第11話 ブリザードラクーン
九つある尾の三分の一を帯電させた。
今なら地面に紫電を流して磁力で縫い付けられる?
いや、残りの尾で地面を引っぺがして脱出されるのがオチか。
重りがつく分、機動力は落ちるだろうけど、やっぱりやるなら全ての尾を帯電させてからのほうがよさそう。
それなら拘束から逃れるのに時間が掛かるし、その隙に意識を奪うことも出来る。
道のりはまだ長そうだけど焦らず一歩ずつ着実に、だ。
「ビリビリするな。毛が逆立ってしようがないぜ。これ九つ全部がビリビリしたらどうなるんだ? なにが起こる?」
「宝石なんて二度と興味がなくなるくらい素敵なことが起きるよ」
「俺としたことが興味を引かれちまうが、知らないままのほうがよさそうだなぁ!」
尾で瓦礫を弾き、足で蹴り飛ばすようにして攻撃が迫る。
紫電の弾丸を撃ち込んで軌道を逸らすと、瓦礫の後ろに隠れていたファイアフォックスが間近に現れる。
尾が帯電するとヤバいとわかっていながら、それでも接近戦を挑んでくるなんて。
てっきり遠距離から炎を投げてくると思っていたのに、ちょっと驚いた。
けど、それだけだ。
「その鎧の耐久テストに付き合ってやるよ!」
槍の如く突き出される尾。
纏めての帯電を避けるためか、その数は一。
鋭く飛ぶ尾の穂先を見切って躱し、右脚を軸に回転。
「生憎、間に合ってるんだ」
虚空を貫いた尾を掴み取り、背負い投げの要領で体を動かし、ファイアフォックスを地面に叩き付ける。
「がはっ!」
メタモルスーツの出力は人間の比じゃない。
更にもう一度、今度は勢いを利用することなく、スーツの膂力だけでファイアフォックスをアスファルトに叩き付ける。
それだけでは済まさない。
今度は自分を軸にして振り回し、建物の壁へと投げつける。
吹き飛んだファイアフォックスに為す術はなく、その体を強く打ち付けた。
ずるずると落ちて、地面に腰をつく。
「これで四本、だけど」
今ので勝負がついていてもおかしくなかった。
それでもファイアフォックスは立ち上がる。
「いてて、今のは利いたぜ。狼」
二度に渡り叩き付け、最後には壁に投げつけた。
けれど、そのいずれも勝負を決着に導くにはいたらない。
衝撃の寸前、ファイアフォックスは残りの尾で身を守っていたからだ。
流石にすべての衝撃を殺し切ることは叶わなかったようだけど。
「いいようにやられるなんてな。世の中広い。強い奴はいくらでもいやがる」
「自首する気になった?」
「いいや、逆に燃えてきたね」
手に炎を灯したファイアフォックスは、何を思ったのかそれを空に打ち上げた。
花火のように弾けて消える。それに一体、なんの意味が?
困惑していると颯太から連絡がくる。
「不味いぞ、紫狼! ブリザードラクーンがそっちに向かってる!」
「嘘でしょ、やっぱり仲間だったのか!」
空に放った炎は合流の合図。
そして、それから数秒と経たない間に冷たい空気が押し寄せてきた。
局所的に路面が凍結し、息が白く染まり、細雪が舞う。
その最中に現れたのは太く丸い尾を持った、茶髪の男だった。
「派手にやられてるね、狐。ダッサ」
「強いんだぜ、そこの狼。だからしようがない、俺はダサくない」
「ふーん。ま、いいけど。それで? そこの狼を倒せばいいの? なら、手早く済ませようよ。どうせ僕より弱いでしょ、この人」
「甘く見るな、強いって言ったばかりだぞ。二人でやる」
炎と冷気、狐と狸のコンビ。
数的不利になるのはちょっとしんどいな。
「二対一なんて卑怯だと思わないの?」
「知ってるか? 野生動物は群れで狩りをするんだ」
「こちとら一匹狼なもんで」
「一匹狼の狩りは失敗しやすい」
「だとしても狐と狸くらい楽勝でしょ」
どちらか一人だけなら話はシンプルで助かったんだけど、二人同時となると中々厄介だ。
二人はお互いのことを知っているようだし、恐らく連携も取れてる。
うっかり二人の術中に嵌まったら取り逃すどころか大怪我、最悪死ぬかも。
だけど、こうなった以上は覚悟を決めないと。
ヒーローは敵に背中を見せないものだ。
「かかってきなよ、獣狩りだ」
「その余裕、いつまでもつかな」
「手早く片付けよう。逃げる時間がなくなる」
火炎と冷気が押し寄せ、この体は紫電を纏う。
厳しい戦いになるだろうけど負けられない。
必ず勝つ。
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