第8話 炎上系配信者


「観念したか? VTウルフ」

「あんなに熱烈にラブコールされちゃね。構ってあげなきゃ可愛そうだと思って」

「はっ、その軽口も今に利けなくなるぜ」

「知ってる? 童話の悪い魔法使いが最後にどうなるか」


 スターライトの周囲に星々が浮かぶ。

 それらが流星となって迫るけれど、その悉くを紫電の弾丸で撃ち抜いた。

 磁力を帯び、互いに引き寄せ合った星々は一塊となって軌道が乱れ、歩く俺の側を掠めて行く。


「チッ、ならこれでどうだ!」


 一歩一歩、距離を詰めつつ、相手の出方を見る。

 細かい攻撃は無意味と知って、スターライトは巨星を一発だけ撃つ。

 無駄撃ちしないのは良いことだけど、こちらのやることはほぼ変わらない。

 紫電の弾丸を星に撃ち込み、側の地面にもう一発。

 巨星は軌道を曲げて地面を穿ち、俺には届かない。


「いいぞ、紫狼。スターライトの配信画面は大荒れだ。速くボコボコにしろってコメントが大量に流れてる。見ろよ、思い通りに行かなくて焦ってるぜ、あいつ」

「クソが! 遠距離がダメなら近距離で攻めりゃいいんだよ!」


 痺れを切らしたスターライトは四肢に星の輝きを宿して地面を蹴る。

 両足の星が爆ぜると共に推進力を得て加速。

 一息に距離が詰められ、右の拳が鋭く伸びる。

 けど、このくらいの速度なら今までに何度も経験してきた。

 軽く身を躱して右ストレートを回避。同時にこちらの拳をスターライトの胴体に打つ。


「ぐッ!? この!」


 続け様に迫る左の殴打を躱して擦れ違い、裏手で背中を打つ。

 予想外の方向からの攻撃におおきくよろめいたスターライトはそのまま立て直せずに地面に転がった。


「物語はここでお終い。おとぎの国に帰ったほうがいいんじゃない?」

「ほざけッ!」

「あぁ、もう」


 壁に紫電の弾丸を撃つ。

 こちらに駆けたスターライトは磁力に引き寄せられて壁に叩き付けられた。


「な、なんだよ、どうなってる!?」

「キミを二度殴って帯電させた。暫くはそこに張り付いたままってこと」

「ふざけんな! 外せ!」

「解放したら俺のこと諦めてくれる?」


 答えはない。


「やっぱりね。じゃ、あと数時間はそのままだから、脱水に気を付けて」

「待て! 逃げる気か!」

「逃がしたくないなら追い掛けてくれば? あ、そうだ。キミのドローン。ここに置いとくからリスナーにファンサしてれば退屈しないんじゃない? それじゃ」

「おい!」


 斥力跳躍で高く跳び上がり、そのまま引力飛行に移行。

 迷惑なスターライトから逃げ切った。


「ふぅー、とんだ災難。絵本の世界は素敵だけど、そろそろ卒業しないとね」

「はっはー! 聞いてくれよ紫狼! スターライトの配信、大盛り上がりだぜ。ダサいとか弱いとか情けないとか恥ずかしくないのかとか、罵詈雑言の雨あられ! チャンネル登録数も穴の空いたバケツみたいに下がってる! あいつきっともう配信なんかできないぜ!」

「わーお、ここまでするつもりじゃなかったんだけど」

「自業自得だ」


 当事者間の問題だけでは済まされないのがネットの怖いところだ。

 スターライトはほかの賞金稼ぎにもちょっかい出してたみたいだし、積もりに積もったものが弾けたって感じかな。

 こうなるとちょっと可愛そうになってくるけど、危うく怪我人が出るところだったんだ。やっぱり暫くは壁に貼り付けたまま反省してもらおう。


「それとさ、こっちは紫狼も喜べると思うぜ。なんとVTウルフのチャンネル登録数が更に増えてる」

「え? なんで? 配信してないのに」

「スターライトのリスナーがこっちに流れたんだろ。リスナーもわかってるんだ、そうなったほうが面白い、スターライトのダメージがデカくなるって」

「どうしてそんな残酷なことを」

「元々熱心なリスナーなんて少数派だったんだろ。流行り物に飛びついて貪り食ったら次の配信者へ、だ。そう言うリスナーばっかりじゃないけど、人の出入りなんてそんなもんだよ。楽しけりゃいいのさ」

「盛者必衰の理を現しててシビアだねぇ」

「ま、うちのチャンネルはどんなリスナーだろうがウェルカムだけどな。どんな理由や同期だろうとチャンネル登録は死ぬほどありがたい。たとえその後、去って行ってもな」

「それはそう。これまでもこれからも感謝しないと」


 配信者はリスナーに支えられている。

 それを忘れて自分勝手に振る舞い立ち回りを誤れば、スターライトのように愛想を尽かされてしまう。いずれバズりの効果も落ち着いて、人が増えるより減るペースのほうが多くなるかも知れない。

 その時になってようやく配信者の真価が試されるのかも。

 なんてね。


「なぁ、スターライトみたいにチャンネル登録数が急激に減ったらどうする?」

「さぁ、その時になって見ないとわからないけど、これだけは言える。俺のやることは変わらない。悲しい気持ちになったり、無力感に苛まれたりするかもだけど、俺の原動力はあくまで人助けだから」

「そうだった。聞くまでもなかったな、ヒーロー」


 後日談。

 スターライトは後日、配信を休止した。

 自分からちょっかいを掛けておいてボロ負けした挙げ句、少なからず街を破壊したことで彼史上類を見ないほどの大炎上となった。

 炎上に慣れていても、今回ばかりは堪えたらしい。 

 五分くらいの短い謝罪配信が最後だとか。

 罪悪感を感じたけど、もう危ないことをしなくなると思うとそれも薄れた。

 そんなわけで減りに減った登録数がVTウルフのチャンネルに流れたことで、登録者数はなんと予想を超えて三十万人にまで到達していた。

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