09.ゴルドスと、剣と体術の修行
朝食を終えて教会の外に出た。
今日は雲一つない良い天気だ。
森の奥深くにある教会だが、その周りは木々の無い開けた更地になっているので、日差しを遮るものが無いから結構暑い。
剣や体術の先生であるゴルドスは、教会を出て横にある庭で待っていた。
今日は、初めての剣や体術を学ぶ日だ。
「ゴルドス先生、お待たせしました。よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します」
夏場なのに、長袖長ズボンのきちっとした騎士服に身を包むゴルドス。
暑くないのかな?熱中症になるよ?
なんてことを考えながらゴルドスをジロジロ見ていると、
「精霊は外気の影響を受けません。心配なさらず」
「あっ、そうなんですか。安心しました」
「エト様こそ、気をつけてください」
逆に気を遣われてしまった。
ありがとうございます。
今世でも体は丈夫だけど、如何せん華奢だからな。もう倒れるのはごめんだ。
無口でお堅い印象のあるゴルドスだが、優しい一面もあるんだなぁ。
「今日から剣や体術について訓練していきますが、エト様は実際に習った経験はありますか?」
「そういうのは、今世でも前世でも全く経験無いですね……。前世で体術のようなものを少しだけ齧ったことはありますが、さっぱりでした」
前世で中高生の時、体育の授業で強制的に柔道をやらされた記憶はある。
そういうの好きじゃなかったから、嫌々受けていたなぁ。
今世の僕も、前世と同じく争いごとを好まない性格だからか、元冒険者の父から何か特別教えてもらったことはない。教わろうと思ったこともなかった。
前世も今世も、剣も体術も完全に初心者だ。
この世界では身を守る術を学ぶことは大切だと理解はしているが、それでも極力争いごとは避けていきたいと思っている。また追放みたいなことがあったり、魔物に襲われたりした時に何もできないのは嫌だしね。
前世では、日々事件事故とかニュースでやってたから簡単な防犯対策はしてたけど、平和な生活送ってたもんなぁ。
「本音を言うと、剣とか体術を学ぶのってあまり気が乗らないんですよね……。争いごとはどうも苦手で……」
「それでは、アルスピリアでは生きていけないでしょうね。特にエト様は、これから世界各国旅に出られるのですから。創造神様の寵愛の効果ですぐに死ぬようなことはないでしょうが、旅の途中で賊や魔物に襲われる可能性はあります。争いは好まずとも、護身のために身に付けた方が良いとは思います」
「そうですよね……」
避けては通れない道かぁ……。
まぁ、よく考えたら僕は自ら瘴気の中っていう危険な場所に行かないといけないわけだしね。
争いは避けるとしても、身を守るのは大事だよな。
「でしたら、人をできるだけ傷付けたり殺したりしないような方法を教えてほしいです」
「そうですか。しかしそれを学ぼうと思うのでしたら、やはり相手を殺す術を学ばなければなりません。酷な言い方ですが、剣や体術においては相手を無効化するには、殺してしまう方が簡単ですから」
「うぅ、頑張ります……」
僕は、ちゃんと学んで習得することができるか不安になってくる。
甘い、と言われたらそうだろうけど、僕にとってはそう簡単に割り切れることではないんだよね。
「しかし、エト様はちゃんと剣や体術の才能をお持ちですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「ご自身のステータスをご覧になったことはありますか?」
「いや、ないです。そもそも見れるものなんですか?」
ステータスとか、それこそアニメや漫画の世界じゃん。
イケメン神様、そんな細かいこと全然言ってなかったけど。
父も村人達も、そういうものを見てるところは見かけた記憶がないし。
「それって、どうやったら見れるんですか?」
「そうですね……。特に考えたことはありませんし、私は普通に見ることができますので……」
ラグフォラス様も寵愛があるとか色々言ってたけど、精霊達には僕のステータスが見えていたのか?
精霊って何でもできるんだな。
というか、ステータスなんて個人情報を見られてたって何か恥ずかしいな……。
「う〜ん……」
こういう時、異世界転生ものの主人公達はどうしてたっけ?
前世の記憶を手繰り寄せて、何か方法はないか考える。
そういえば、『ステータスオープン』的なこと言ってたような……。
そんなことを考えていたら、突然目の前に水色半透明の四角いウインドウが出てきた。
「うわ!?何か出た!!」
驚いてウインドウを見ると、色々と文字や数値が表示されている。
これがステータス画面というものなのかな。
【名 前】エト
【年 齢】10
【職 業】聖者
【レベル】1
【体 力】50
【魔 力】590
【攻撃力】10
【防御力】20
【素早さ】20
【スキル】聖属性魔法 創造魔法 武術 鑑定
【加 護】創造神の寵愛
「おぉ〜……」
これは感動するな……。
ファンタジーな世界に転生したことを実感する。
表示や内容に疑問は感じるけど、そもそも平均値とか分からないから何とも言えない。
「一応、見れるみたいです」
「良かったです。エト様にはどう見えているか分かりませんが、【武術】のスキルがあるでしょう?それが剣や体術の素質です。本来は剣や体術、弓等の使用する武器によって細分化されるものなのですが、エト様は訓練すれば一通りできるようになりそうですね」
「確か神様が、剣や魔法を使えるようにしといてあげるって言ってた気がします」
「創造神様に感謝しないといけませんね。武術のスキルは貴重だと思います。ただ私は魔法に関してはあまり詳しくないので、そこは後日パメーラに聞いてください」
レベルとか攻撃力とか色々数値が低く感じるが、後で細かく見てみよう。
それにしても、ここでの学びや訓練で数値は変わるのだろうか?RPGゲームなら、色々と経験すればレベルが上がって数値が上昇してくるはずだ。
「ちなみにですが、ゴルドス先生のステータスを見ることってできるんですか?一応僕、鑑定のスキルを持っているみたいなんですけど」
「私のですか?私達精霊は人間の魔法や物理による干渉を受けないので、見ることはできないと思いますよ」
「では一応、失礼して……」
頭の中で、ゴルドスのステータスを見ることをイメージする。
【名 前】ゴルドス
【レベル】86
【称 号】聖剣ゴルドスに宿る上位精霊
僕の前にウインドウが現れ、ステータス画面が表示された。
情報自体は少ないが、見ることはできるようだ。
ゴルドスって、聖剣そのものの名前なんだね。そしてレベルが高い……。
「レベルとか称号は見れるみたいですね」
「普通の人間には精霊すら見ることができないのですがね……。やはりエト様は創造神様から選ばれたお方ですし、特別なお力を持っているから見れるのでしょうかね」
ゴルドスが言うからには凄いことなんだろうけど、そもそも比較対象になる人間がいないから分からない。自分のステータスの内容もそうだけど。
そのうち教会を出たら分かるだろうか?
「さぁ、ステータスについてはこのくらいにして、訓練を始めましょう」
「はい!よろしくお願いします!」
☆★☆★☆
ゴルドスの訓練は、とにかくスパルタだった。
始めた頃は、体力と筋力を付けるためのトレーニングを重点的に行っていた。
武術のスキルがあったとしても、やはり今の僕の体は貧相過ぎて、武器や体術の訓練を行うには向かないそうだ。
そのため、教会の周りをゴルドスと一緒にひたすら走る。
石を入れたカゴを担いで走らされることもあった。
大木に登ったり、ロープで括った大岩を引かされたり。
今まで経験したことのない過酷なトレーニングに、身体中の筋肉が悲鳴を上げている。
疲れて休憩した後は、ゴルドスの用意した木製の剣で素振りをしたり。
ゴルドスの訓練が始まった最初の頃は、疲れ果てて地面に倒れて動けなくなった僕を、セルメリアが魔法でベッドに運ぶのが日課になっていた。その後はご飯も食べずに気絶したように眠っていた。
流石にご飯すら食べれないのは体に良くないと、ラグフォラス様やセルメリアがゴルドスに注意したらしい。
ある程度体力や筋力が付いてきてからは、剣や体術の基礎を教わった。
基本的な姿勢から剣の振り方や体の使い方まで、ゴルドスは座学で教えるのではなく、常に見て実践して学ばせるスタイルをとる。
経験も無いし難しいことをしているはずなのに、自然と身に付いていくのは【武術】のスキルのおかげだろうか。教わったことはどんどん体に染み付いていく感じがする。
争いごとが苦手なことに変わりはないが、日々学んだことが身に付いて成長していることが分かるのは素直に嬉しいし楽しいと思えた。
基礎を学び、少しずつ実践に移っていく。
実践として、日々ゴルドスとの模擬戦を行った。
ゴルドスはとてつもなく強い。
流石、聖剣に宿る精霊だよね。レベルも高いし。
一見、体の線は細く華奢に見えるのに、力は強いし素早い。体力も底無しで、一緒に訓練していても息を荒げるのを見たことがない。大岩なんかも軽々と持ち上げてしまう。
それに、僕の状態に合わせてくれているのが分かる。合わせてくれているというより、僕より少し強いくらいの能力で模擬戦をしてくれている気がする。
最終的にいつも一本取られて終わるから悔しい。それに、まだまだゴルドスの本気を出させることができていないと思うと、更に悔しいと思ってしまう。
ゴルドスは日々「エト様は日に日に強くなってますよ」と、いつもと変わらない涼しい顔で言ってくるが、それが更に悔しかったりする。いつかギャフンと言わせてみたい。
僕って結構負けず嫌いだったんだな。
最初は嫌だった剣と体術の訓練だけど、ゴルドスが真剣に教えてくれるし、何より僕のことを考えてくれているのが分かるから、僕も真剣に学ぼうと思って取り組んできた。
相手を傷付けるのが怖いと思って躊躇っていたけれど、僕よりも遥かに強いゴルドスが相手だからこそ、僕もその時その時の精一杯の力で、安心して彼にぶつかっていくことができたと思う。
自分が旅に出るなんてまだ想像がつかないけど、その時のために必要なことだ。
村を追放される時、男達に囲まれ何もできなかった自分。この教会を出た後、もしかしたら同じようなことが起こるかもしれない。
……嫌だけどね。
何より自分の身を守るために、アルスピリアで少しでも穏やかに生きていくために、身に付けられることはしっかり身に付けておこうと思う。
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