第4話 パワードスーツ


「――デザインはこんな感じでどうだ? 狼モチーフ」

「いいね、最高」

「――謎金属の変形が上手くいかないな。電気の出力加減が難しい」

「電圧測定器とかで一度きちんと計ってみるか?」

「――耐久テスト。ハンマーの振り下ろし。せーの!」

「こりゃ凄い、一ミリも曲がってないぞ!」

「――うわ、見て! 大発見! 色が変えられる!」

「塗装入らずでいいな。デザインの幅も違ってくる」

「――なんとか形にはなったけど。これ、全然動けない。肘も膝も曲がんない」

「デザイン性を優先しすぎたか。じゃあ今度はもっとスマートな感じにして機能性を上げよう。鎧とか宇宙服とかちゃんと参考にしないと」

「――ほらほら、見て。謎金属で折紙をしようと思うんだ。結構、難しいんだけど」

「それで紙飛行機か。最終的には鶴を折ってもらわないとだな」

「ガンバリマス」

「――できた。これなら腕とか足の可動域を十分に取れるはず。ほら、舟なんて折ってないで試してくれよ」

「オッケー。この舟が完成したらね」

「――ラーメン様のご到着」

「わぁい、待ってました」

「――そろそろ謎金属の名前、決めようぜ。ないと不便だし」

「液体金属か流体金属でいいんじゃない?」

「なんか普通」

「じゃあ……自由に形を変えられるから、メタモルフォーゼ……メタルモル、いやメタモルでよくない? メタルって入ってるし」

「うーん、すっごく安直な気がするけど、それでいっか」

「いいんだ」

「――微調整が終わったぞ、これで完璧。のはず」

「ここまで来るのに一ヶ月ちょいか。テイクいくつ?」

「たしかこれで百六十二回目」

「今回で完成させよう」


 折り重ねた一羽の鶴を羽ばたかせ、宙に浮かぶメタモルの塊に同化させる。

 折り鶴も折れるようになった今なら理想通りの造形を作れるはず。

 そして。


「機動性問題なし!」


 建物の屋根から斥力跳躍してビルの壁面を駆ける。


「視界良好!」


 紫電の弾丸を別のビルに撃ち込み、引力飛行。


「デザインも格好いい!」


 張り付いたガラス張りの窓に自身の造形が反射する。

 紫電を身に纏った紫銀の狼。

 機動性とデザイン性を両立させたスタイリッシュな出来だ。


「スーツ最高!」


 斥力跳躍で天高く舞い上がり、風を切って鳥の視点へ。

 街を俯瞰して眺め、着地点を決めて落下。

 斥力で落下速度を緩めてから建物の屋上に着地した。


「ふぅ。いま世界一幸せかも。おっと、着信だ」


 このスーツのヘルメット部分は、元の狼の仮面を覆うようにデザインされている。

 理由は携帯端末をスーツ内に格納し、狼の仮面と接続すれば手に持たずとも通話ができるようになるから。視界に表示された通話のアイコンに触れるだけでいい。


「もしもし、颯太」

「どうだった? スーツの出来は」

「控え目に言って最高」

「機動性に問題は?」

「ほぼない。まぁ、流石に自重が増えたからちょっと違和感あるけどね。だけど、それを補ってあまりあるよ」


 地面に片手をついて逆立ちになる。


「いつもより体が軽いくらい」

「体の動きに合わせて電気で制御してるからだろうな。パワーアシストって奴。本当に専用スーツって感じがするよな。実際、マジで紫狼にしか動かせないし」

「いい言葉だよね、専用って」


 俺だけが使えるスーツ。

 この言葉の響きだけで心が踊る人は少なくないはず。


「問題ないなら早速、お披露目配信と行こうぜ。ちょうど【ウォンテッド】から通知が来た」

「いつも思うけど、警察への通報よりアプリの投稿のほうが速いのってどうかと思うんだよね。助かってるけど」


 賞金首の情報提供サイトであるウォンテッド。

 賞金首の目撃情報から現行の犯罪行為まで、あらゆる情報が数多のユーザーから集められている。

 最近では110番よりも先にウォンテッドのアプリを開く人が増えているとか。


「まぁ、異能持ちの賞金首が相手だと警察には荷が重いし、そのためのバウンティハンターだろ。最近じゃ自前の異能部隊を編成中らしいけど」

「やっと? かなり昔から話自体はあったはずだけど。まぁ、いいや。とっ捕まえよう」

「そう言うと思ってドローンを送っておいた」

「流石」


 逆立ちを止めると視界の端にこの街のミニマップが表示され目的地までの距離と方角が表示される。まずはそちらに向けて斥力跳躍し、引力飛行に移行する。


「賞金首の情報は?」

「名前は沢渡省吾さわたりしょうご、通称ビッグコング」

「ビッグコング? なんでまたそんな――」


 耳に届く破壊音、宙に舞い上がる軽自動車。

 現場は破壊の限りが尽くされていた。


「なんとなくわかったかも」

「異能は巨大化らしい。強盗、傷害、公務執行妨害、その他もろもろ。犯罪歴の見本誌みたいだな。いま、銀行を襲ってるらしい」

「賞金額は?」

「五十万。この前のハリネズミより上だぜ」

「じゃあ気を引き締めていかないと」


 撮影ドローンが追い付いた。


「やあ、リスナーのみんな。緊急生放送へようこそ。ははー、早速コメントが賑わってるね」


 メタモルスーツの初披露。

 コメント欄は!? や、誰だお前!? とか、本物か!? などが大量に流れてくる。

 予想通りの反応で嬉しいな。


「凄いでしょ? どこで売ってるのって? 残念、非売品だよ。アパレルショップに行っても無駄だから店員さんに迷惑掛けないこと。回って? しょうがないな」


 まだ目的地までは距離がある。

 ファンサービスってことで引力と斥力を上手く使ってダイナミックに回転。

 あーでもないこーでもないって細部までデザインを拘ったんだ。

 余すところなく見てもらわないとね。


「ちゃんと見えたかな? 見逃した人は継続視聴をおすすめするよ。さて、お披露目も済んだし、今日の本題。賞金首を捕まえにいくよ、今回の相手はビッグコング! 捕まえられるようにVTウルフに応援よろしく!」


 目的地の上空にまで到着し、ひび割れたアスファルトの上に着地。

 立ち上がると丁度ビッグコングがこちらに気がついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る