ……」

「冗談だよ。お祝いだと思っとけ」


 ありがたや。

 やっぱりお金は必要だよね。


「それでは次に、こちらの道具で冒険者ギルドへの登録とエトさんのギルドカードの発行を行います。道具の受け皿の部分に、エトさんの血を一滴で良いので垂らしてください」


 ルーカスはそう言って、細い針を手渡してきた。

 えっ、そんなことすんの?痛いの嫌なんだけど?

 躊躇っていると隣の父が「怖いのか〜?」とニヤニヤしてくるから、少しイラっとして人差し指に軽く針を刺し、血を垂らした。

 少し痛かったよ。後で回復魔法かけておこう。

 そう考えていると、道具が動き出して、受け皿の先に設置されていたカードのようなものが反応した。

 少しだけ光って、文字が記入されていく。

 道具の動きが止まると、ルーカスはカードを取り出した。


「これが、エトさんのギルドカードです。お名前と冒険者ランクが記載されています。登録したばかりなので、一番下のGランクからのスタートとなります。ギルドカードを失くしてしまった場合、再発行は可能ですが銀貨5枚を再度お支払い頂きますのでご注意ください。では、こちらをどうぞ」


 ルーカスからカードを受け取る。

 運転免許証くらいの大きさの茶色いカードだ。確かに名前とランクが書き込まれてる。

 いやぁ、冒険者になるなんてファンタジーだなぁ。カードを見てしみじみする。


「冒険者のランクや依頼についての説明は聞いていかれますか?」

「お願いします」


 父から聞いても良いのだが、少し不安なのでちゃんと専門の職員に聞いておこう。

 ルーカス曰く、冒険者ランクは一番低いGランクから始まり、G→F→E→D→C→B→A→Sと上がっていくそうだ。

 ランクによって受けることができる依頼は決まっていて、自分の一つ上のランクの依頼までなら受けることができる。

 依頼は食料や薬草の採取、魔物等の討伐、商人や貴族の護衛、その他荷運び等肉体労働といった様々な依頼があるそうだ。

 様々な依頼を満遍なくこなして実績を積むことで、ランク昇格していくことができる。

 冒険者登録していても、低ランクなら3ヶ月以上依頼を受けていないと登録抹消となるらしい。上位になれば期限は長くなるみたいだ。

 うろ覚えだが、大体の内容はアニメや漫画で見たような設定と一緒だろうか。


「他に何か聞いておきたいことはありますか?」

「一つ確認なんですが、精霊教会でも身分証を発行してもらう予定なんですけど、そういう感じで他のギルドとかと重複して登録するのは問題無いですか?」

「大丈夫ですよ。こちらとしては、規則に従って依頼を受けていただければ問題ありません」

「良かった、ありがとうございます」


 それが分かって安心した。知らないうちに規則違反してたとか嫌だしね。


「冒険者登録とか懐かしいな。俺が登録したのはだいぶ前だからなぁ」

「父さんは冒険者ランクどこまで上がったの?」

「俺か?俺はBランクまで上げたな」

「おぉ、大先輩だ……」

「分からないことはいつでも聞けよ〜」


 父は自慢げに言った。

 しかし心配なので、分からないことは素直にギルドで聞こうと思った僕です。


「では、登録の手続きは以上です。他に何かございますか?」

「いえ、ありがとうございます」


 登録が終わり、席を立とうとするのを父が止める。

 何かニヤニヤしてるぞ。


「ルーカス、訓練場貸してくれないか?こいつと模擬戦したいんだよ」

「えっ!?父さん!?」

「良いじゃないか。何のために一緒に来たと思ってんだよ?」

「いやいや、前にも戦うのは嫌だって……」

「金払ってやっただろ?」


 父は悪い顔して笑う。

 これ絶対最初から企んでたやつだ。してやられた。

 お金払ってくれたのは助かるけども。


「はぁ、分かったよ……」

「よし!それでルーカス、どうだ?」

「使用状況を確認してきますので、少々お待ちください」


 そう言ってルーカスは奥へ消えていった。

 何だかお腹が痛くなってきたぞ。帰っていいかな。

 しかし、既に逃げられないよう父に肩をガッチリ掴まれてしまっている。くそっ。

 その後ルーカスは、何やら鍵を持って戻ってきた。


「昼まででしたら空いてます。これから利用されますか?」

「頼むぜ。あと備え付けがあれば剣も借りるぞ」

「分かりました。訓練用のものがありますので、そちらを使ってください。ご案内します」

「………」


 ルーカスを先頭に、ギルドから出て訓練場へ向かうことになった。

 気が乗り切らない僕は、父に肩をガッチリ掴まれたまま連行された。

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