第12話 火炎と冷気
斥力跳躍を持って天高く跳び、足下で火炎と冷気が混ざり合って消滅する。
「ほら、弱い」
逃げる先を読んでいたのか、ブリザードラクーンの接近を許す。
その周囲にはすでに鋭い
空中なら避けられないとでも踏んだらしい。
「自己紹介? ご丁寧にどうも」
ファイアフォックスに弾かれて地面に転がったマンホールを再利用。
磁力で引き寄せて振り回し、放たれた氷柱を破壊。
「なっ!?」
一周ぐるりと俺の周囲を回って再びブリザードラクーンの側面を打つ。
上手く氷を纏ってガードしたようだけど、マンホールはそれを打ち砕いて近くの建物に叩き付けた。
「だから甘く見るなって言ったのに。まったくよぉ!」
着地と同時に身に迫る火炎を回避。
斜めに跳んでジグザグに距離を詰め、ファイアフォックスの懐に踏み込む。
「これ以上のビリビリは勘弁!」
地面に投げつけられた炎が爆ぜる。
威力は弱いが目くらましには最適。
火炎で視界が塞がっている間にファイアフォックスは間合いから離脱。
「狸! 仕事しろ!」
「うるさい」
冷気の突風に飲み込まれた。
「僕のこと弱いって言った。許さない」
「訂正したら止めてくれる?」
「許さないって言った」
「だよね」
なんて言ったものの、寒い。
すでにスーツの表面が凍結し始めていた。
このまま氷漬けにするつもりだろうけど、このスーツには紫電が流れている。
バチバチと音がするほど紫電を強め、電気の熱でスーツを温めて凍結を防ぐ。
「だったら!」
肩に衝撃が生じたかと思えば、腹に、足に、額に、次々に生じた。
この冷気の突風に何かが混ざっている。見当は直ぐについた。
「雹」
突風に氷が混じり、それが弾丸のように飛来してくる。
それも時を追うごとに威力と数を増していた。
突風と冷気で動きを鈍らせ、雹で仕留める。
よく考えられた攻撃だけど。
「要は壁を作ればいいんでしょ!」
右手を握り締め、スーツの性能をフルに発揮して道路を穿つ。
アスファルトを引っぺがして冷気と雹を遮断する壁にして攻撃を防ぐ。
「だったら俺はこうさせてもらうぜ!」
引っぺがしたアスファルトの裏にファイアフォックスが回り込む。
激しく燃える火炎を手に灯し、逃げ場のない俺へと放たれた。
「それならこっちはもう一枚!」
更にアスファルトを引っぺがし、二枚目の壁として火炎を防ぐ。
「さーて、どうしたものかな」
片方の壁には霜が張り、もう片方の壁は端が溶け始めている。
空に逃れるのは見破られているし、地面を駆けても火炎と冷気に襲われてしまう。
どちらか一方だけなら対処は出来るんだけど、二人同時だと中々うまく行かない。
数の理を生かされてる。
こうなったら捨て身になってでもどちらかを瞬時に戦闘不能にするしかないか。
「ねぇ! 捕まったらどんなケージに入りたい? 今なら特別に選ばせてあげるよ!」
「刑務所行きは御免」
「なら動物園でもいいよ!」
「余裕だな。その壁ももう持たないんじゃないか?」
霜の貼った壁には亀裂が走り、端の溶けた壁は赤熱している。
直にどちらも突破されてしまう。
狙うなら、やっぱり尾を四つ帯電させたファイアフォックスからがいいか。
「じゃあ、覚悟を決めようか」
二つの壁が崩壊する。
その寸前のこと。
「紫狼! 増援だ!」
雹が、火炎が、壁を打ち破った瞬間。
真っ黒な何かがファイアフォックスとブリザードラクーンを押し流した。
「増援?」
「紫狼の手助けが効いたのかもな」
「手助けって、もしかして」
目の前に増援に来てくれた賞金稼ぎが降り立つ。
「ウィッチキャット!」
黒い装束に、猫の仮面。
つい先日、小石を投げて手助けをした賞金稼ぎ。
「あなたに助けられたから、今度は私が助ける番。猫の恩返しよ、ヒーローさん」
「ありがたい。ちょうど猫の手も借りたいところだったんだ」
差し出された手を取って土からアスファルトの上へ。
背後で炎と冷気が爆ぜて黒い何かが弾き飛ばされると、押し流されていたファイアフォックスとブリザードラクーンが復活する。
「横入りウザ」
「あーあ、面倒なことになっちまった」
これで二対二だ。
ようやくイーブンで戦える。
「さぁ、二人とも年貢の納め時――いや、厚揚げと揚げ玉の納め時だ」
「はッ! 狼と猫に負けるかよ!」
「どっちも凍らせる」
決着を付けよう。
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