11.クルトアの村へ
剣や体術、そして魔法を学ぶ日々。
とにかく1日が早くて、充実していた。
前世でも今世でも、こんなに充実感を得たことは無かったかもしれない。
体も頭も疲れるし、覚えることは沢山あるし、休みという休みがあるわけでもない。
それでも、夢に見た剣や魔法が使えるようになる喜びが大きく、苦にはならなかった。
教会で修行に明け暮れて半年が経つ頃。
季節は冬になり、時々雪がちらついていた。
修行に集中していたが、実はずっと気になっていたことがある。
父や、クルトアの村のことだ。
決して忘れていたわけではないんだけどね。ただ、今の僕は前世の人格の方が強いから、そこまで思い入れを感じてなかったんだよなぁ。
だけど…。
「父さん、どうしてるんだろうなぁ…」
朝、礼拝堂で日課のお祈りをしている時だった。
「お父上のこと、気になりますか?」
「あっ、すみません。声に出てましたかね…?」
考えが口に出てしまっていた。それをラグフォラス様に聞かれたようだ。
お祈りに集中していなくて申し訳なく思う。
「大丈夫ですよ。エトが毎日祈りを捧げてくれているおかげで、私は力を保っていますから。ただ最近は、少し上の空になっている時があるようでしたので、気になっていました。お父上のことだったんですね」
「はい…。今更だし、親不孝者だと思うのですが…」
「確かお父上は、貴方がクルトアから追放される前にアテンシャの街へ行かれたのでしたね?」
「そうです。そのまま会えていないので、気になってまして」
ラグフォラス様に、父のことを相談する。
「村は、別にいいんです。ショックでしたけど、今の僕は前世の人格の方が強いから、追放されたことは少し他人事って感じもあるので。ただ、やはり父のことは気になるんですよね。今世でここまで育ててくれたことには感謝していますし、凄く良くしてくれていたので…」
「そうですか。申し訳ありませんが、私にはお父上のことまでは分かりません。精霊達に頼んで今の状況を調べさせることは出来ますけれど…」
精霊に調べてもらうことも出来るのか…。探偵的な感じだろうか?
ただ、今それをお願いするのは少しモヤっとするんだよね。
「我儘なのは分かっているんですが、一度、村の近くまで様子を見に行くことはできないでしょうか?魔法でバレないようにすることはできると思うので。せめて家の様子だけでも見れればいいかなぁと…」
お願いすれば良いのかもしれないが、ただ、どうしても自分の目で確かめたい。
日々の修行のおかげで気配を消したりすることはできるようになったから、村にも入ることもできないことはないはず。
「エト、それに関しては…。いや、ご自身の目で見た方が良いかもしれませんね」
ラグフォラス様は、少し困ったような顔でパッとしない返事をする。
「いえ、必要なことですね。エト、一度クルトアへ行きなさい」
「良いのですか?ここに来てから、まだ一度も離れたことがないですけど…」
「エトなら問題ありませんよ。聖属性魔法の力と創造神の寵愛で、貴方が瘴気の影響を受けることはないでしょうし、万が一魔物と対峙しても大丈夫でしょう。念のため、ゴルドスやパメーラも一緒に行かせましょうか」
「ありがとうございます」
半年ぶりにクルトアの村へ行ける。
多少なり不安はあるが、以前の弱い僕ではないし、味方がいてくれるから安心感がある。
「今は冬ですが、どうしますか?春になってからでも良いでしょうし」
「いえ、行けるなら早く行きたいです」
「では、明日にしましょう。明日に備えて、今日はしっかり準備しましょうね」
ラグフォラス様が笑って言った。
今日はこれから魔法の訓練がある。それが終わったら準備をしよう。
そう意気込んではいたのだが。訓練が終わって部屋に戻ったら、セルメリアがガッツリ準備を終わらせてくれていた。お礼を言ったら、「それが私の仕事ですから」ですってよ。
流石だよね。僕、結局何もすること無かったよ。
翌日、いつも通り朝食を食べ礼拝堂でお祈りをした。
お祈りが終わるタイミングで、ゴルドスとパメーラが姿を現した。
「先生、今日からよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしくね〜」
それぞれ挨拶をする。
そこに、なぜかセリメリアもやって来た。
「よろしくお願い致します」
「あれ?セルメリアも行くの?」
「何を仰いますか!今の私はエト様に仕える身です。お供するのは当然でしょう!」
「あぁ…、よろしくお願いします…」
セルメリアのプロ根性は本当に尊敬するなぁ。
もちろん、彼女がいてくれたら助かるんだけど。
「全員揃ったみたいですね。セルメリア、ゴルドス、パメーラ、エトを頼みますよ」
「「「承知致しました」」」
「エトも、気をつけて行ってきてくださいね。帰りを待っていますよ」
「はい」
教会から出て、森に入る方へ向かう。
教会に来てから森に入ることが無かったから少し緊張する。精々教会周囲の開いた場所で修行していたくらいだったし。
また怖い魔物に遭うかもしれないと思うと、ゾッとしてくる。
「大丈夫ですよ。森でしたら、私の力が戻って瘴気はほぼ無くなりました。だから魔物も余程のことがなければ遭遇することはないでしょう。ただ何があるかは分かりませんから。貴方には見えている精霊達も、人間には見えませんし干渉もできません。気をつけてくださいね」
「分かりました。行ってきます」
森に入る前に、深呼吸する。
冬の冷たい空気が、鼻いっぱいに広がった。
寒くて薄っすら雪が積もっていたけど、今日はよく晴れていた。
☆★☆★☆
教会まで木々をどう抜けて来たかも、クルトアへの道も全く覚えていなかったが、セルメリアが先導してくれた。道が分かるのか聞いてみたら、「私も知りません。ただ、森の木々が教えてくれますので」とのことだった。
精霊って凄いよね。自然と対話もできるのか。
森の中は寒かったが、セルメリアお手製の防寒具のおかげで平気だ。
精霊達は、外気の影響を受けないから格好は変わらない。そのせいか寒そうに見えてしまうが、気にしてもしょうがない。だって精霊だもの。
そのまま迷うことなく林道に出て、村の方向へひたすら歩く。
林道では、商人や冒険者とすれ違うことはなかった。
僕達しかいないので、自分自身に補助魔法をかけて足を速くし、林道を駆ける。精霊達は颯爽と飛んでいる。できれば日が落ちる前に森を出たいと思っている。
早朝から教会を出て、昼頃には森を出た。
あとは、遠くに豆粒程度に見えている村を目指して駆け続ける。
村が近づくにつれて、異変が起きていることに気付いた。
「あれ…、村が瘴気で覆われてる…?」
村を黒い霧のようなものが覆っているのが見える。
瘴気が村全体を包み込んでいた。
というより、村から瘴気が放たれているように見える。村を中心として、広大な畑も見晴らしの良い平原も、薄く瘴気が立ち込めている。
村へ近づく程に、瘴気が濃くなってくる。
「村が…。これってどういうこと…?」
「クルトアの村人達の負の感情や怨念が蓄積して、瘴気になったのかもしれないわね」
パメーラが戸惑う僕に声をかけてくれる。
村人達の負の感情や怨念…。ずっと続いていた災いによるものだろうか。
追放された後、村で何があったのか。
父や村人達は、大丈夫なのだろうか。
気になることが沢山ある。
精霊達を見ると、少し顔を曇らせていた。
「そういえば、皆さん大丈夫ですか?」
「正直、あまり気分の良いものではありませんね。薄い瘴気なら大したことはありませんが、この辺りの瘴気はかなり濃いです」
「強い瘴気は、力の弱い精霊にとって毒なのよね。私達は上位精霊だから今のところ大丈夫だけど、この場所でこれだけ濃い瘴気となると、村の中は少し苦しいかもしれないわね」
そんな酷いことになっているのか。
精霊達が苦しいなら、どうしたら良いだろう…。
と、そこで考え付く。
「僕が皆さんに、バリア的な魔法をかければ何とかなりますかね?」
「そうね。防御結界を張るか、瘴気への防御耐性を上げれば良いかもしれないわ」
「やってみます。皆さん、並んでください」
平原の途中で足を止めて、精霊達に並んでもらう。
僕は目を閉じて集中し、パメーラに習ったように創造魔法のスキルを発動させる。
精霊達が瘴気の穢れから護られるように、体の周りを薄いベールで覆って身を護るようなイメージをする。
そしてそのイメージに合わせて、体内にある魔力を変換し創造していく。
「よーし!精霊達を悪いモノから護れ〜!」
イメージのままに、魔力を放出した。
目の前の精霊達を、金色に輝くベールが包んでいく。
精霊達の全身を包み込むと、金色の輝きは消えた。
精霊達は、それぞれお互いの体をまじまじと眺めている。
「これは見事な防御結界ですね…」
「これ、状態異常を完全に無効化するみたいね!凄いわ!!」
「エト様、このようなことができるまでに成長なされていたんですね…」
ゴルドスは感心し、パメーラは興味津々で、セルメリアは感動していた。
魔法は成功しているみたいだ。良かった良かった。
「これなら、村の中まで入れそうですか?」
「全然平気だと思うわよ。防御結界が瘴気を弾いてくれてるし、エト様の聖魔法の効果で何か元気も出てきたし」
どうも僕の使う聖魔法には、精霊を元気にする効果があるらしい。
ラグフォラス様もそんなこと言ってた気がするな。
「では、このまま村に行きましょう。キツいようなら、無理なさらずに」
そして再度、村に向けて駆け出した。
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