10.パメーラと、魔法の修行

 僕が個人的に剣や体術以上にワクワクしていたのが、魔法の修行だ。

 だって魔法って、それこそファンタジーの王道って感じじゃん?

 前世で好んで見ていたアニメや漫画も、魔法を主流にした作品が多かったと思う。

 剣や体でぶつかり合って戦うよりも、優雅に魔法を使って戦っている主人公を見るが好きだった。

 ゲームをプレイする時も、職業は魔法使いを選びたかったし。

 それこそ幼い頃は、自分が魔法使いになって色々な魔法を使うことを妄想したりしていたものだった。大人になってもしてたけど……。

 精霊とか神様とか、転生してからずっとファンタジー的なものは感じていたけど、僕としてはやっぱり魔法っていうのは特別な感じがするんだよね。

 そんな僕は、今日は魔法に関する授業を受けている。


「魔法を使う上で何より大事なのことは、イメージよ」


 そう言って教鞭を取るのは、魔法の先生であるパメーラだ。

 パメーラっていつ見ても不思議で、魅力的な雰囲気がある。

 精霊に年齢は関係ないとはいえ、ある時気になって聞いてみたら、「精霊であっても、女に年齢の話題はNGよ」とウインクされたのを思い出す。言われ慣れてる感ありまくりだった。

 そんな彼女の授業は、現在礼拝堂の中で行われている。

 パメーラが祭壇のある壇上で話し、僕は手前の木製ベンチに座って聞くスタイルだ。

 前世で学生だった頃の様子を思い出す。


「精霊も、この世界の人間をはじめとした生き物達も、多かれ少なかれ魔力を持っているわ。その魔力を具現化したものが魔法ね。魔法を使うには、自分の魔力を消費するの。持っている魔力量が多いほど、高度で強力な魔法を扱えるようになるわ」


 パメーラの授業は分かりやすい。流石、大賢者の杖とやらに宿っている精霊だ。

 魔法を使うと、魔力を消費する。

 扱うのが難しい魔法ほど、多くの魔力を消費するそうだ。

 消費した魔力は時間と共に回復し、寝たり食べたりと休んだり栄養を取ることで回復が促進されるとのこと。

 そして魔法には、幾つかの属性があるらしい。

 火・水・風・土の四大元素の属性魔法に、光と闇の属性魔法。そして、無属性魔法。

 四大元素の属性魔法は分かりやすいよね。火や水を扱うことができるわけだ。

 光属性魔法は、攻撃もできるが回復や補助、解呪や浄化を専門としている。

 闇属性魔法は、攻撃以外にも幻覚や呪い、状態異常を得意とするらしい。

 無属性魔法は、物を浮かしたり動かしたり、収納する異空間を作ったりと、いわゆる生活魔法とも呼ばれるそうだ。

 人間には必ず1つは属性魔法の適性があり、たまに複数適性を持つ人間もいるという。光と闇、無属性魔法は滅多に適性を持つ人間はいないそうだ。

 複数の魔法適性を持つ人間や、光や闇属性の適性を持つ人間は貴重なため重宝されるそうだ。


「パメーラ先生、聞いてもいいですか?」

「あら、何かしら?」

「先日自分のステータスを見た時にあったんですけど、【聖属性魔法】って何ですか?」

「あぁ、エト様は聖属性魔法の適性を持っていたわね。聖属性魔法は、厳密に言えば少し違うんだけど、光属性魔法と同じね。光属性魔法の上位互換と捉えれば良いと思うわ」


 パメーラ曰く、聖属性魔法は光属性魔法よりも強い癒しの力があるそうだ。ただ、光属性魔法で使えるような攻撃魔法は一切使えず、回復や浄化に特化しているとのこと。

 しかも、聖属性魔法となると適性を持っている人間はほぼいないそうだ。歴史上、勇者と共に魔王を倒した大聖女くらいだそう。今アルスピリアで持っているのは、僕くらいだろうと。

 そして、光属性や聖属性魔法は圧倒的に女性に適性が多いんだとか。

 そりゃまぁ、アニメとか漫画でも【聖女】ってよく見た気がするけどさ。

 いいじゃんね、男でも。そんなところにまでファンタジーを求めないでほしい。

 とは言っても仕方ないので、授業に集中する。


「魔法の力は、人間なら遅くても10歳頃には発現するわ。鑑定の器具があれば分かるし、鑑定のスキルがあれば分かるわね。人間で鑑定スキルを持っている人は珍しいみたいだけどね」


 僕の鑑定スキルはレアみたいだ。神様、ありがとう。

 まだ何をどこまで鑑定できるのかは分からないけど。そのうち色々試そう。


「たまに感覚的に魔法が使えるようになる天才肌の子はいるけど、大体は鑑定して知ることが多いかしらね。そもそも、適性があっても使いこなせるだけの魔力量を持っている人間は少ないの。だから魔法を使える人間は重宝されるし、魔法使いとして才能を伸ばしていく人間が多いわね。でも、ほとんどの人間は魔力が少ないから使わないままのことも多いし、そもそも自分がどの魔法に適性があるか知らないまま生きている人間も多いんじゃないかしらね?」


 そういえば、クルトアの村で魔法を使う村人は見たことなかったな。

 昔、村に来た冒険者が火や水を出すのをチラッと見たことあるくらいだ。

 魔法って、適性というよりはそもそも使えること自体が貴重なんだな。


「僕自身、前世では魔法なんて想像の世界だけのものだったから見たこともなかったですし、村にいた頃は身近に魔法を使う人がいなかったですね」

「そんな世界もあるのねぇ。私には考えられないわ。それに今世エト様が生まれた村は辺境にあったんでしょう?魔法が使える人間は積極的に街や王都に出るらしいから、その村にはいなかったのかもしれないわね」


 田舎者が夢見て上京するようなものだろうか?

 僕は前世も今世も、結構田舎暮らし好きな方だけどなぁ。

 まぁでも魔法を使える人間が貴重で重宝されるってことは、それなりのチャンスがあるってことだよね。そりゃ田舎にいるよりも都会の方に出ていくってもんだよね。


「あとは、貴方の【創造魔法】についてね」

「そう、それです。凄く気になってました」

「創造魔法については、それこそ『魔法はイメージ』という言葉を体現した高度なスキルよ。今まで持っていた人間なんて、勇者や大賢者くらいじゃないかしら?創造魔法はその名前の通り、属性に関係なく自分がイメージしたことをそのまま魔法として具現化する能力よ。イメージさえできれば、火や水も、例えば呪いだって使えちゃうわ。ただし魔法を創造する分、魔力量はかなり消費することになるけどね」


 創造魔法って凄いスキルなんだな……。

 要するに、イメージさえできれば何でもできちゃうってことでしょ?

 聖属性魔法もだけど、かなりチートっぽい気がするのだが。武術のスキルなんかもそうだけど。

 しかし、イメージか。

 前世では想像とか妄想とか大好きだったけど、そういう単純なものでも大丈夫だろうか?

 アニメや漫画で見た、術式が〜とか、構築が〜とか、元素を融合させて〜とか、僕はそんな難しいことさっぱりなんですけど。もうちょっと色々勉強しとけば良かったのだろうか。


「大事なのは、自分がどんな魔法を使いたいかをしっかりイメージすることね。特訓あるのみよ」

「……頑張ります」


 とはいえ、魔法を使うことにテンションが上がっても、やはり誰かを傷付けることに使いたくはないと思う。

 できれば、穏やかにしていたいんだよなぁ。


「僕、できれば魔法使っても人を傷付けないようにしたいんですけど……」

「それは、エト様次第だと思うわよ?だって、聖属性魔法はそもそも攻撃系の魔法ではないし、創造魔法は無限の可能性があるんだもの。魔法の属性によっては攻撃や状態異常で相手を傷付けるような魔法が主流になりがちなものはあるけど、結局は使う人間次第なのよ。自分がどうしたいかちゃんとした意志があるのなら、そのためにも頑張って修行しなさい」


 厳しくもあり優しい言葉が、僕の中に響いた。

 魔法も、そして剣や体術も、結局はそれを使う人間次第だ。

 僕の今の気持ちを大事にしよう。 




   ☆★☆★☆




 パメーラの訓練も、なかなかにスパルタだった。

 ゴルドスのように肉体を酷使することはないけれど、とにかく意識を集中し続ける必要がある。

 魔法の訓練は、坐禅を組んで瞑想し、自分の中にある魔力の存在を感知するところから始まった。

 感知ができれば、その魔力を体中に巡らせるようにする。体中に血が巡る感じで。


「エト様、初心者にしては飲み込みが早いし、魔力の扱いも上手いと思うわよ」

「ありがとうございます…」

 

 教えるパメーラは楽しそうだ。

 これも、色んなスキルのおかげなのだろうか。

 それとも、僕の想像力が豊かだから?


「はい、集中して〜」

「あっ、すみません」


 パメーラは僕の背中に手を当てて魔力の流れを観察しているらしい。

 少しの魔力の乱れでも分かるようだ。

 魔力を安定して流せるようになったら、教会の外に出たり、パメーラが魔法で大きな音を出したりする雑音が多い環境で魔力に集中する訓練をする。

 それに慣れたら、走ったり食べたりと日常生活の動いている中で魔力を感じたり集中する訓練をする。


「結構難しいですね…」

「そう?慣れよ、慣れ。意識して集中しているうちはまだまだよ。特に貴方の場合は、無意識にでも魔力を扱えるようになっておかないと、魔法をイメージして創造することに集中できなくなるでしょ?それに、危険な時は咄嗟に魔法使えないと困るじゃない?」


 パメーラも、なんだかんだ僕が旅に出た時のことを想定して訓練してくれている。

 上達できるように頑張らなきゃね。




 魔力の操作に慣れてきた頃、魔法を具現化する訓練が始まった。

 自分の中にある魔力を、イメージによって具現化する訓練だ。


「エト様は属性が関係ないから……、火でもイメージしてみましょうか」

「やってみます」


 目を閉じて集中し、体に魔力が流れるのを感じる。

 そして右手を前に出し、手の上に着火剤で火がつくのをイメージした。

 右手に魔力が集まり、体外に放出されるのを感じる。

 すると、ボッと、右手の少し上に火の玉が出現した。


「おぉ、出来た!」


 右手の上で、赤い火がゆらゆらと揺れている。

 嬉しくて飛び跳ねていたら、火はフッと消えてしまった。


「エト様、流石ね。ただ、まだ集中が途切れるとダメみたいね」

「うぅ、頑張ります……」


 まだ子どもとはいえ、精神年齢32歳がはしゃいでしまって少し恥ずかしい。

 いやでもだって、前世では夢見てた魔法が実際に使えたら嬉しいじゃん?

 内心ワクワクして、少しニヤけながらも繰り返し練習する。

 火を繰り返し出したり、大きさを変えたり、手の上で継続して火を出しているようにしたり。

 嬉しくて小一時間程ずっと練習していた頃だろうか、少しずつ目眩がしてきた。


「あれっ?頭がクラクラする……」

「あら、魔力切れね。今日はここで終わりにしましょうか」


 全身に力が入らなくなって、その場で倒れて意識を失ってしまった。

 パメーラが「あらあら」と笑って、僕をベッドに運ぶべくセルメリアを呼んだ。

 セルメリアは、ゴルドスの訓練の時のように魔法で僕を浮かせてベッドに運んでくれたようだ。




 魔力切れで倒れた次の日からも、ひたすら魔法を具現化する訓練を繰り返した。

 火を出したり、水を出してみたり、風を起こしてみたり、土を動かしてみたり。

 光を使って照明にしたり、禍々しい呪いのお札を作ってみたり。

 物を浮かせてみたり、アイテムボックス的な収納用の空間を作ってみたり。

 パメーラに助言を貰いつつ、魔力切れになるまでイメージするままに魔法を使い続けた。

 自分のイメージすることが魔法によって形になることが面白かったし、逆に上手くいかなくて悩んで悔しい思いも沢山した。

 でも、魔法を使っている時間が少しずつ長くなってきて、上手く具現化できるようになってきて、成長を感じることができるのはやはり嬉しかった。それに、魔力切れを起こすことで、魔力量が増加していくらしかった。




 慣れた頃には、パメーラとも魔法を使った模擬戦を行うようになった。

 僕が魔法を使っても、パメーラはスイスイ交わすし、時には魔法をぶつけて相殺してくる。

 土の壁を作ったり、水を鞭のように操ったり、火の矢を打ち込んできたり。

 闇魔法で幻覚や霧を出したり、光魔法で目眩しをしてきたり。

 流れるように沢山の魔法を操るパメーラの姿は、まさに僕が前世で憧れた魔法使いそのものでテンションが上がった。

 僕もパメーラのように優雅に魔法を使えるようになりたい。その一心で努力した。パメーラも、僕の勉強のために多種多様な魔法を使って見せてくれていたように思う。

 そして、日々存分に訓練をしては魔力切れで倒れてを繰り返し、セルメリアには何度もお世話になってしまった。

 しかしそのおかげで魔力量は増えてきたし。魔法も真似して色々使えるようになってきた。

 模擬戦を行うことで、魔力の操作も魔法の具現化も上達したし。

 僕自身が前世で憧れた魔法使いの姿に近付いていくことに、日々とてもワクワクしていた。


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