第13話 決着
「狸は私が」
「助かるよ」
対戦相手を決め、ブリザードラクーンの相手をウィッチキャットに任せてこちらはこちらの仕事に専念する。
ファイアフォックスの尾の帯電数は四。
あと五つ帯電させて無力化し、今度はこちらが二対一の数的有利を作り出す。
そのためにも。
「ねぇ! 自首するなら今が最後のチャンスだよ!」
「前にも言ったがお断りだ!」
「強情なんだから!」
指先二つで照準を定め、紫電の弾丸を乱発。
それに対してファイアフォックスはすでに帯電した尾を重ねて防御した。
今まで徹底して帯電した尾を使いたがらなかったけど、切羽詰まってなりふり構わなくなったか。
「警戒してたが何も起きないってことは、そういうことだよなぁ!」
「さぁ、どうかな」
振り切れたファイアフォックスは、これまでとはがらりと変わり帯電した尾を積極的に繰り出してくる。地面を突き刺し、標識を折り、瓦礫を弾く。振るわれる攻撃のすべてを回避しつつ、斥力跳躍で空へ。
同時に指先の照準を真下に向けて紫電の弾丸を再び乱発する。
「そいつはもう効かねぇって! 狙いも散漫なんじゃねぇの!」
「いいや、狙い通りだよ」
「あぁ、そうかい。でも強がりだってバレバレだぜ?」
落下の最中、ファイアフォックスは九つの尾の先に炎を灯す。
それらを一所に束ねて大火とし、激しく燃え盛らせた。
放たれるのは、俺が地に足を付けた時。
だけど、それはこちらが仕掛ける瞬間でもあった。
「言ったでしょ。狙い通りだって」
燃え盛る大火へと飛来するのは無数の氷。
「――これはッ! 狸の!」
紫電の弾丸を乱発して撃ったのは地面にいくらでも転がっている雹。
帯電化したそれを磁力で操作し、大火へと集結させた。
くべられた雹は自らが溶けることで大火を鎮火させ、発生した大量の水蒸気がファイアフォックスを包む。
「くそッ! これが狙いかよ!」
視界を奪われたファイアフォックスは即座に地面に炎を叩き付けて爆風で水蒸気を払う。
すでに俺がその頭上に跳んでいたとも知らずに。
ここからなら狙いを外さない。
指先に紫電の弾丸をとどめ、手刀の要領で振り下ろす。
紫の稲光を引いて落ちた一閃が残り五つの尾に触れて帯電化。
「狙いはこっちのほう」
「くそ、やられたぜ」
磁力で帯電化した九つの尾を操作し、ファイアフォックスを雁字搦めに拘束。
間髪入れずに拳を軽く当てて紫電を大量に流し込む。
発生するのは大地から天へと昇る逆さの稲妻。
空に吸い込まれた雷鳴が掻き消えると、ファイアフォックスの意識が途切れる。
「狐を確保。さぁ、あとは狸のほうを――」
大きな音がして振り返ると、氷の破片が雨のように降り注いでいた。
その景色の中、黒い何かが氷を打ち砕いてブリザードラクーンに絡みつく様を見る。
雁字搦めに拘束されて締め上げられ、抵抗空しく意識を搾り取られた。
意識のない体がそっと地面に置かれ、こちらも勝敗がつく。
「猫の手も役に立つでしょ?」
「だね。加勢しようと思って急いだのに。もっとゆっくりしてればよかった。なんてね」
ウィッチキャットは思ったよりもずっと強かった。
先日の手助けなんていらなかったくらいだ。
あの時は黒い何かを使っていなかったけど、なにか理由があるのかな?
まぁ、人の異能をあれこれ聞くのはマナー違反だし、想像するに留めておこう。
「紫狼。直に警察がくる。そろそろ」
「あぁ、そうだね」
撮影ドローンが下りてくる。
「やあ、みんな。今回の配信はどうだった? ちょっと苦戦したけど、ウィッチキャットのお陰で助かった! 概要欄にリンク張っておくから俺たち二人のチャンネルに高評価とチャンネル登録をよろしく! それじゃ!」
配信を終えて一息をつく。
隣を見るとウィッチキャットもちょうど配信を終えたようだった。
それからしばらくして武装した機動隊が仕事をしに現れる。
手際よく二人を拘束し、厳重な警備の中、連れて行かれた。
「また会いましたね」
「キミか。なら、今回も」
「えぇ、そういうことに」
話は終わり、警察官はすこし離れた位置にいるウィッチキャットの元へ。
こういう場合、発生した賞金は折半になる。
二人で捕まえたんだ、こっちに異存はない。
少しして向こうも終わったようで、警察官が去って行く。
「ウィッチキャット。今日はありがとう、助かったよ」
「いいのよ。いつも助けられているのは私のほうなんだし」
「ん? いつも」
「えぇ、そうよ。神月紫狼くん」
「え? は、え? 俺の、名前!?」
なんでバレてるの。
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