20.父との再会
冒険者ギルドを出て、街の中央街道を歩く。
よく考えたら、中央街道を歩いていけば門に着けるはずだ。
今更言い出しても仕方ないので、セルメリアの道案内のままに道を進む。
昼過ぎのため、街道は人で賑わっていた。時々露店から食べ物の良い匂いが漂ってくる。
買い食いしたいところだが、残念ながらお金を持っていない。教会に帰ったらミケーネに相談してみよう。
あれこれと考えている内に、門の近くまでやって来た。
「エト様、あれが以前連行された駐在所です」
「ありがとう。セルメリアは本当によく覚えてるよね」
「お世話役として当然です」
セルメリアは本当に凄いよね。見習いたいところだけど、僕には多分無理。
まぁ適材適所ということで。
そんなこんなで門の近くにある、一見交番のような駐在所の前に着く。
扉を勝手に開けて良いものかよく分からず、とりあえず叩いてみる。
「すみませーん!」
「おぅ、入っていいぞ〜」
声をかけると、中から聞き覚えのある声がした。
扉を開けて中に入ると、以前事情聴取を受けたおじさん門番のガルバが座っていた。
「なんだ、お前か。久しぶりだな」
「その節はお世話になりました。今は精霊教会でお世話になってます」
「何となく噂には聞いてるよ。今日は何か用か?」
今は素性が分かっているからか、ガルバは割とフランクに話してくれる。
僕は冒険者ギルドと同じく、クルトア出身で父を探していることを伝えた。
すると、ガルバが驚いたように立ち上がる。
「お前、カトルの息子だったのか!?」
「あっ、はい。そうですけど…」
「早く言ってくれよ…。おい、案内してやるから付いてこい」
そう言ってガルバは、「ちょっと出てくるぞ!」と奥にいる門番に声をかけ、外に出た。
早足で歩いて行ってしまうため、後を追って付いていく。
反応を見る限り、父のことを知っているみたいだけど…。
僕は期待と不安で少し落ち着かなくなりながら、ガルバに付いていった。
駐在所を出て歩いて数分。
ガルバに連れられて、大きな建物の前に来た。
「あの、ここって?」
「俺達門番の宿舎だ。独り身の奴らはここに住み込んでるんだよ」
門番の宿舎なんだ。かなり立派だな。
ガルバは「ちょっと待ってろよ」と言って、中に入っていった。
建物の前で待っていると、中からドタドタと慌ただしい音がしてくる。
何かあったのだろうかと気にしていると、扉を開けて一人の男が飛び出してきた。
息を荒くし、僕を凝視している。
その男には、見覚えがあり…。
「お前……、エトなのか……?」
「父さん……」
僕の前に、記憶に懐かしい男がいた。
父、カトルだ。
今世のエトの記憶で5年前、最後に見た姿よりは少しやつれている気がするが、間違いなく父だ。懐かしい声がする。
父はしばらく目を見開いて僕を見ていた。そして、僕に近づき左手を右肩へ乗せる。
「そうか……エト……。お前、ちゃんと生きていてくれたんだな……」
父はその目に涙を溜めて、震える声で言った。
父のそんな姿を見るのは初めてだった。
そして何より、僕自身も安否を気にしていた父と会えることができてホッとしたと同時に、釣られて泣いてしまった。
5年ぶりの再会。まさかお互い生きているだなんて思わなかったようだが、会えることができたのは素直に嬉しいと思う。
後から出てきたガルバが、僕達の様子をやれやれといった感じで見ていたのだった。
☆★☆★☆
「じゃあ俺は戻るから、親子水入れずでな〜」
涙が落ち着いた頃、宿舎の中に入れてもらい父の部屋に来た。
ベッドとタンス・机があり、小さな窓があるだけのシンプルな部屋だ。
ガルバが来客用にと椅子を持ってきてくれて、そそくさと出ていった。
「………」
「………」
父と二人、部屋に残されて少し気まずくなってしまう。
正直久しぶり過ぎて、何から話したら良いのか分からない。
しばしの沈黙の後、父が話し出した。
「エト、お前、俺が村から出た後からどうしてたんだ?」
「うん、実はね……」
僕は、5年前に父がアテンシャの街へ向かった次の日に、村から追放されたことを話した。
父は、驚いた様子で聞いていた。
「くそっ、そんなことがあったのか……」
「うん、ちょっと大変だった」
「しかしお前、その後どうしたんだ?村から碌に出たこともなかっただろ?他の村や街に行くにも、距離があり過ぎるしな……」
父に追放後のことを問われ、言葉に詰まる。
何を、どう話したら良いだろうか。
転生のこと、精霊のこと、聖者としての使命のこと。
父は、信じてくれるだろうか。受け入れてくれるだろうか。
それとも、クルトアの村人達のように僕を奇異な目で見るだろうか…。
知って受け入れてほしいと思う気持ちと、気味の悪いものだと拒否されるのが怖いと思う気持ちが入り混じってしまい、言葉を返すことができない。
何より、今の僕は確かにエトだが、父の知っているエトではないのだ。
そんな困った様子の僕を見て、父が言った。
「いや、言いにくいなら良いんだ。ツラいことだったなら、今無理に思い出す必要はないさ。お前が無事で生きていてくれたことが、父さんは何より嬉しい。ずっとお前のことが心配だったんだ。最悪の場合も考えた。でも、今お前はここにいる。それだけで、十分だ」
「父さん……」
そう言って父は、子どもの頃のように僕を抱き寄せてくれた。
大柄な父ほどではないものの、今の僕はもう少ししたら同じくらいになる程度には背が伸びた。
当時のように父の体にすっぽり収まるわけではないが、父に身を預けた。少し照れくさかったけど、懐かしい感触に安心感を覚える。
「今はまだ良いさ。お前が生きていてくれるだけで、父さんは安心した。話せるようになったら、その時はちゃんと話してほしい」
「……うん、ありがとう」
父の言葉が嬉しかった。
ちゃんと僕なりに気持ちや考えに整理をつけて、話そうと思う。
父との再会が突然のこと過ぎて自分でも驚いているし、正直会えた時のことは何も考えていなかった。
「父さんも、生きててくれて良かった。僕もずっと心配だったから、会えて嬉しいよ」
「これで、お互い安心だな」
「そうだね。……ところで、父さんには何があったか聞いても大丈夫?」
恐る恐る、父に聞いてみる。
自分のことはまだ話せないけど、それでも父のことも気になっていた。
街へ着いてからのことや、村が滅亡してからのこと。どうやって過ごしてきたんだろう。
「あぁ、そうだな。俺のことも気になるよな」
「ごめん、僕のことはちゃんと話せてないのに」
「良いさ、気にしててくれたんだもんな。まずは、父さんのことから話そう」
そう言って父は、5年前のことを語り出した。
僕は静かに、それを聞いた。
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